アフリカ大陸における電子商取引(EC)サイト最大手のジュミア・テクノロジーズ(以下、ジュミア)でIRや経営企画の責任者を務めるサファエ・ダミールさんにインタビューを行いました。彼女は以前、J.P.モルガンで投資銀行部門のエグゼクティブ・ディレクターを務めており、12年間、消費者&リテールアドバイザリーチームの一員として活躍、その後はエマージング・マーケットを担当していました。ジュミアの戦略や今後の見通し、アフリカにおけるビジネスの課題やソリューションについてお話しいただきました。
ジュミアの中核は独自の物流網によるマーケットプレイス
岡元:フランスのル・モンド紙がジュミアを「アフリカのアマゾン」と表現しました。これは、最大の賛辞だと私は思います。ジュミアの設立の背景やビジネスについてお話いただけますか。
サファエ:私たちは潜在的市場に着眼し、ジュミアを創設しました。アフリカは巨大な大陸で人口は13億人強、インターネット利用者は5億3千万人と巨大な基盤があります。また、SNSやモバイル利用者は1700万人です。
BtoBを含めた利用世帯の合計は4兆ドルにも及びます。ですから、アフリカ大陸には極めて大きな消費者市場があります。しかし、メーカーやブランドに「アフリカで直面している問題は何か」と聞くと、「ディストリビューション(輸送・配送)」という答えが返って来ます。
アフリカではディストリビューション(輸送・配送)が非常に断片化しています。バリューチェーン内に複数の仲介者があるため、消費者は製品の選択肢が非常に少なく、かつ非効率から生じるコスト負担を強いられています。
このような背景から、私たちはeコマース事業の立ち上げに最適な環境だと思いました。つまり、消費者が便利で手頃な価格で商品やサービスにアクセスするのを支援するeコマース事業です。発送者や中小企業がスムーズに消費者にリーチするのを支援し、アフリカ大陸に有意義で持続可能な影響をもたらすことができると思いました。
そして、今やジュミア自体がマーケットプレイス(市場)になっています。ジュミアの中核はマーケットプレイスであり、独自の物流網によって支えられています。
デジタル決済サービス「ジュミア・ペイ」
サファエ:デジタル決済のインフラも整っています。ジュミアのマーケットプレイスでは、消費者の方々がスマホで幅広いラインアップから商品を選んでデジタル決済で購入できるサービスを提供しています。
例えば、スマホで電気製品、ファッションアイテムや食料品も買えます。また、近隣のレストランから注文できるデリバリー事業も運営しており、確実に配達されるようモニターしています。その他にも通話料金、公共料金や学費などをデジタルで支払えるサービスも提供しています。様々な買い物の場面に対応することで、購買者の獲得や接点拡大を促進しています。
ジュミア設立時、物流面で消費者は確立されたラストワンマイルの配達インフラの恩恵を受けていませんでした。そこで、私たちは、消費者に配達の最前線でシームレスな体験を提供できるよう、独自の物流プラットフォームを構築しました。
同様に、アフリカの11ヶ国でまだデジタル決済のソリューションがなかったので、支払い時のプロセスを円滑にする「ジュミア・ペイ」の構築に取り組みました。
基盤となるデジタル決済の多様性があるアフリカ諸国において、事業を展開している各国でジュミア・ペイのシステムを統合しました。
私たちはアフリカ54ヶ国のうち、11ヶ国で事業を展開しており、6億人の消費者にリーチできます。それは、アフリカのインターネット利用者の約7割、アフリカのGDPの7割以上に相当します。アフリカ圏における拠点はマクロ経済の観点からの多様性、また倫理的な観点からも大きな資産であると考えています。
メーカーやブランドでの話で既に言及しましたが、アフリカのディストリビューション(輸送・配送)はまだ非効率な部分が多く見られます。メーカーやブランドにとっても、1社と組むことで、11ヶ国への鍵が開かれることはとても魅力があります。これはアフリカ圏全体での事業展開において、価値のある提案であり、非常に満足しています。
ジュミアのビジネス規模と戦略
岡元:では、ジュミアのビジネス規模と私たちが念頭に置くべき重要指標を教えてください。例えば、GMV(流通取引総額)、稼働消費者、稼働販売者などです。
