コロナ禍がもたらした木材先物の急騰と住宅市場ブーム

米国シカゴの木材先物相場が急騰している。木材先物は8月に110%上昇し、4月の安値に比べると250%近く値上がりしている。木材先物は株式市場の先行指標とされることもあり、株式市場の変調を教えてくれるシグナルとして筆者も時折参考にしている。

しかし、今回は特殊な事情が市場の価格形成に影響を及ぼしている。新型コロナウイルスの感染拡大によって木材市場の需要と供給のバランスに歪みが出ているものと考えている。

【図表1】木材先物(日足)
出所:カスタムチャート
【図表2】木材先物(週足)
出所:カスタムチャート

当初、米国内ではコロナ禍によって木材需要は減少すると考えられていた。実際、2020年3月から4月にかけては木材先物の価格は低下していた。ところが外出制限を余儀なくされたことによって、人口密度が高く感染リスクが高いとされる都市部を避け、より快適な空間で仕事と生活を確立させたいと考える人が増え、郊外の緑豊かな場所に移り住む現象が加速しているそうだ。また、自宅でDIYを行う人が増えていることも含め、木材に対する需要が増加している。

米商務省が8月25日に発表した7月の新築一戸建て住宅販売戸数(季節調整済)は、年率換算で前月比約14%増の90万1000戸と、2006年12月以来、約13半ぶりの高水準となった。

また、7月の住宅着工件数は前月比22.6%増と、コロナ前の水準に近づいている。超低金利を背景に住宅ローン金利が過去最低水準にあることも住宅市場が活況に沸いている理由の1つである。安定した仕事を持つ人々は、ローンを借り入れ、より広い住宅を購入し、ポストコロナに向けた新たな生活を始めている。

しかし、このような指標を見て、米国経済は好調で住宅ブームが起きている、経済回復の兆候、素晴らしいニュースだと判断するのは時期尚早であろう。木材先物が上昇している背景には供給サイドの問題があるからだ。コロナ禍によって製材所がストップしており、需要に対する供給が6-7割程度に留まっている。

以下のチャートにあるように、米国の建設支出合計は引き続き低迷している。つまり全体の需要が木材相場を押し上げているのではなく、需給のアンバランスによって木材先物の価格急騰が引き起こされているのである。

木材先物(チャート:緑の線)が上昇する一方、米国の建設支出(チャート:赤の線)は低迷している。

【図表3】
出所:ゼロヘッジ

全米ホームビルダー協会によると、最近の木材価格の上昇によって、平均的な家族向けの戸建て住宅の価格は4月下旬から16,000ドル上昇していると言う。また、S&P・コアロジック/ケース・シラーの発表によると、6月の全米住宅価格指数は前年同月比で4.3%上昇し、過去最高を記録した。

指標だけ見れば、米国の住宅建設大手各社にとっては好材料である。米住宅建設大手4社、DRホートン(DHI)、レナー(LEN)、NVR(NVR)、パルト・グループ(PHM)の株価はいずれも8月、過去最高値を更新した。

一方で、住宅ローンの延滞率が急上昇している。6月は8.2%と3月(4.4%)から4%ほどアップした。リーマンショック後の住宅バブル崩壊局面のピークは10.1%だった。新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた住宅保有者を対象に、最長1年のローン支払い猶予を認める対策が3月に議会を通過したが、今後、延滞率が上昇してくる場合は、住宅市場もピークアウトする可能性がある。コロナ禍によって、これまで想定しなかったような波及効果が市場の予測不可能性をもたらす1つの事例であろう。

消費行動の変化によって成功がもたらされたセクターは?

