時価総額で見ると今の日本市場は過去最高

2021年3月末、東証一部上場銘柄の時価総額は700兆円を超えました。2020年3月末は530兆円、2019年3月末は600兆円弱でしたので、新型コロナウイルス感染拡大の影響が大きかった2020年3月末から見て上昇しているのはもちろんですが、2019年3月末からでも2割程度上昇しているということになります。

バブル経済最盛期の1989年末の時価総額が600兆円弱で、これを更新したのが2015年5月だったようですので、株価指数の最高値更新はまだ先ですが、時価総額で見ると今の日本市場は過去最高、バブル最盛期と比較しても2割程度上昇しているということです。

東京証券取引所では東証33業種と呼ばれる、東証の業種分類ごとの時価総額を月次で発表しています。この業種別時価総額は日本経済の姿を理解する上で参考になります。2021年3月末の時価総額は東証一部銘柄が正確には723兆円です。それに対し、東証二部銘柄が6兆円、マザーズ銘柄が9兆円、JASDAQ(スタンダードとグロース)が11兆円です。その他の市場を合わせた東証の合計が748兆円ですので、東証の96.5%は東証一部であるということです。

東証33業種で最も時価総額が高い業種は?

それでは、その33業種で最も時価総額が高いのは、どの業種でしょうか。トヨタ自動車(7203)の印象が強く、「輸送用機器」と想像されるかも知れません。実は、輸送用機器は61兆円で第3位です。ちなみに第4位は化学(52兆円)、第5位がサービス業(45兆円)、第6位は小売業(43兆円)です。機械(37兆円)や銀行(33兆円)、精密機器(15兆円)よりサービス業や小売業のほうが大きいというのは意外だと感じられる方もいるかも知れません。そして、2位が情報・通信業で82兆円、1位は114兆円の電気機器です。時価総額で見ると、「日本株式会社」の総本山は電気機器だということになります。

「日本株式会社」、「総本山」などという古風な言い方をしたついでに、銘柄コードの「格」の話をしましょう。かつて、「01(ゼロイチ)銘柄」という用語がありました。これは、国内の4桁の銘柄コードの設定方法で、上2桁が業種を表し、下2桁が銘柄コードの付与順につけられていたからです。一般に「・・01」という銘柄コードの銘柄はその業種を代表する企業であったため、「好景気なら、まずは「01銘柄」を買うべし」などと言われていたのです。例えば、日本製鉄(5401)、大成建設(1801)、サッポロホールディングス(2501)、帝人(3401)、日本郵船(9101)、東京電力ホールディングス(9501)、三井不動産(8801)などは典型的な「01銘柄」でしょう。ちなみに日本銀行も銘柄コードは「8301」です。

その「01銘柄」も統合などが相次ぎ、「01銘柄」ではない企業の台頭も多く、国内の時価総額順位を改めて見てみると、30位以内には伊藤忠商事(8001)と日立製作所(6501)が入るのみです。銘柄コードの採番履歴をまとめた「証券コードブック」という書籍がありますが、社内を回ってもどうも見当たりません。電子化されてしまい、紙媒体はなくなってしまったようです。同書では、三井鉱山、帝国石油、製薬の三共、日本石油など往年の「01銘柄」も確認できます。

さて、電気機器の話に戻りましょう。電気機器の銘柄コードは6500番台から採番されています。6500番台の銘柄は重電と呼ばれ、もともと発電所機器の製造などを発祥とするような企業が中心です。典型的なのは富士電機(6504)の電話部門を発祥とする企業が富士通(6702)で、富士通の制御装置部門が独立したのがファナック(6954)という例ですが、日本の電気機器の源流はこの6500番台にあると言っても過言ではありません。

その6500番台の御三家が日立製作所(6501)、東芝(6502)、三菱電機(6503)です。現在の経団連会長は日立製作所出身者ですし、東芝は旧経団連の会長、役員を多数輩出しています。三菱電機は三菱重工業との関係もありそうですが、この3社は歴史的に見て、まさに日本経済の中核です。

東芝とアクティビストの対峙が再燃

その中核である東芝が再びアクティビストと対峙しています。実は2020年も本連載で東芝とアクティビストの対峙についてご紹介しています。

経営再建中の東芝に投資するアクティビスト(2020年7月7日)
株主提案をめぐる東芝vsアクティビストの対立。その背景は?(2020年7月10日)
東芝株主総会の結果とアクティビストの動き(2020年8月4日)

様々な問題から一時は経営危機に陥り、東証二部に降格していた東芝ですが、半導体子会社など魅力的な資産を保有しており、既存事業も継続的な利益をあげている投資対象として魅力的な企業でした。特に、経営危機のさなかにアクティビストらを含む第三者割当増資を行い、(会社側から見ると)株主構成が安定していなかったことから、アクティビストが様々な声をあげ、2020年の株主総会(コロナ禍の影響で7月に開催)では、アクティビストが株主提案を行っていました。その株主総会では会社側提案がいずれも可決されましたが、アクティビスト側との差は大きくなく、東芝は株主への歩み寄りを見せていました。詳細は2020年8月4日付の記事をご覧いただければと思います。

【図表】東芝を巡る動き
出所:筆者作成

その後、東芝は2021年3月に臨時株主総会を開いています。これは東芝に投資する米ファンドのファラロン・キャピタル・マネジメントが招集したものでした。同社は上記2020年の株主総会でもアクティビストの株主提案に賛成票を投じたとされています。そして、この3月の臨時株主総会ではアクティビスト側の提案が可決されました。この結果は「画期的」とされ、広く報道されています。詳細は2021年3月30日付の記事をご覧ください。

つまり、もともとアクティビストが投資家として存在感を持っていた東芝は2020年の株主総会こそ辛くも会社側提案を通せたものの、この3月の臨時株主総会ではアクティビストの提案が通ったということです。

東芝は3月決算会社ですので、このあと6月には定時株主総会が開催される見込みです。この定時株主総会では取締役の選任などを行いますが、会社側にとって「痛恨の一撃」などと称された3月の臨時株主総会を経た後では、会社側の想定通りに進むかが怪しいと言えましょう。そういう風雲急を告げる中で、ご存じの通り、東芝に対し買収提案が出て、株式を非公開化するという報道が出てきたのです。

ここまでで「会社側にとって」などと書いているように、「株主構成の安定」、「痛恨の一撃」という言葉は東芝、いえ、正確に言うと東芝の現経営陣を主語にした言い方です。これらの動きは現経営陣にとっては「痛恨の一撃」かもしれませんが、アクティビストなど(投票結果からすると)過半の株主にとっては「会心の一撃」でしょう。この動きを経て東芝株価も大きく上昇しているので、ほとんどの株主にとっては「福音」であるとさえ言えるのかも知れません。そもそも、企業における株主の立場を考えると、「会社側」という言い方自体がおかしな言い方かもしれません。(一般に現経営陣を「会社側」とされるので、分かりやすさのためにこの書き方は仕方ない面もありますが…)

東芝に限らず、3月決算の企業が多い日本では、これから株主総会シーズンを迎えます。株主総会は企業にとっての選挙であり、議決権を行使することは投票と言えましょう。株主である個人投資家の議決権行使はその企業やひいては経済を良くすることにつながると言ってもいいでしょう。個人投資家の方は、これからお手元に届く株主総会の案内をよくお読みになり、ぜひ議決権行使を行っていただければと思います。

そして、「日本株式会社」の中核である東芝を巡る直近の動きからは今後の日本経済の動きが見えてくるかもしれません。次回以降、直近の動きをより詳しく見ていきましょう。