ソフトバンクGがなぜ、非公開化?

前回の記事で、ソフトバンクグループ(9984)が、自社のウェブサイトで「一株あたりの株主価値情報」を掲載し、自社の保有株式の評価に比べ、自社株価が安いことを示していると思われる点について触れました。ちょうどその週末、SBGがその保有株式の主力であるアーム株をエヌビディアに売却することが報道され、9月14日(月)にはその旨が開示されました。

また、一部報道によるとSBGは市場での評価の低さに業を煮やし、株式非公開化を検討する意向も伝えられています。それらのニュースを受け、9月14日のSBG株式は一時10%を超える大きな値上がりとなりました。

なぜ株式非公開化のニュースで株価が上がるのでしょうか。よく知られている通り、SBG株は東証に上場しています。上場している以上、誰でもSBG株を買うことができます。そのため様々な株主が存在し、長期的な経営判断の阻害要因となることをSBGは問題視し、非公開化(上場廃止)したいようです。

通常、上場廃止をするためには、特定の株主がその会社の株式の多くを保有する必要があります。つまり、SBGが上場廃止をしたい場合、特定の株主(おそらく経営者である孫正義氏)が主体となって、SBG株の多くを買い付ける必要があります。このような買付を行なう場合、公開買付の形態をとらなければなりません。そこで、株式の非公開化(上場廃止)を行うためにSBG株が公開買付の対象になりうるという見方から、SBG株が大きく値上がりしたというわけです。それでは「公開買付」とは一体、どのような制度なのでしょうか。

公開買付(TOB)制度とは

上場企業の株式を一定以上まとめて買い付ける場合、日本のルールでは公開買付を行う必要があります。公開買付のことをTOBと呼ぶこともあります。公開買付は、買付価格・買付条件・買付期間を定めて、すべての株主から平等に株式を買い付ける制度です。

公開買付においては同じ種類の株式は、同じ価格で買い付ける必要があります。多数の株式を保有する大株主からも、ごく少数の株式のみ保有する株主からも、同じ価格で買い付けるということです。

たとえば、ある上場会社を買収したい会社Aがあるとします。会社Aが既存の大株主から過半数の株式を個別に買い付けると、それ以外の株主からすると、自分たちの知らないところで経営権が移ってしまうことになります。そればかりか、会社A が一定以上の株式を取得した場合、残りの株主に不利な条件でその保有株を取得するような決定をする場合もあり得ます。そこで、経営権が移るような多数の株式の買付は少数株主の保護のためにも同一価格で買う公開買付が求められているのです。

公開買付価格はどのように決まる?

その公開買付の価格はどのように決まるのでしょうか。通常、公開買付価格はそれまでの株価、つまり取引所での取引価格にプレミアムを加えた価格になります。公開買付は経営権を得るために行われることが普通です。経営権を得る価値は普通に取引所でその株を買うよりも価値があるとされ、その価値がプレミアムとして買付価格に上乗せされるのです。

今回、SBG株の株価が上がったのは、そのプレミアムへの期待感によるものだと思います。最近発表された関西を中心にドラッグストアを展開するキリン堂ホールディングス(3194)の公開買付では買付価格が3,500円と、公開買付直前の約2,500円の株価に40%のプレミアムがつきました。通常、プレミアムは小さくても10%から20%くらいはつきますし、銘柄によっては100%、つまり直前の株価の倍で買ってもらえる場合もあります。公開買付の対象銘柄に選ばれることは既存の株主にとって基本的にはいい話です。

公開買付が発表された場合、その会社の経営陣はその公開買付への賛否を発表します。直近のコロワイド(7616)と大戸屋ホールディングス(2705)のように公開買付の対象(大戸屋)が反対する場合、その公開買付は敵対的な公開買付とされます。

また、公開買付が発表されたあとで、買付者以外が対抗の公開買付を発表する場合もあります。この場合は当然、もとの買付者より高い買付価格を設定することが普通です。これに対し、もとの買付者が公開買付価格を引き上げることがあります。このような買収合戦になってくると、もともとの株主にとっては有利な展開です。2019年に話題となった不動産会社ユニゾホールディングスの公開買付は、買収合戦になり、買付期間は半年に及び、買付価格は当初の3,100円から6,000円まで上がりました。

公開買付の対象になるような銘柄を買っておくことは、投資家冥利に尽きると言えます。次回は、自分の保有銘柄が公開買付の対象になった場合、どのように対応するのが良いかについてお伝えします。