最近メディアから「コロナで企業業績が悪化しているのに、どうして日本株相場は堅調なのですか?」などという質問を受けることは少なくなった。一時は、「実体経済と乖離したバブルなのではないでしょうか?」というような「お気は確かですか?」と逆にこっちが尋ねたくなるような質問も受けていたが、ようやくそういう質問も減ってきた。

今の相場は足元の業績を見ているのではなく、来期以降のV字回復を織り込みにいっている。いい例がファーストリテイリングである。ファストリの2020年8月期の純利益は44%減の903億円だったが、21年8月期は83%増の1650億円と最高益を見込む。強烈なV字回復である。

上場企業全体でも同様だ。QUICKが上場企業の2期先までの業績予想を算出するツール「QUICK Forecast企業業績」を利用して、今期(実績発表済みの翌期、2021年3月期など)と来期(実績発表済みの翌々期、22年3月期など)の業績集計を行っている。予想は9月15日時点である。それによると金融を除く全産業(3359社ベース)の今期の売上高は前期比8.6%減の621兆9741億円、営業利益が同24.2%減の30兆0938億円、経常利益が同21.5%減の31兆8555億円、純利益が同16.4%減の19兆0898億円となった。来期は、売上高が今期予想比6.4%増の661兆8984億円、営業利益が45.1%増の43兆6613億円、経常利益が41.2%増の44兆9751億円、純利益が54.9%増の29兆5685億円となった。これらの予想は大手証券会社の予想と概ね整合的である。

いろいろ数字を並べたが、ポイントだけまとめると、こういうことだ。今期はざっくり2割減益。だが、来期は4~5割増益だ。今期2割減益というのは前の期に100だったものが80になるわけだが、それが来期に仮に5割増えるなら120になる。コロナ前の昨年度対比、2割も増える計算だ。当期利益について言えば、(100-16.4)×1.549 = 129.5 で3割も増える。

集計対象が違うのでQUICKの数値とは必ずしも一致しないが、上場企業(東証1部、2部、新興市場 金融を除く)の当期利益の推移を表したのがグラフ1である。2021年3月と2022年3月期はQUICKの予想増減率を当てはめた。上場企業は2018年3月に約38兆円の当期純利益を稼ぎ2年連続で過去最高を更新したが、QUICKの予想通りなら2022年3月期には約33兆円、最高益の86%の水準まで利益は戻る。従前から述べている通り、「水準」か「方向」「変化率」という点では株式市場は圧倒的に「方向」「変化率」、別な言葉で言えばモメンタムを重視する。コロナ禍という現代に生きているひとにとっては未体験の厄災に見舞われた経済状況から立ち直り、再び過去最高益更新に手が届きそうな水準まで戻る。そのモメンタムを市場は好感するだろう。

グラフ1
出所:QUICKデータよりマネックス証券作成

それでも、やはり業績が過去最高に届かないのであれば、株価も戻り高値を抜けないのではないか?という疑問があるかもしれない。企業業績のピークは2018年3月期で、TOPIXのバブル崩壊後の戻り高値は2018年1月だから最高益となった18年3月とほぼ時を同じにする。決算発表がまとまるのは5月半ばだが、TOPIXが高値をつけた1月の段階で市場は既に最高益更新を織り込んでいただろう。

いまTOPIXはその高値の86%までほぼ戻っている。つまり来期の業績の急回復を織り込んでいまの水準にある…とすれば、株の戻りもこれまでということになる。

グラフ2
出所:QUICKデータよりマネックス証券作成

しかしそこにはバリュエーションの視点が欠けている。TOPIXが戻り高値をつけたとき予想PERは17倍だった。2018年3月期の最高益を便宜的に100としよう。株価はPER17×100=1700だ。QUICKの予想にしたがって2022年3月期には利益は86になるとしよう。問題はこれをPER何倍で評価するかだ。低金利&高流動性の環境下では高いPERが許容される。現在のTOPIXのPERは25倍だが、さすがに今の25倍というPERは業績非開示企業の利益をゼロと置いて計算された異常値だから、そのまま当てはめられない。どのくらいのPERが妥当だろうか。リスクプレミアム5%、リスクフリー金利0%とすればPERは20倍までは許容できるだろう(益利回り5%の逆数)。86×20=1720 である。2018年の戻り高値を超えてくる。

TOPIXのEPSを使ってもう少し細かく予想しよう。現在のTOPIX今期予想EPSは前期実績対比2割減益の約65だ。QUICK予想にしたがって来期は54.9%増益になると仮定すれば101.33になる。市場参加者がこの予想を目にするのは来年の本決算がまとまる2021年5月としよう。今、65からスタートとして11月、12月、来年1月、2月と毎月EPSは5ポイントづつ増えると仮定する。70、75、80…と増加して2021年5月に101.33に達する。一方、PERは今の25倍から毎月1倍づつ低下するという仮定にする。24倍、23倍、22倍と下がり2021年5月には18倍に低下する。それでも101.33×18倍でTOPIXは1824とバブル崩壊後の戻り高値に並ぶ計算だ。NT倍率を14倍として日経平均に換算すれば約2万6000円である。

グラフ3
出所:QUICKデータよりマネックス証券作成