直近の価格動向
J-REIT価格は、乱高下が続く株式市場とは異なり安定的な値動きとなっている。東証REIT指数は、3月から4月上旬にかけての急速な上昇基調が続いているわけではないが、5月11日には年初来高値となる2,071ポイントまで回復した。利回りが低くなっている物流系や住居系に続き、出遅れ感のあったオフィス系銘柄の価格回復基調が続いていることが、価格上昇に繋がっている。
TOB価格の引き上げ
さて今回は、4月8日のコラムで予告した通り、4月2日に公表された外資系のスターウッド・キャピタル・グループ(以下、SCG)によるインベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人(証券コード3298、以下IOJ)に対する全投資口を対象とした公開買付(以下、本TOB)について、その後の経過と影響について記載する。
IOJ側は4月15日に本TOBに対する意見表明を留保するとした上で、SCG側にTOB期間の延長と本TOBに係わる質問書を提出。これに対しSCG側は4月23日にTOBの期間延長を拒否し、質問書に対する回答を行った。
回答を受けてIOJ側は同日に金融庁などに本TOBの禁止または停止の命令を裁判所に対して申し入れることを内容とする申入書を提出した。裁判所に対して申し入れを依頼する理由としてIOJ側は主として、本TOBに対して応募しなかった投資主のスクイーズアウト(端数投資口になることで、持分に応じた金銭の交付となる)が予定されているが、投信法上は想定されておらず認められないことを挙げている。
さらに5月6日には、IOJ側は本TOBに対し反対の意見を行うと共に、スポンサーに対し本TOBに対抗する買付けの要請を行った。IOJ側のプレスリリースに拠れば(※1)、スポンサー側は対抗買付けを実施する意向があるとしている。
SCG側はIOJ側が反対の姿勢を明確にし、スポンサーに対して対抗買付けを要請したことを受けて本TOB価格を当初の20,000円から21,750円に引き上げた。この価格引き上げは、本TOBを公表した4月2日以降、IOJの価格が当初TOB価格を上回って推移したことも影響していると考えられる。
また当初は本TOBの成立条件を全投資口の2/3以上としていたが、55%強に修正した。これは、ETFなどのパッシブ運用の投資主が存在するためIOJが上場している中で本TOBに応募できないことを考慮して変更している。
一方で本TOB期間は、当初の予定通り5月24日までとしている。従って前述の裁判所に対する申入れが実現しない場合には、本TOB期間の最終日に当たる5月24日に成否が明確になりそうだ。
既存投資家との対話がより必要な市場へ
J-REITは一般の事業会社とは異なり、会社独自の製品開発など将来の収益を大幅に飛躍させる事業体にはなっていない。また従業員を雇用しない仕組みになっているため、従業員保護という「名目」も反対意見とすることができない。
さらに本TOB価格は、IOJの上場来の平均価格(14,526円※2)を大きく上回るものとなっている。またIOJの価格が本TOB価格を上回って推移していた時期は2014年6月の上場以降、コロナショック前の2019年9月から2020年3月初旬だけであった。
つまり多くの投資は、本TOBに応じることでキャピタルゲインを実現できる状態になっている。加えて本TOB価格は、不動産の含み損益を反映した1口当たりNAVも上回っている。少なくとも投資家から見て、積極的に本TOBに対して反対する理由がない状態とも言える。
従って、本TOBがJ-REIT市場全体に与えるプラスの影響は、既存投資家との対話を継続的に行っていく必要性を銘柄側が強く意識する契機になる点と考えられる。
少なくとも既存投資家の1/3以上が各銘柄の運用を評価し、キャピタルゲインではなく長期的なインカムゲインを重視することでTOBに反対するという状態を維持する必要があるためだ。
(※1)インベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人による5月6日付け「公開買付けに対抗するための買付け要請に関するお知らせ」
(※2)IOJの上場(2014年6月2日)から2021年3月31日までの終値平均