もう1つ、コロナ禍による予測不可能性を表す良い例が個人消費の動向である。専門家やエコノミストと言われる人々は感染が急拡大した期間中、厳しい時期を乗り越えるために、消費者は財布の口を固く閉じたままにしておくだろうと予測したが、消費者の動向はそうした想定を裏切るものであった。

むしろ人々はこれまでと異なる新しい生活様式を求めて財布の口を開いた。米小売大手の直近四半期決算はいずれも大幅増益を達成した。行き場のない屋内に閉じこもっている消費者の需要がこれほど旺盛になるとはウォール街も小売業者もそして商品を供給するメーカーも含め多くの人が予想できなかったことだ。旅行や娯楽などが制限され、節約されたお金が小売に流れたのである。

【図表4】小売大手の第2四半期決算
出所:筆者作成

今回の小売の決算で共通していることが2点ある。1点目は各社ともにネット通販の売上が大きく伸びていること。アマゾン以外は実店舗を持っている企業であるが、リアルとネットを組み合わせた手法を用いることによって売上が急増した。例えば、BOPIS(ボピス)と呼ばれる「Buy Online Pickup In Store」は、ネットで商品を注文して店頭で受け取るサービスを活用し、実店舗の重要性を高めることにもなった。

また、ウォルマートは、4月中旬から、2時間以内に商品を宅配する速達サービスを始めたほか、6月にはカナダの電子商取引システム会社のショッピファイ(SHOP)との提携し、ウォルマートのECサイトでショッピファイが扱う中小企業の商品も販売できるようにし、品ぞろえを拡充した。

2点目は、日用品や生活必需品を取り扱っているセクターであると言うこと。自宅で過ごす時間が増える中、家電やゲーム、キッチン用品などの売上が増えた他、自宅を修繕する需要が高まっており、家庭用の掃除用品や木材、ペンキ、園芸用品などの売上も好調だった。ホームセンター大手のホーム・デポにおける平均購入単価は10%増となり、1,000ドル以上の高額購入も16%増えたと言われている。

旅行や外食、そしてアパレル消費からのシフトが起きている。多くの人がこれまでの人生の中で最も長い時間を自宅で過ごすことを強いられ、新しい家具や電化製品を購入したり、キッチンやバスルームを新しくしたり、仕事しやすい環境を整えるために消費したりと、消費行動に大きな変化をもたらした。前半で述べたように新たに住宅を購入する人まで増えたのだ。

これらはポストコロナを見据えた大きな潮流ではあるものの、短期的には一巡する可能性も否定できない。新型コロナウイルスの感染拡大の動向や特効薬、ワクチンの開発、また高い失業率に伴う経済の減速、政府の経済対策、米国の大統領選挙など不確実な要素が多い。また、米国の失業保険給付金の上乗せは7月末で期限が切れており、消費の先行きについて警戒する声もある。問題は、米連邦政府による景気刺激策が終了した後も売上高の増加が続くかどうかである。

ブルームバーグの記事「Americans Surprise Wall Street With Spending Boom During Coronavirus(米国人はコロナ感染拡大期間中の支出ブームでウォール街を驚かせる)」によると、ある消費者調査で、米国人の4人に3人はすでに景気刺激策の小切手のかなりの額を使っており、ウォルマートはその影響がすでに明らかになっていると指摘している。一方、支出の削減はアパレルや旅行、ガソリン、外食など別のカテゴリーに集中する可能性が高いと考えられている。こうした支出が減少した分、家計はより多くのお金を生活必需品、日用品、そして自宅の改築などの支出に回すことができる。今回の動きが示すように、コロナ禍は損失だけではなく一部分野においては成功をもたらしている。

石原順の注目5銘柄

今回は住宅建設大手から2銘柄、小売大手から3銘柄を取り上げる。

DRホートン(ティッカー:DHI)
出所:トレードステーション
エヌブイアール (ティッカー:NVR)
出所:トレードステーション
ホーム・デポ(ティッカー:HD)
出所:トレードステーション
ロウズ・カンパニーズ(ティッカー:LOW)
出所:トレードステーション
ウォルマート(ティッカー:WMT)
出所:トレードステーション

日々の相場動向については、ブログ「石原順の日々の泡」を参照されたい。