サファエ:2020年の数字をお伝えしましょう。ジュミアのGMVは約10億ドルで、プラットフォーム上の稼働消費者は680万人、稼働販売者は11万社でした。ジュミア・ペイを通じてのデジタル決済はプラットフォーム上の取引の約35%でした。
岡元:なるほど。それでは、ジュミアの競合企業、または比較対象企業を教えていただけますか。もちろんアフリカでもアマゾンは強力な競争相手だと思いますが、現地に競合企業はありますか。また、ジュミアの競争優位性についても教えてください。
サファエ:アフリカ全体で見ると、私たちが唯一のeコマース事業者です。ただ、アフリカ各国ごとに競争企業があります。
例えば、南アフリカ共和国は小売市場のダイナミクスという点では、他のアフリカ諸国と大きく異なっています。商品やサービスへの基本的なアクセスは、南アフリカでは当てはまりません。
南アフリカは、現代的な小売業と昔ながらの商店が混在しています。現代的な小売業者にとって競争が激しい市場であり、自分たちのオムニチャネル戦略を持ち、eコマースへの野望を持っています。
私たちがビジネスを立ち上げた時には、既にeコマース業者が参入しており、ナスパーズが占有していました。ですから、私たちの南アフリカでの戦略は、ファッションとアパレルのカテゴリーに焦点を当てることにしました。そして、同カテゴリーで非常に強いポジショニングを構築しました。
私たちが競争したもう1つの市場は、北アフリカのエジプトです。そこで、中東のインタ-ネット販売会社「スーク・ドットコム(Souq.com)」と競合しましたが、彼らは約3年前にアマゾンによって買収されました。
スーク・ドットコムの重要拠点は主に中東と湾岸諸国です。アラブ首長国連邦とサウジアラビアは、人口統計学的ダイナミクスにおいてエジプトとは非常に異なる市場です。しかし、私たちはそこに強いプレゼンスを持っており、アマゾンと2社の寡占的市場になりました。
アマゾンとの差別化
サファエ:アマゾンとのビジネスモデルの違いは、マーケット戦略です。私たちのプラットフォームの販売商品は第三者が売主です。それに対し、アマゾンは契約当事者モデルです。彼らが購入、販売、売る商品を選択するのです。
またアマゾンは、デジタルプロポジションも提供しています。私たちは物理的な商品のプラットフォームを提供しているという意味で、デジタル決済もご利用いただけます。
先述の通り、デジタル決済アプリで通話料金、公共料金、請求書などを支払えるサービスを提供しています。つまり、私たちは物理的な商品のeコマースだけでなく、幅広いデジタルサービスを提供しているのです。
そして最近では、食料品のデリバリーサービスを開始し、まさに広範囲なデジタル・エコシステムを築いています。
さらに、アフリカ最大のマーケットであるナイジェリアでは、eコマースにおいて圧倒的なナンバーワンのポジションを築いており、ちょっと異色ですが広告プレーヤーでもあります。
しかし、競争激化の市場と言えば、やはり南アフリカとエジプトでしょう。
ツールを活用し、価格競争力を発揮
岡元:ジュミアでオンライン購入する場合と、地元のお店で買う場合の価格には差がありますか。
サファエ:価格は消費者に購入していただく上で、重要な決定要素ですので、私たちは消費者に競争力のある価格を提供することにフォーカスしています。
私たちは商品のカテゴリー毎に複数の販売者を持ち、競争を促進し、常に消費者にベストな価格を提供するようにしています。実際、私たちのマーケットプレイスモデルでは、競争の緊張感が作り出されるようになっています。そして、消費者の方々にとってベストな価格を導きます。
また、消費者を獲得するため、多くの商品価格のリーダーシップとるよう取り組んでいます。例えば、私たちは「フェニックス」という名前のツールを持っており、それを使ってジュミアと他社で売られている価格を比べ、ベンチマークを作っています。このようにして競争優位性を保てるよう常に取り組んでいます。
ベストの価格を導き、私たちのプラットフォーム上で価格競争力を発揮するとともに、しっかりと規律も保っています。つまり、経済に悪影響を及ぼすようなリベートなどの方法で購入を助長しようとは考えていません。
利益を保つことに規律がありますが、第三者の販売者間の競争を促進するようにしています。
>> >>特別インタビュー【2】巨大市場アフリカに潜むビジネスの課題とソリューション
本インタビューは2021年3月25日に実施しました。