日経平均が年初来高値を更新

12月に入り、日経平均株価が毎日のように2020年最高値を更新しています。12月1日、2日、そして7日に日経平均株価は2020年最高値を更新し、ついに26,894円と27,000円台がうかがえるところまで来ています。

2000年以降の高値は2018年10月の24,400円超え、2018年1月、10月、そして2019年12月と、24,000円台はつけていたものの、25,000円台が遠かった日経平均でした。しかし、2020年11月以降は生まれ変わったかのように10月末の終値が22,000円台だったところから8連騰で25,500円と一気に25,000円台に乗せ、その翌週には26,000円台に戻っています。

2020年年始は23,000円台、新型コロナウイルス感染拡大を受けた3月には16,000円台まで売り込まれていました。12月7日の終値で考えると、年始からは14%程度、安値からは実に62%程度の上昇で、日経平均を見ていると非常に強い相場だったと言えそうです。しかし、あまり上昇の実感が伴わなかったのが2020年のマーケットだったのではないでしょうか。

それもそのはずです。2020年は日本の株価を代表すると“言われている”日経平均が、特に強かった年だったのです。“言われている”としたのは、日経平均はもちろん日本を代表する株価指数ですが、その仕組みにはかなり特徴があるからです。

日経平均株価指数の特徴的な仕組み

ご存じの通り、日経平均株価は日本を代表する225社の平均株価です。東証1部の上場会社でさえ2,000社を超えるので、すでにかなり絞り込まれていることが分かります。さらに、その225社の中でも日経平均にもたらす影響の大きさは会社によって異なります。

もちろん、基本的に時価総額の大きい会社は影響も大きくなります。しかし、時価総額1位のトヨタ自動車(7203)の日経平均における影響は225銘柄の中で20位以下です。逆にもっとも影響が大きい銘柄は「ユニクロ」で知られるファーストリテイリング(9983)で、ファーストリテイリングの株価が日経平均の10%以上を決めることになります。

これは簡単にいうと、日経平均は株価が高い会社の影響度が高い指数だからです(実際は分割などを考慮した除数で計算しますが、株価で考えていいでしょう)。ファーストリテイリングの他に、日経平均への影響が大きい銘柄としてはソフトバンクグループ(9984)、東京エレクトロン(8035)、ファナック(6954)、ダイキン工業(6367)が挙げられますが、いずれも株価の高い会社です。

投資家の値動き感覚と日経平均株価の値動きがズレる理由

その結果として起こる歪みは、小売業を見ると分かりやすいでしょう。日経平均株価に採用されている小売の会社は7社ありますが、7社全体の日経平均への影響の約9割はファーストリテイリングによるもので、残り6社(セブン&アイ、イオン、丸井グループ、三越伊勢丹、Jフロント、高島屋)の影響は約1割程度しかありません。もちろん時価総額で見てもファーストリテイリングが9兆円である一方、残り6社で7兆円弱ではあるものの、影響度の差はその時価総額の差と比べても大きすぎます。

簡単に言うと、ファーストリテイリング以外の6社がすべて10%値上がりしても、ファーストリテイリング1社が1%強値下がりすれば、小売業の日経平均への影響はマイナスになるのです。これが投資家の値動き感覚と日経平均株価の値動きがズレる大きな理由です。

実際、株主数を見るとイオン(8267)は78.8万人、三越伊勢丹(3099)は24.3万人を数える一方で、ファーストリテイリングの株主数はわずか0.6万人です。各社の株主数のカウントのほとんどは個人株主ですので、株主数の多い銘柄の値動きが個人投資家の実感に近いでしょう。ファーストリテイリング以外の6社の合計は134.7万人です。個人投資家のほとんどは残り6社のほうの株主と言って差し支えなさそうです。

では、株価はどうでしょうか。ファーストリテイリングは2019年末から31%程度上昇しています。一方、残り6社はイオンこそ33%上昇していますが、他の5社はすべて下落しています。Jフロント(3086)に至っては44%のマイナスで、丸井(8252)、高島屋(8233)も約30%、三越伊勢丹(3099)は約40%のマイナスで、まさに二極化していると言えそうです。6銘柄の単純平均は22%のマイナスでした。しかし、日経平均でいうとファーストリテイリング1社の力で小売業はプラス影響になっています。

指数はそれ自体がその採用銘柄の株価に影響を与えます。日経平均連動型の投信が買われると、日経平均採用銘柄はそうでない銘柄よりも買われます。特に影響度が高い銘柄は、その時価総額での比率よりも買われることになります。日銀も日経平均連動型のETFを買い入れているため、その影響もありそうです。日経平均株価が上がると、それについていくためにはファーストリテイリング株を買って、影響度の低い銘柄を売る必要があります。それらによって実感としての株価と株価指数は乖離していきます。

株価指数を前提にした投資は効率が良いのですが、機械的に買っていくため、銘柄をしっかり分析して割高・割安を判断することがなくなっていきます。これにより、マーケットの価格発見機能が低下しているという懸念もあるようです。もちろん、株価指数の影響については様々な議論がありますが、株価指数のこのような側面もご注意いただけると、より株価分析も深みを増すように思います。

また、仮にそのような機械的な投資が広がると、それはしっかりと会社の価値を分析する投資家にとっては良いチャンスになるでしょう。むしろ、そのような会社価値と株価の乖離が大きいからこそ、その穴を埋めようとするアクティビストの存在が目立ってきているように思います。