多くの会社には退職金制度があるということ、そして、一括して受け取る「退職一時金」だけでなく年金のように分割して受け取る「企業年金」というしくみを持つ会社が4社に1社ぐらいあることは前回お話ししました。

「退職一時金」や「企業年金」のルーツは江戸時代に

江戸時代は、今と違い、多くの人が農業や職人仕事をして自営業者として働いていました現在の会社員と同じような働き方といえば、大きな商家で働く奉公人とお殿様に仕える武士ぐらいではないでしょうか。商家では、長年忠実に勤めた奉公人に、店を出させて同じ屋号を名乗ることを許し、その際、資本を援助したり、商品を貸与したり、顧客を分けたりする「暖簾分け」というものを行っていました。これが「退職一時金」や「企業年金」のルーツ。つまり、退職時に渡す「功労報酬」だったわけです。

一方退職金は「賃金の後払い」だ、という考え方もあります。この考え方は、物価がどんどん上がった高度成長期、物価上昇に合わせて給料も上げて欲しい!というニーズが高まる時代に生まれました。会社としては、物価上昇と同じスピードで給料を値上げするのは大変なので、その分を社員が退職するときに退職金という形で支払う、つまり「賃金の後払い」という面も合わせ持つようになったのです。

「退職一時金」や「企業年金」の額を増やすには

「退職一時金」や「企業年金」は、平成に入る前までは退職時の給与と勤続年数によって決まる「最終給与比例方式」が多かったのですが、現在は「賃金の後払い」としての性格がより強くなり、在職中の賃金や職務に応じた役職に連動して毎年金額やポイントを積み上げていき、その累計額または累計ポイントを金額評価した額を支払うくしみになっています。

つまり、今の仕事を頑張って高い評価を得て給与や役職を上げること、そしてそれをなるべく長く続けること、こそが、将来みなさんが受け取る「退職一時金」や「企業年金」を増やすことにつながるのです。細かい仕組みは会社ごとに違うと思うので、ぜひ社内規程を確認してみてください。

「企業年金」は2つのタイプで異なる制度がある

「企業年金」として分割して支払うしくみはいくつかありますが、その代表格は「確定給付企業年金」と「確定拠出企業年金」の2つです。「確定給付企業年金(Defined Benefit)」は会社から退職後に受け取る(これを「給付」という)額が決まっている制度です。一方、「確定拠出年金(Defined Contribution)」は会社が在籍中に毎年積み立てる(これを「拠出」という)額が確定しています。ここで会社が“積み立てる”と表現しましたが、正確に言えば、その積立金を出すのは会社からですが、そのお金を自分で運用し、その運用実績によって受取額が決まるため、受取額は確定していません。

確定給付企業年金が勤務先にあるなら確認しておきたい5つのこと

【1】いくらもらえるか

最近は、入社からその月まで累積ポイントを給与明細で開示したり、年に1回、ひとりひとりに通知したりする企業も出てきています。自分でこれまで働いて積み上げてきた金額がひとめでわかるのですから、把握できていない方はぜひ確認しましょう。

個々人に個別の開示がない場合には、「会社員の「老後不安…」今からでも間に合う効果的な方法とは?」に書いたように、「住宅(または学費)で大きなローンを組む予定があって、FP(ファイナンシャルプランナー)や銀行に相談したら、退職金を聞いてこい」と言われました。というように概算額を聞くのがよいでしょう。

また、「定年」の場合には額が上乗せされたり、逆に60歳より前に「自己都合」で退職する場合には8掛けに減らされたりするなど、「退職事由」によって額が変わるのが一般的ですから、その仕組みも押さえておく必要があります。

【2】年金としていつから、いつまで受け取れるのか

昔は終身といって亡くなるまでもらえるという仕組みが多かったのですが、今は10年間、同じ金額を受け取る「10年確定年金」というタイプが最も多いようです。大企業の中には「保証期間」がついたタイプの年金もあります。

何が保証されているというと、例えば「20年保証期間付終身」の場合、受け取り始めてから20年間のうちに本人がお亡くなりになった時には、20年かけて受け取る予定だった額のうち受け取っていない額は遺族に支払われ、20年を超えてご本人が生きている時はそれまでと同じ年金額を生きている間は受け取ることができる、というものです。つまり、20年分の年金額は受け取れることを保証します、という意味です。

【3】年金に付与される利率はいくらか

年金で支払うということは、一時金として一括で受け取るのではなく、先延ばしして受け取るということになりますから、利息が付きます。これを「給付利率」といい、各社で異なります。今でも5.5%という市中金利では考えられないような利率を付与している企業もありますが、2.5%前後の企業が多いようです。それでもメガバンクで1,000万円以上預ける大口定期(10年)でも0.002%という利率の程度ですから、それに比べても1,000倍以上の大変魅力的な利率です。

そう考えると、住宅ローンの返済など、すぐに等の予定がなければ、退職金は一時金として受け取ってしまうより、会社に確実に高い利率でしっかり殖やしてもらいながら分割して年金として受け取ることは大いに検討すべきだということがおわかりいただけると思います。「給付利率」がいくらか、は年金で受け取るかどうかを判断する上で欠かせない、おさえておきたい事項です。

【4】年金として受け取れる条件

年金で高い利率をつけてもらって受け取ることは、受け取る側にとっては嬉しいことですが、支払う側の企業にとっては負担です。年に何回か支払うという事務も発生します。ですから、多くの場合それなりに長い期間会社に貢献してくれた社員が退職する場合だけ、年金での給付を認めています。企業年金のある会社に勤めていても、その資格を得るための条件があるというわけです。勤続20年とか、年齢50歳以上とか、会社によってその条件は異なりますので、それを確認しておきましょう。

転職する際に、あと数か月すれば年金で受け取れる権利が得られるということであれば、数か月先延ばしして、60歳以降に高い利息を上乗せしてもらった企業年金を受け取る権利を確保することは一考に値します。

【5】他制度掛金相当額

会社として毎月積み立てしている掛金相当額がどれくらいか、というものです。2024年12月以降のiDeCoの積立限度額のルールが変わることに備えて2022年9月までに何らかの形でお知らせがされている筈です。

iDeCoの積立限度額は確定給付企業年金に加入している場合、現在は一律「月額1万2千円」ですが、2024年12月からは「2万円」と「5万5千円-企業型DCの掛金額-他制度掛け金相当額」のいずれか少ない方というルールになります。他制度掛金相当額は1万円以下というケースが大半ですので、iDeCoの限度額が2万円に引きあがる恩恵を受ける方が大多数です。

しかし、他制度掛け金相当額が2万7500円を超えている場合は、iDeCo積み立て限度額が下がったり、場合によってはiDeCoの積み立てができなくなる可能性があります。iDeCoを利用して老後資産形成をしている方、またはこれから始めようという方は他制度掛け金相当額を把握して2024年12月以降のiDeCoの積み立て限度額に影響がないかご確認ください。

今回は確定給付企業年金の受取額を増やすことに焦点を当てて、おさえておくべきポイントを5点ご紹介しました。確定給付企業年金という恵まれた制度に加入している方でも、iDeCo(個人型確定拠出年金)に加入し、月額1万2千円までは自分で掛け金を出して老後資金を積み増していくこともできます。もう少し増やしたいという方は、iDeCoを活用してさらに豊かな老後生活の準備をしていただけたらと思います。

(本記事は2021年2月に公開し、2022年10月1日に更新しました。更新時点の情報となります。)