「ブルーウェーブ」でも難しい政権運営を迫られるバイデン米政権

1月5日に米ジョージア州で行われた連邦上院議会の決選投票において、民主党が2議席を獲得し勝利をおさめた。これで大統領、議会の上下両院を民主党が占める「ブルーウェーブ」となった。当初、「ブルーウェーブ」となった場合、法人税増税やハイテク規制など、企業に対して風当たりの強まる政策が出されるとして、株式市場にとってはマイナスであると捉えられていた。

果たしてブルーウェーブは本当に売りなのか、それとも買いなのか。過去のデータを振り返るとブルーウェーブとなった場合、株式市場のリターンはプラスになる傾向を持っている。1951年以降でブルーウェーブとなった年は18年あり、その平均リターンは約9%であった。リターンがマイナスとなったのが4年、プラスのリターンが14年、プラスの割合は77%である。大統領、議会の上下両院が同じ政党で占められていることから、政権与党の政策実行力が高まることが背景にあると考えられる。

【図表1】民主党が大統領と議会の上下両院を占めた時のS&P500指数のリターン(1951年以降)
出所:各種資料より筆者作成

しかし今回のバイデン米政権の場合、政党内における穏健派と急進左派との対立がくすぶっており、決して一枚岩とは言えない。例えば、バイデン米政権の主要ポストの顔ぶれが明らかになっているが、アレクサンドリア・オカシオ・コルテス(AOC)氏を含む急進的かつ進歩的な非白人かつ女性4人の下院民主党新人議員は、彼女たちが推薦した人物が採用されていないとして請願書を回覧するなど、既に対立の構図も浮かび上がっている。

バイデン米大統領はこうした民主党の急進的な左派メンバーとどのように折り合いをつけていくのか、政権運営はスタート早々厳しいものになると思われる。過去の傾向からバイデン米政権の1期目が「ブルーウェーブ=株高」と見るのは、早まった考えであろう。

ハイテク企業の現在価値と将来価値

さらに今回、株式市場が史上最高値を更新し続ける中での政権交代となる。株式市場をけん引してきたのはGAFAMをはじめとするハイテク銘柄である。コロナ禍において苦戦を強いられている企業が少なくない中、社会や生活様式の変化はハイテク企業の業績にとって追い風となってきた。

以下は、2008年の世界金融危機以降の世界企業の収益成長率をグラフにしたものである。テクノロジー企業を除いた世界の企業の収益は伸びていない。(図表2参照)

【図表2】世界の企業の収益率(青:ハイテクを除く世界、水色:世界のハイテク、グレー:世界)
出所:ゼロヘッジ

高い利益成長の続くハイテク株は、世界的に金利が低下する局面で買われてきた。将来の利益を現在価値に割り戻す際の割引率(金利)が下がると、高いバリュエーション(株価指標)が容認される。また、世界金融危機以降、長期的な経済成長への期待の低下を背景に、世界のGDP成長率は低下しており、企業の収益成長率も鈍化している。経済成長が鈍化する中、利益成長を達成できると考えられる企業は、より価値があると見なされる成長の希少性からハイテク企業にとっての好環境がもたらされていた。

法人税増税と規制強化はハイテク企業にどのような影響を及ぼすのか?

低金利と低成長というニューノーマルはこの先もしばらく継続すると考えられるが、バイデン米政権の誕生により相場の動きに大きな影響を及ぼすと考えられる政策がある。それは、「法人税率の引き上げ」と「独占禁止法の強化(ハイテク規制)」である。これまでの相場はハイテク株が主導してきたものであり、そのハイテクが崩れると相場全体が大きな影響を受けることは容易に想像できる。

一部報道によると、バイデン米政権は法人税率を現在の21%から28%に引き上げることを提案していると伝えられている。また、企業の「簿価所得」、または投資家に報告された利益に対して15%を課税するミニマム税の導入、米国を拠点とする多くの多国籍企業が海外で得た利益に対する増税なども提案している。

増税策はハイテク企業に限らず、企業全体に逆風となるが、一握りのハイテク企業の優位性が突出して高まっている中、政府はこのコロナ禍で打撃を受けた経済を支えるため新たな税収を求めて、ハイテク企業を標的にすることも考えられる。すでに欧州ではテクノロジー企業への負担を求める「デジタル課税」についての議論も出ている。

そしてハイテク規制の強化である。こちらもデジタル課税同様、今や帝国レベルとなったハイテク企業に対する政治的プレッシャーがさらに強まることが想定される。急進左派を抱える民主党政権においてはより過激な議論も出てくるであろう。2020年、グーグルやフェイスブックが反トラスト法の訴訟を提起されているが、訴訟となった場合、時間と資金、人材といった重要な資源の一部を費やされることになり、企業にとっては手痛い逆風となる。

1998年に司法省から提訴されたマイクロソフトを例にとると、2001年に司法省との和解が成立した後、連邦地裁が両者の和解案を承認。和解条項に基づき、定期的に連邦地裁に報告書を提出し、条項が失効して訴訟が正式に終結したのは2011年だった。実に12年にわたる時間が費やされ、この間にモバイルへの進出が遅れたことを同社の創業者であるビル・ゲイツ氏も認めている。

