香港における新型コロナウイルス対策は、第4波の影響で更に強化されました。これにより香港居民が香港域外から戻った場合、これまでの様な自宅ではなく、指定ホテルでの14日間隔離となりました。

隔離期間中はホテルの部屋から一歩も外に出ることが出来ず、遵守しない場合は禁固刑並びに罰金も取られるという厳しいものです。

最近、香港政府は「Leavehomesafe」という感染情報アプリの活用を市民に促し、行動履歴を把握する試みも行っています。しかし、自分の行動履歴が政府当局に知られるため、当然ながら香港市民にはあまり評判が良くないようです。

SARSの経験を活かした香港のコロナ対策

香港の新型コロナウイルス感染者累計数は、12月6日現在で7,000人弱、現在の重傷者数は31名です。東京都の感染者累計数4万4,000人弱と比較すると、6分の1以下に抑えられています。

これは、香港の人口が東京都の60%位の人口760万都市であることを考慮しても、随分と少ない数値と言えるでしょう。

これは政府の規制が極めて弾力的で、かつ強制力があることにも起因しています。しかし、以前のコラムでも書きましたが、香港では2002年から2003年にかけて感染拡大したSARSの経験が相当に市民生活に活かされていることが抑制要因として挙げられます。

香港では1,800人がSARSに罹患し、300人が亡くなっており、致死率は17%とかなり高い水準でした。(因みに新型コロナウイルスにおける香港の死亡者数は12月6日現在、112名です)

SARSは、重症性呼吸器症候群という一種のコロナウイルスによる感染症です。2003年当時の日本総領事館からの注意喚起文を読むと、「手洗い・消毒・マスク着用」と書かれています。現在の新型コロナウイルス対策とあまり変わらないものであることが、感染症対策の難しさを感じさせます。

今日、香港のレストランでは、自分が食べる用のお箸以外に、取りわけ用の箸がいつも出されますが、これはSARSを機に習慣になったそうです。また、アパートやビルのエレベーターボタンにビニールシートが取り付けられ、定期的に消毒されるのも当時のSARS感染対策の成果だそうです。

香港政府が掲げる健康促進プロジェクト

そして見逃せないのが、香港政府が2000年から掲げる健康促進プロジェクトです。

高齢者対策として高齢者が気軽に運動を楽しめるように、公園には誰でも自由に使える健康器具が多く設置されています。筆者の住んでいるビクトリア公園付近では朝になるとそこかしこで、太極拳など思い思いの運動をしている高齢者の皆さんに出くわします。(筆者もそろそろその年齢に差しかかってきましたが…)

その光景は公園のみならず、(例えばフェリー埠頭のターミナルでも高齢者の方々が列をなして運動していて)会社に到着するまで続いています。このような光景は筆者が住んでいた東京都内の街並みでは残念ながら見たことはありません。街を挙げての高齢者健康促進運動が香港では毎朝繰り広げられているのです。

香港の平均寿命は2019年に5年連続世界一を達成し、男性82歳、女性が88歳を超えています。ちなみに日本は男性が81.4歳、女性が87.5歳とほぼ香港に迫って世界第2位です。

健康長寿社会をいかに実現するか

一方、健康上の問題で日常生活が制限なく生活できる期間のことを指す健康寿命は、日本では男性が71歳、女性が74歳となっています。つまり、健康寿命が過ぎた後、日本人男性は10年近く、女性は13年近く第3者の世話になる時間があるというのです。

香港の健康寿命データは残念ながら手元にありませんが、毎日健康そうな高齢者を街角で多く見かけるので、日本の(第3者に世話になる)10年に比べれば随分と短いのではないかと推測されます。

ちなみに健康寿命世界一のシンガポールは、2019年の健康寿命が76.2歳で平均寿命との差は6.7年と、やはり日本より第3者に世話になる期間が3年ほど短いようです。

先般、米国にてグローバルな視野で世界の健康・医療問題に取り組む財団のフォーラムに一部参加したところ、その主要なテーマは、「生命寿命と健康寿命の差を如何に縮めるか?」というものでした。

日本は2100年には人口が現在の半減以下である5,000万人を切ることが予想されています。特にこの日本のような人口減少社会においては、「健康長寿社会をいかに実現するかが、労働人口確保のために重要な国家政策でもある」とも日本政府関係者の方が述べられていました。

新型コロナウイルスの未曾有の世界的大流行の中で、健康長寿社会を如何に実現するかは、決して他人事ではなく、考えさせられるテーマであります。

これからの日本人が気にすべき「GNP」は、「Gross National Product(国民総生産)」ではなく、「元気で(Genki)長生き(Nagaiki)、ぽっくりとあの世に行くこと(Pokkuri)」であると著名な方が講演会で話されていたのを今更ながらに思い出します。