今回から「アクティビストタイムズ」は、山下耕太郎氏とマネックス アクティビスト情報発信チームが入れ替わりで寄稿してまいります。

「物言う株主」といわれるアクティビストの動向が、日本でも注目されるようになってきました。そこで今回は世界最大のアクティビストであり、日本でも存在感を高めている「エリオット・マネジメント」(以下、エリオット)について解説したいと思います。

エリオットの2020年の運用成績は+12.7%で、過去10年間でも有数の好成績となりました。3月のコロナショックでも月次でプラスリターンとなり、2020年はすべての月で運用成績がプラスになっていました。

好成績を維持しているエリオットの投資手法とは、どのようなものなのでしょうか。

世界最大のアクティビストの投資手法とは

エリオットは、1977年にポール・シンガー氏が設立した米国のヘッジファンドです。2020年末の運用資産は452億ドル(約4.7兆)にのぼります。株式だけでなく、ディストレス(破綻)証券、不動産、コモディティ、プライベートエクイティなどにも投資しています。

エリオットは、アルゼンチン政府との長年にわたる争いでも名が知れています。アルゼンチンは2001年にデフォルト(債務不履行)となりましたが、エリオットは子会社NML キャピタルを通じ、アルゼンチン国債を割安に取得しました。

アルゼンチン政府は債務返済を通告し、約92%の投資家の債権を7割以上カットしました。しかし、NML キャピタルは金利などを含む全額の支払いを求めて、ニューヨーク州南部連邦地裁に提訴したのです。訴訟は米最高裁までもつれ込みましたが、2014年に米最高裁が棄却したことで、NMLの勝利が確定しました。

そして2016年にアルゼンチン政府は、エリオットなど4ファンドに46.5億ドル(約5,300億円)を返済することで合意しています。

米国ではAT&Tやツイッターに投資

エリオットは2019年9月に米通信大手AT&Tに32億ドル(約3,500億円)投資し、経営戦略の見直しを求める手紙を送ったと発表しました。そして、経営改善を実施すれば株価は65%上昇し、2021年末までに60ドルに上昇すると主張しました。

AT&Tの時価総額は30兆円あるのでエリオットの保有比率は1%に過ぎませんでした。しかし、AT&Tの経営陣は同年10月には取締約の定員を2人増やし、最高経営責任者(CEO)と会長の職務切り離しなどを盛り込んだ3ヶ年計画を発表しました。

また2020年3月には、エリオットが米ツイッターに対し、共同創業者ジャック・ドーシー氏の最高経営責任者(CEO)退任を求めていることが報じられました。ドーシー氏はCEO職に留まりましたが、エリオットから取締役を受け入れることや、株主還元として20億ドル(約2,000億円)規模の自社株買いを実施することで合意しました。

エリオットは、米大手企業に対しても要求を通すことに成功しているようです。

日本でも存在感を高めるエリオット・マネジメント

エリオットは日本の国内企業へも投資しています。2018年にはアルプス電気とアルパインの経営統合について、香港のヘッジファンド「オアシス・マネジメント」は統合比率が低いと主張するのに対し、エリオットはアルプス電気とアルパインの両銘柄で大量保有報告書を提出しました。エリオットは同年10月に両社の株式を9%超取得していました。

オアシスの反対にもかかわらず、2018年12月のアルパインの臨時株主総会で経営統合は承認され、2019年1月に「アルプスアルパイン」が誕生しました。

ソフトバンクGにも出資

アクティビストによる日本企業への提案や要求は増加傾向にあり、2020年は過去最高の22件に達しました。アクティビストの要求は、株主還元の強化や取締役の受け入れなどを企業に迫るケースが目立ちます。

2020年2月にはエリオットがソフトバンクグループ(9984)の株式を30億ドル(約3,300億円)近く取得しました。これは2月6日時点でソフトバンクGの時価総額の約3%に相当します。

エリオットは、ソフトバンクGが米シェアオフィス大手ウィーワークのIPO(新規株式公開)の失敗や、ビジョンファンドを巡る懸念で割安になっていると判断したようです。ソフトバンクGの株価は、2月6日の終値4,727円から2月12日の終値5,751円まで22%上昇しました。

エリオットの投資が株式市場で好感されたのでしょう。コロナショックでソフトバンクGの株価は、3月19日に2609.5円まで下落しましたが、オアシス・マネジメントが求めていたように自社株買い(2兆5,000億円)を打ち出し、2020年末の終値は8,058円と大幅に上昇しました。

今後も日本企業への投資を増やすのか

アクティビストの活動はもっとも活発な米国においても、コロナ禍の影響により全体的に減っています。一方、日本企業は海外のアクティビストからみればブルーオーシャンでしょう。日本企業は内部留保が厚く、大量の現金を持っているからです。

日本企業には自社株買いや増配を実施し、株主に余剰資金を還元する余地が残っているという見方もあります。また、社外取締役の人数が少なく、政策保有株を抱えている課題もあります。

エリオットは2021年1月に香港の拠点を閉鎖すると発表し、香港の人員をロンドンと東京に移すことを明らかにしました。今後も日本企業への投資を増やしていくのではないでしょうか。

バリュー相場でアクティビストの存在感は高まる

2020年はコロナ禍でもグロース(成長)株が大きく上昇しました。しかし新型コロナワクチン接種が進んで景気が回復すれば、景気敏感株が多いバリュー株に物色が向かうと私は考えています。

アクティビストは割安に放置されたバリュー株を投資対象にする傾向が見られます。日本株はPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などの指標面から見て割安な株が多く、経営改善の余地がある企業も多く見られます。ですので、2021年はアクティビストの存在感がますます高まっていくのではないでしょうか。