バイデン次期米大統領は独禁法問題に穏健な姿勢を示しており、エリザベス・ウォーレン上院議員のような民主党の政治家ほど競争法については積極的な姿勢を示していないと言われている。このため、反トラスト法に関して連邦政府レベルではそれほど厳しいものにならないとの見方もあるようだ。しかし、今後のハイテク規制に関して最も大きな影響を与えるのは、司法省(DOJ)と連邦取引委員会(FTC)のトップ人事になろう。

ちなみに、副大統領となるカマラ・ハリス氏はカリフォルニアのバークレーで育ち、カリフォルニア州で検察官などを務めたのち、2017年からカリフォルニア州選出の上院議員を務めていた。また、下院議長のナンシー・ペロシ氏もサンフランシスコを含むカリフォルニア州が地盤である。政府・議会で影響力を持つ女性2人がカリフォルニア州と深く関係している。このことが吉と出るのか凶と出るのか、規制当局のトップ人事と合わせて注視しておきたい。

デジタル時代におけるハイテク企業のあり方

トランプ米大統領による一連の投稿が先日のワシントンDCでの一連の暴動を煽ったとして、米ツイッター社はトランプ米大統領の個人アカウントを永久に凍結した。また、多くのトランプ支持者が活用するソーシャルメディア・アプリ「パーラー」に関して、グーグルが1月8日、アップルが1月9日、それぞれ自社のアプリ・ストアで凍結・削除したほか、アマゾンがホスティング・サービスから削除する決定を下した。

ハイテク企業が提供するサービスは社会における重要なインフラの1つとなっており、世論や社会情勢に多大な影響を及ぼすことが改めて認識されることになった。ここまで述べてきたように短中期的には、政権交代によってもたらされる増税や規制の強化、さらには金利の動向などによって、強さの際立つハイテク企業と言えど、いくつかの逆風にさらされることになるであろう。一方で、長期的な視点においても今後、ハイテク企業が取り組まなければならない課題がある。それは、プライバシー侵害の問題と「セクション230」のあり方である。

フェイスブックやグーグルのサービスはネット環境さえあれば、誰でも無料ですぐに利用することができる。しかし日々の利用を通じて、利用者は対価として自身の行動データを全て企業に把握されている。つまりプライバシーを提供しているのである。自らの生活をさらけ出すことが、無料利用を続けるための対価なのである。グーグルはあなたが誰とどこでいつ会って、何を食べ、何を見て、何を買ったのか、その検索履歴やスケジュールまでありとあらゆる情報を持っている。

新型コロナウィルスの世界的な感染拡大を背景に韓国と中国においては、デジタル技術が感染の封じ込めや追跡に活用されている。位置情報の記録を使うことによって、社会的距離や感染がどのように広がっていったのかなどの知見を得ることが出来たのである。しかし、このような技術はプライバシーの侵害と表裏一体であり、今後、企業としてこうしたプライバシーの侵害とどう向き合っていくのか、技術が進歩すればするほど多くの課題がのしかかってくることになろう。

また米国には「表現の自由」を守るための「セクション230」と呼ばれる法律があり、その問題にも取り組まなければならない。プラットフォーマーは発言の場を提供しているだけであり、そのプラットフォーム上でどのような発言があっても責任はないとするものである。つまりプラットフォーマーはそのプラットフォーム上のコンテンツのパブリッシャーとはみなさないというのが「セクション230」の考え方である。例えば、フェイスブックやツイッターなどのSNSを通じてフェイクニュースが拡散されたとしても、現在、プラットフォーマーに法的な責任が求められないのはこのためである。「セクション230」の議論は、「表現の自由」の名の下にソーシャルメディア上での、誤報や偽情報の流布を認めていることになる。

その一方で、ハイテク企業の地位が高まり影響力が大きくなればなるほど、彼らに対する懐疑的な見方も強まっている。コロナ禍や米大統領選に至るまで、オンライン上で様々なデマが横行し、誤った情報は、すでに日常生活の一部となっている。現在は、あらゆる誤報や偽情報をもぐらたたきのように対応しているだけであるが、これらについては政治の関わりによるルールの策定が必要になってくるだろう。

100年以上前、米国政府はより小さな競争相手の買収やダンピングによる排除などの不公正な慣行による競争規則違反を認め、スタンダード・オイルの解体を行った。また、電気通信を独占していると非難されたAT&Tは、7つの「ベビーベル」に分割された。そして、日本でもNTTが東西に分割された。

ハイテク企業の多くは、主にシリコンバレーをベースに政治や国家と言うものから離れ、自由闊達な風土の中でイノベーションを武器に小が大を凌駕しながら発展してきた。しかしハイテク企業自身が国家レベルのパワーを持つようになったとき、政治や国家とは無関係でいられなくなってしまったことは皮肉である。

プライバシーの侵害や表現の自由をめぐる課題にどう向き合っていくのか。現在の法律が社会変化に追いついていないことを考慮すると、すぐに答えが出る問題ではないだろう。現在の低金利と低成長が続く限り、ハイテク企業の高い成長は引き続き魅力的であると考える。しかし、こうした長期的な課題にどのように取り組んでいくのか、企業としての底力が試される局面がこれから多くありそうだ。

石原順の注目5銘柄

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アマゾン(AMZN)
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マイクロソフト(MSFT)
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アルファベット(GOOGL)
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アップル(AAPL)
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フェイズブック(FB)
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