米国の大統領選が終わった。結果は判明していないので「大統領選が終わった」と書くのは正しくないかもしれないが、勝負は着いた。両者の負けである。勝者はいない。あえて言えば、そういう大統領選にしてしまった米国民全員の負けだろう。米国という国の選挙システム、ひいては民主主義そのものの限界を露呈した選挙戦だったとも言える。

カリスマホストのRoland氏は、「俺か、俺以外か」という名言で知られるが、今回の米国大統領選はまさに「トランプか、トランプ以外か」を問う選挙だった。仮にも世界一の超大国、米国の元首を決める選挙に、ホストの言葉を引くのは失礼かとも思ったが、よく考えればその程度のものだろう。

トランプ氏の破天荒ぶりはいまさら述べるまでもない。ただ、そのトランプ氏を推す者が、米国の選挙システムでは「半数」いるということだ(厳密な人数で「半数」という意味ではない)。いかに米国が病んでいて、人種はもとより貧富の差、階級の差、様々な格差が国を分断しているかということだろう。そうした人々の共感を買うと同時に対立を煽るやり方で4年前、彼は大統領になった。この4年間のデータ蓄積もあって選挙活動はトランプ氏のほうが上手だったのだろう。集会や戸別訪問などがコロナ禍にあっても、いやコロナ禍にあったから却って効果を発揮した。モーサテでご一緒した吉崎さんの言葉を借りれば「リアル>バーチャル」である。かつて田中角栄は言った。「歩いた家の数しか票は出ない。手を握った数しか票は出ない。」

民主党は惨敗と言っていい。仮に4年でホワイトハウスを奪還したとしても、である。戦前の世論調査を実際の票にできなかった。4年前を大敗、今回も惨敗とすれば2回続けてトランプに負けたのだ。次はトランプはないが、「トランプ的なもの」とどう戦うか。答えは思い切り左に振れることだ。バーニー・サンダーズ氏、エリザベス・ウォーレン氏はもうないとして、「AOC」=アレグザンドリア・オカシオ=コルテス(Alexandria Ocasio-Cortez)の存在感が増すのは確かだろう。4年後、彼女は35歳。大統領選の被選挙権がどうなるかは専門家に任せるが、キャスティングボードは確実に彼女が握るに違いない。

アメリカはどこへ行くのだろう。本来であれば今こそアメリカには強いリーダーシップで国を率いていく大統領が必要だ。しかし、トランプ氏、バイデン氏、どちらが大統領になっても称賛されるようなリーダーシップは期待できない。仮に法廷闘争の末、トランプ氏が大統領になったとしても、そんな勝ち方では尊敬は集まらない。自分の支持者にだけ受ければよいという考えなのかもしれないが、それでは米国はまとまらず分断が続く。いずれにしても再選はないので、徐々にレームダック化していくだろう。それならまだましで、暴走されるのが一番怖い。バイデン氏が大統領になっても同じだ。苦戦を強いられた身内の民主党の求心力も弱く、また議会もねじれていては、たいしたことはできない。また、高齢であることや健康状態を考えれば彼は次は立たないだろう。再選のインセンティブなしに彼の気力・体力が4年間維持できるか不安である。バイデン氏が当選すれば、その瞬間から市場はカマラ・ハリス大統領誕生のシナリオを描き始めるだろう。

マーケットとは、つくづくご都合主義なものだ。投開票日の3日、ダウ平均が554ドル高となった背景をメディアは「ブルーウェーブで大規模な景気対策への期待」と解説した。開票が進んだ昨日の東京時間、トランプ氏の巻き返しが伝わると株式相場は騰勢を強めた。やっぱりトランプの方が増税がなくていい、との解釈だ。そして昨日夜から今日にかけての展開は「ブルーウェーブよりねじれ好感」との解説が目立つ。結局、いいとこどりで、どうなっても買いの口実になるということだろう。

確かに物色のシフトは見られる。ブルーウェーブによる大型財政政策の期待から小型株、バリュー株、景気敏感株が買われていたのが、共和党の善戦で大型財政出動がないとなると金利が低下、ハイテク株などのグロース株に買いが向かった。バイデン大統領になっても上院の過半数を共和党が維持することで、大幅な増税やハイテク企業への規制強化などの政策は実現しにくくなるとの見方もハイテク株高の追い風になった。

僕はこの先のリスクシナリオとして、米国の財政の一段の悪化、ドル不安・悪い金利上昇・株安というトリプル安を想定していたので、議会のねじれは確かに安心材料ではある。コロナ向けの対策に限れば、非常事態に一時的な財政支出は仕方ないという空気がある。ただし、米国の財政は既に最悪の状態であることを忘れてはならない。2020年度の財政赤字は過去最悪の3.1兆ドル。財政赤字はGDP比で16%程度となり、金融危機時の2009年度に記録した9.8%を上回って、第2次世界大戦以来、最悪となっている。ドル急落のリスクは常にある。
ともあれ、大イベントは終わった。あとは幕引きまで、せめて泥仕合をできるだけ避けてもらうように祈るばかりだ。
最後に日本株の見通しだが、大統領選という不透明材料の後退、米国長期金利への上昇圧力が減少という環境下、足元で進む決算発表で業績の底入れ期待が醸成されている。日経平均は年初来高値はもちろん、バブル崩壊後の戻り高値を抜いて、年末までには2万5000円に達するだろう。