激変期を迎える米自動運転セクター
米国の自動車産業が大激変期を迎えている。EV(電気自動車)はもちろんのこと、自動運転をめぐる技術開発は現在、最もホットな分野の1つと言えるだろう。既存の自動車メーカーに加え、圧倒的な資金力を持つGAFAMが参入している。自動運転車はAIとソフトウェアなどの技術が決め手となるため、既存の自動車メーカーに代わり、ハイテク企業が優位性を発揮しやすい分野でもある。
自動運転業界では2020年から2021年にかけて買収が相次いでおり、業界の勢力図に目まぐるしい変化が起きている。中でも、アマゾン(AMZN)が出資する米「オーロラ・イノベーション」は2020年12月にウーバーの自動運転部門であった「ウーバー・アドバンスト・テクノロジーズ・グループ(ウーバーATG)」を買収したのに続き、3月に入り、ライダー企業である「アワーズ・テクノロジー」の買収を発表するなど攻勢を強めている。
オーロラ・イノベーションは2017年創業で、ソフトウェア、ハードウェア、データサービスを統合して、乗用車、小型商用車、大型トラック向けに自動運転を可能にするプラットフォーム「オーロラ・ドライバー」を開発している。セコイア・キャピタルやアマゾン、Tロウ・プライスなど著名なベンチャーキャピタルや企業、投資運用会社からの出資を受けているスタートアップだ。
創業メンバー3人は自動運転業界で豊富な経験を持つベテランで、自動運転分野の「オールスターチーム」と呼ばれている。創業直後に独フォルクスワーゲンや韓国の現代自動車などと提携を決めたことでも知られている。
創業メンバーのスターリング・アンダーソン氏は、テスラでモデルXと同社のオートパイロットプログラムの開発・製造責任者を務めていた人物で、クリス・アームソン氏はグーグルで自動運転プロジェクトの責任者を務めていた。そしてドリュー・バグネル氏は、カーネギーメロン大学准教授で、元々、ウーバーの自動運転技術の研究立ち上げを支援し、ピッツバーグの先進技術センターで自動運転に関する技術の研究チームを率いていた経歴を持つメンバーだ。
オーロラは2019年以降、前述の2社以外にも、自動運転向けのシミュレーション技術の企業など計4社を買収しており、ウーバーATGを買収した結果、トヨタやデンソーとも長期にわたるパートナーシップ契約を結んでいる。トヨタの車に「オーロラ・ドライバー」を搭載させ、2021年末までに自動運転車の開発とテストを行なう計画だ。
ウーバーATGを買収した時点の企業価値は100億ドル規模と推計されており、ユニコーンを超えるデカコーン入りを果たした世界有数のスタートアップに成長している。デカコーンとは、企業の評価額で100億ドル(約1兆600億円)を超える巨大未上場企業のことで、世界に20社ほどしかない。オーロラは未上場ではあるが、業界の話題においてはこれからも度々名前が出てくる注目企業である。
しのぎを削るハイテク各社の動向
次にハイテク各社の動向を見ていこう。アップル(AAPL)は自動運転車開発プロジェクト「タイタン」を進めてきたが、これを商用化し、アップルカーを投入する計画だ。2019年6月には自動運転開発を手掛ける米スタートアップ企業を買収した。アップルは2017年からカリフォルニアの本社周辺で公道走行試験を続けており、現在は70台近い試験用の車両を登録している。
アップルカーをどの企業が受託生産するのかをめぐって韓国企業の名前も取り沙汰されていたが、結局、韓国企業が報道を否定した。その一方で、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が3月16日、同社初となるEV工場を北米に建設する方針を明らかにした。鴻海と言えば、iPhoneの大量生産で成長してきた会社である。
鴻海は年内にも建設地を最終決定し、2022年に着工、2023年には新工場が完成する見込みだとしている。供給先については明らかにしなかったが、鴻海がアップルカーを受託生産すると考えるのは当然の流れだろう。鴻海はこの報道について「臆測だ」と述べているようであるが。
