>> >>特別インタビュー【1】米国株投資の銘柄選び、バリュエーション分析、売買タイミングのポイントとは?

ESGインプルーバーズ指数とは?

岡元:ESGの質問に戻ります。最近のESG投資への取り組みについて教えてください。ESGインプルーバーズ指数は、他のESG指数と何が違いますか?

ハリス:はい、私たちはブルームバーグと協働して、「ロックフェラーESG インプルーバーズ指数」を提供していますが、これは非常にユニークなアプローチです。

ブルームバーグ社はインデックス組成のプロで、私たちはESG改善のファクターを提供しています。他のESG指数はESGリーダーにのみ焦点を当てており、各種項目で高スコアの企業を見逃す可能性があります。二酸化炭素排出量が少ない、ガバナンスが良く機能しているか、などです。そうした項目は通常市場で既に認識され、バリェーションにも反映されています。

こうしたリーダーになり得る企業や改善途中の段階の企業を見つけることが、投資でα(アルファ)値の収益を得る機会となります。私たちは調査を行い、何年にもわたるバックテストを行い、ESG改善を方式化しました。

バックテストの期間は10年です。「なぜ、もっと長い期間でバックテストをしないのか」と、よく聞かれます。ESG概念が比較的新しく、最先端で、体系的なESGファクターをさらに10年分集めようとしても、20年前はそうしたデータ自体が存在しませんでした。今日あるデータですら5年前、10年前のものより良いものになっています。

しかし、10年分のデータでも十分だと私たちは感じています。改善を測定し、それを、幅広いベースのインデックスと比較して、純粋にファクター主導のベースでアウトパフォームすると思われるユニバースを作成するための基礎として使用します。このESGインプルーバーズ指数は2021年の年初に開始されたばかりの新しい指数です。

ESG投資はパフォーマンスも期待できるか

岡元:一般的な見方として、ESG投資はパフォーマンスを犠牲にするという意見があるかと思います。つまり、ESC投資は正しいことではあるものの、パフォーマンスの面では投資家にとって良いものではないという見方です。そういった意見に対して、どのようにお考えですか。

ハリス:私はその意見には賛成しかねます。まず、「ESG」の構成要素を紐解いてみましょう。

ESGの「G」は「ガバナンス」を指しますが、ガバナンスとは企業を理解するための一要素にすぎません。良いガバナンスが重要です。次に「E」の「環境」にフォーカスした多くの機会があり、環境問題が成長機会となる企業もあれば、その裏側では環境負債を負う企業もあります。あなたは確実にそれらの企業はどこかを知りたいと思うでしょう。経験則的にそれらの企業を見れば、E(環境)とG(ガバナンス)において常に高得点を獲得しています。

そこで議論になるのが、「S」の「社会」です。割安銘柄のポートフォリオは良好な成績を出しています。その大きな部分は、将来的に化石燃料がなくなってくるという現実を示唆しています。長期では下降曲線ですが、エネルギー株投資で稼ぐ期間もあります。

ほとんどのESGポートフォリオはエネルギー株のウェイトが低いか、まったく保有しないファンドもあります。従って、2014年までのパフォーマンスは低調でしたが、2014年後半、原油価格が反落に転じて以降、ESGファンドのパフォーマンスは良好です。

2014年以前は、ESGポートフォリオは石油株に対し出遅れていました。2014年以降、ESGポートフォリオはより大きなマーケットよりもはるかに良い成績を収めています。それは「本当の成長機会がどこになるのか」という理解が進んだからでしょう。直近6年、いや、それ以上の期間、ESGポートフォリオはアウトパフォームしています。

注目のESG銘柄は?

岡元:では次に、注目されているESG銘柄を教えていただけますか。どのようなプロセスや方法で会社の価値を測定されていますか。そして、初期投資を行ったら、その企業とどのようにエンゲージメントされていますか。

ハリス:ちょうどビル・ゲイツ氏が最近出版した気候変動との闘いに関する本を読み終えたところです。ゲイツ氏は数字に強い方です。私も数字を駆使する人間になりたいですが、ゲイツ氏ほどではなく、誰だって、きっとゲイツ氏ほど数字には強くないでしょう。彼は気候変動の問題を事実として列挙し、その中で気候変動問題に取り組み、最高の投資収益率を上げるには建物の断熱材を投資候補とすることを書いていました。

このことは私たちにとって朗報です。なぜなら私たちの長期保有銘柄の1つはフランスのサンゴバン(※)と呼ばれる建築用製品の企業で、建物の断熱材ではリーダー的な存在です。バイデン米政権が提案している支出案を見ると、その多くは、学校に断熱材を導入しようとしています。老朽化したインフラが多く、学校の建て替えも進むでしょう。一部は新しく建設することになるでしょうが、最も費用対効果が高いのは、これらの学校に断熱材を導入することです。

