ソフトバンクG株価が急騰

ソフトバンクグループ(9984)(以下SBG)の株価が急騰しています。12月8日の終値で7,094円だったSBG株は翌9日終値で7,489円と5.6%高、さらにそこから10日には高値で8,900円と18.8%高をつけました。終値でも8,306円で10.9%高です。時価総額10兆円を超える銘柄が2日間で20%以上上昇するのは驚きと言うほかありません。

SBG株はITバブルと呼ばれた2000年3月に現在株価に換算し、11,000円という高値をつけています。マネックス証券のチャート機能では現在30年チャートが見られるようになっており、2000年のITバブルがいかに凄まじかったかをご覧いただけますが、ついにその株価更新も現実的になってきました。

【図表1】ソフトバンクグループの30年チャート
出所:マネックス証券

2019年末の株価は4,756円でしたので、その頃と比較しても2倍程度になっています。

【図表2】ソフトバンクグループの四半期時系列株価
出所:マネックス証券 
※マネックス証券の時系列データでは四半期単位の株価推移も見られるようになっており、長期の株価推移を把握するのに便利です。

株価続伸の背景

今回、SBGが大きく上昇した背景には同社の「スローモーション」バイアウト(MBO)についての報道があります。普段あまり耳にしない概念ですが、時間をかけてSBGを買収することのようです。

通常、買収は公開買付などで一気に行われます。本連載で取り上げたNTTドコモ(9437)や島忠(8184)の公開買付では公開買付が発表されて、その一度の公開買付で、買付者はすべての株をまとめて買い付けようとしています。一方、SBGが今回とる手法は、どのようなものでしょうか?

「スローモーション」バイアウト(MBO)とは?

SBGの経営者である孫正義氏は現在27%前後の株式を保有しています。SBGが孫正義氏以外から株式を買い付けると、その株はSBG自身が保有者である自社株になります。自社株には議決権は与えられないので、結果的に孫正義氏の持ち分が濃くなり、孫正義氏の実質的な保有比率が増すことになります。

現在、孫正義氏が27%の株を保有しているとすると、孫正義氏以外の株は73%になります。仮にSBGが孫正義氏以外の73%から46%分株を買うとすると、孫正義氏は27%、孫正義氏以外は73%-46%=27%、自社株46%になります。自社株を除いた54%の株のうち27%を保有する孫正義氏は実質的に27/54=50%を保有していることになります。

このように、「スローモーション」バイアウトはSBGが自社株買いを継続することで、孫正義氏の議決権比率を増やしていくことのようです。この買い付けは時間をかけて行っていくので、それが「スローモーション」と呼ばれているわけです。(すでにSBGは自社株を保有していますが、上記はそれらを無視して単純化しています)

「スローモーション」バイアウト(MBO)の狙いは?

この「スローモーション」な買い付けを継続すると、何が起きるのでしょうか。日本の会社法では株主総会で2/3の株主が賛成することで、その会社を強制的に買収することができます(残りの株主の株を強制的に買い付けられます)。つまり、2/3にあたる約67%の株式を保有していれば、その会社を買収できるということです。

今回、上記に書いたような自社株買いを行っていくことで孫正義氏の持ち株比率をその水準に引き上げることが狙いと見られています。これにより、通常の公開買付で必要なプレミアムを支払わなくてすむという考えのようです。

報道では通常の公開買付の場合、25%程度のプレミアムを支払う必要がある、としていますがドコモや島忠、直近の東京ドーム(9681)はいずれも直前株価から約45%のプレミアム(島忠はその後ニトリの公開買付で、さらに高くなっています)をつけています。

また、後述しますが、SBGは自社株の本来の価値がより高いと訴えており、それを考慮したプレミアムをつける必要があるという考えもあったのかも知れません。

では、なぜ孫正義氏はこのようなバイアウトを望むのでしょうか。もちろん、株主や株価を気にせずに経営したいということもあると思いますが、それ以上に「SBG株は割安である」と考えているからだと思います。(以前の記事で同社が自社ウェブサイトで保有株などを考慮した企業価値が同社の株価を大きく上回っていることを示しているとお伝えしました。その次の記事では、今回話題になっているSBGの非公開化についても解説していますので合わせてご覧ください)

当時、同社の株主価値は12,973円(※)とされており、その頃の6,000円程度の株価を大きく上回るとしています。直近で株主価値はどうなっているか確認すると14,528円になっています。これはアリババなど保有株がその頃から値上がりしているからです(※先の記事の際は日次でこの株主価値が更新されていましたが、現在の更新は開示の都度、「株主価値」は「1株あたりNAV」と呼称が変わっています)。報道前の株価からすると、引き続き同社株は本来の価値ほどには評価されていないと考えているのでしょう。

SBGは2020年に入って自社の資産を売却し、それで得た資金で自社株買いを継続的に行っています。アームを売却し、携帯電話子会社やアリババの株式も売却し資金化しています。実際に「スローモーション」MBOが可能そうだということも、今回の報道のあとSBG株が大きく上昇した背景にあるのでしょう。直近で米国上場したドアダッシュ(DASH)株を保有していることも同様に説明できそうです。

市場の評価と実質価値の関係は株主と経営者によって変わる

しかし、SBG株主は幸せでしょう。経営者が株主と同じ目線を向いて株価を上げようとしてくれるのですから。そして実際にそれによって株価が上がっているのですから。

今回の株価の動きは「SBGほど大規模で価値の明瞭な資産を保有している会社でも、市場の評価と実質価値の関係は株主と経営者によって大きく変わる」ということを示していると言っていいでしょう。

保有資産と株価の乖離から、SBG自体もアクティビストのターゲットとなっていました。孫正義氏は自身がアクティビストのように議決権比率を上昇させることで結果的に自社株を上昇させました。しかし、多くの会社には自社株を保有し、その株価上昇に努める孫正義氏のような存在はいません。

そのため、株主の利益を代表するアクティビストなどが投資することで、株価が上昇しうることも、今回の動きは示しているのかと思います。