マイクロソフト(MSFT)はクラウドプラットフォーム「マイクロソフトアジュール」を使い、自動運転車向けのクラウド開発を進めている。自動運転分野では、コネクテッド技術をはじめネットワーキング、コンピューティング、ストレージ、データ取り込み、データ分析、認知サービス、機械学習、AI、シミュレーションといった幅広い開発をサポートするソフトウェアやアプリを円滑に開発・稼働させるための基幹インフラとなるものだ。
既に日産・ルノー連合、BMW、ボルボカーズなど複数の自動車メーカーがアジュールベースのソリューションを活用している。さらに、マイクロソフトとドイツのフォルクスワーゲンは2月、自動運転ソフトウェアの領域で提携すると発表した。両社は2018年から、フォルクスワーゲンのコネクテッドカー向けクラウド「フォルクスワーゲン・オートモーティブ・クラウド」の開発で提携しており、今回の提携はこれをさらに拡大するものだ。
自動運転の分野にいち早く参入したのはアルファベット(GOOGL)だ。傘下の自動運転技術を開発する「ウェイモ」は、既に2020年10月から米アリゾナ州のフェニックスで無人タクシーを運行している。今後、この事業を全米の主要都市に拡大する計画で、他社に先駆けて自動運転の商用車展開を果たしている。
アルファベットはモビリティーのサービス分野にも投資を展開している。2020年5月には電動キックスケーターのシェアリングサービスを手掛けるユニコーン企業「ライム」に投資。また、インドネシアの配車大手「ゴジェック」へも出資し、海外でのシェアサービスにも手を広げている。
一方、フェイスブック(FB)の動きは他社に比べて低調であるものの、フェイスブックのVR事業「オキュラス」は自動車業界で使われる可能性があると言う。例えば、ディーラーでのVRを使った試乗体験やその場で別の機能をカスタマイズするサービスなどの他、設計や製造プロセスにもVRは活用可能だ。
既存プレーヤーの逆襲はあるか?
ゼネラルモーターズ(GM)の子会社であるGMクルーズは米カリフォルニア州の公道走行試験ランキングで2020年に首位になった。GMが首位となるのは初めてで、これまで先行していたウェイモを含め、ハイテク大手を追い上げる姿勢は明確だ。
運転席に座った監視要員が事故などを回避するために運転に介入した回数は、GMクルーズの場合、走行距離4万5899キロメートルあたり1回だった。ウェイモも4万8191キロメートルあたり1回といずれも前年(2019年)に比べて改善が進んでおり、2社ともに人手を介すことなく地球を1周できた計算になると言う。
GMはクルーズを中心とした自動運転車の開発を加速しており、直近では、同業のスタートアップである「ボヤージュ」を買収した。ボヤージュは、自動運転タクシーの実用化を目指している企業で、高齢者施設内で無人の自動運転車サービスを提供するテストを行うなど注目を集めた。
インテルは2017年に自動運転向けの半導体やソフトウェア開発を手掛けるイスラエルのモービルアイを日本円にして2兆円近い金額で買収した。また、2020年5月にはイスラエルのMaaSプラットフォーマーの企業であるモービットを買収。モービルアイの自動運転技術とMaaSを組み合わせ、ロボタクシーサービスをはじめとした世界展開を図る構えだと言う。
エヌビディア(NVDA)も2019年にイスラエル企業を買収するなど、自動運転分野における対決姿勢は鮮明だ。また英アームの買収も車載エレクトロニクス分野で重要な進展をもたらすことになるだろう。
このように自動運転分野における出資や買収のニュースを挙げると枚挙にいとまがない。大手ハイテク、既存の自動車メーカーやサプライヤー、また半導体企業などが技術革新を目指し、スタートアップへ出資したり、買収する動きは活発に続くため、業界の勢力図にはこれからも大きな変動があるだろう。
自動運転の周辺技術であるセンサー開発やサイバーセキュリティ技術、通信技術なども含め、またアップデートしたいと思う。