サンゴバンは景気循環株とみなされ、サイクルで株価が上下するならPERは10倍となるでしょう。私たちは数兆ドルの景気刺激策を見込んでいます。実現すれば多くの資金が断熱材に配分されます。5〜10年の収益成長の見通しがあればPERが大きく拡大し、株価は数年後に上放れるのをこれまでに見てきました。株価は本当に私たちが非常に良い成長機会だと思ったものを織り込んでいませんでした。今、市場はそれに気づき始めており、株価にはまだ上昇余地があると思います。成長性を評価していますが、依然として市場平均PERを大きく下回っています。

もう1社、別の切り口として注目しているのはTEコネクティビティ (TEL:US)です。電子機器向けのコネクターを製造している企業です。ステレオ・レシーバーやコンピューターなどで使われています。しかしTEコネクティビティにとって最大の市場は自動車で、自動車の中では多くのコンピューターが使われるEV(電気自動車)です。

半導体不足について聞かれたことがあるでしょう。実に多くのコンピューターコンテンツが自動車で使われています。ですので、割高なEVの代表銘柄を避けつつ、EV関連株としてTEコネクティビティに投資することができます。TEコネクティビティの成長は長期にわたって続くと見ています。業界統合が進み、数社が業界を牽引しており、競合企業がほとんどありません。

第2または第3の派生的な手法をとるのは時期尚早で、私たちはEVが長期的な成長のテーマになると見ています。TEコネクティビティはニューヨーク証券取引所、サンゴバンはフランスで上場しています。

岡元:非常に興味深いです、有難うございます。

長期投資における企業の四半期決算の考え方

岡元:さて、今回のハリスさんへのインタビューに際し、日本の個人投資家から質問が届いていますので、お答えいただけると嬉しく思います。

最初の質問です。長期投資を行う場合、四半期決算はどれぐらい重要ですか。長期の成長ストーリーが不変であっても企業の決算が悪いと売却する人もいますが…。

ハリス:先のポートフォリオ構築の話(こちらを参照ください)でも触れましたが、企業の四半期決算の数字が悪く、市場がそれに過剰反応した場合は、むしろ良い買い場となることがあります。

長期的に成長が見込める企業でも、四半期で悪い決算になることは、よくあることです。会計を上手く管理し、常にEPSで1-2セント市場予想を上回る企業に対しては懐疑的になるべきです。私たちの投資先企業においても、時には厳しい四半期となることがあります。そういった場合、「これは買い増す投資機会なのか」と、注意深く見ています。

四半期決算は私たちにとって、短期的な市場の非効率性を味方につける機会と考えています。多くの投資家が四半期決算に重点を置きすぎているように思います。

個人投資家は規律を持って、自信過剰にならないこと

岡元:個人投資家と機関投資家のメリットはそれぞれ何だと思いますか?

ハリス:個人投資家はしばしば鋭い洞察力を持っていますが、自信過剰にならないことが重要です。

多くの場合、投資アイデアを持った人々がしばしば登場し、あなたはあらゆる方面から良いアイデアを得ることができます。個人投資家の多くは、現在、市場と上手く調和できていると思いますが、いつでもそうとは限りません。そして、マーケットが上昇している時に自信過剰となりがちです。

そして私が思うに、現在の環境の最も怖い部分は、お金を稼ぐことが簡単になりすぎていることです。多くの個人投資家が入ってきて、米国のミーム株(ネットで拡散された情報で取引される銘柄)で奇妙なアノマリーが見られます。機関投資家対一部の個人投資家の行動について懸念しています。おそらく視聴者の皆さんも、そう感じてらっしゃるのではないと思います。

機関投資家であることの利点といえば、非常の多くの有益な情報が入ってくることです。しかし、裏を返せば、それを実行するにはあまりにも多くの資産がある場合、個人投資家ほど敏捷に動けません。そして、あまりにも頻繁にトレーディングを行うことには注意したいと考えています。

もしあなたが個人投資家なら、旬なテーマに乗るためのトレーディングが周囲に溢れ過ぎている、と私の目には映ります。長期投資をしましょう。規律を持って、フォーカスしましょう。頻繁にトレーディングをすることは、お勧めしません。おそらく間違った行動を取ってしまうからです。下落局面で売り切り、高値近辺で買ってしまう。それらのことを正しく行うのは非常に難しいことです。

※マネックス証券では、サンゴバン(SGO:FP)の取扱いはしておりません。

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本インタビューは2021年4月22日に実施しました。