コロナショックで大きな変化が起こりつつあるのは、株式市場だけではありません。国内の不動産マーケットは、株式よりもその影響が大きいかもしれません。その変化は、数字から定量的に確認することができます。

コロナショックによる国内の不動産マーケットの変化

例えば、東京の都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の空室率は、2020年6月は1.97%となり、前月から0.33ポイントも上昇しました。その中でも、渋谷区の苦戦が目立っています。

渋谷区の空室率は、3.38%まで上昇しています。千代田区が1.39%ですから、かなり差が出てきました。また、想定成約賃料で見ても、4~6月の渋谷・恵比寿地区は3.3平方メートルあたり2万7170円で、1~3月に比べて0.6%下がっています。

他の地域に比べ、渋谷エリアの下落率が大きいのは、IT系の企業が多く、オフィススペースの見直しにいち早く対応し始める企業が多いからだと思われます。

しかし、現物不動産の賃料などの動きは、実態を後追いする数字であり、遅効性があると言われています。先行性のある数字があれば、より迅速にその変化を知ることができます。

先行的指標として見るREITの動き

「炭鉱のカナリア」という言葉があります。炭鉱で石炭を掘る時に、カナリアを先頭に炭鉱に入って、一酸化炭素中毒による事故を防止したことに由来した言葉です。つまり、ここでは先行指標としての価値があるものという意になります。

不動産マーケットにおいては、REIT(不動産投資信託)が炭鉱のカナリアになると思います。同じ不動産でも、REITは上場しており、流動性があります。不動産の先行指標として参考になるということです。

ただし、REITにはレバレッジ(借入)がかかっていたり、マーケットボリュームが小さかったりすることなどから、価格変動が大きく触れやすいので、その点は割り引いておく必要があります。

コロナショック後の国内のREITの動きを見ると、不動産の種類によって価格動向が違うことがわかります。

用途別にREITの価格推移を比較すると…

REITをオフィスビル特化型、商業施設特化型、住居特化型と用途別に分類してそれぞれの価格推移を比較してみると、興味深い結果が見えてきます。

住居特化型のREITは、3月に大きく下落しました。しかし、その後価格は回復しており、現状はコロナ前とほとんど変わらない水準まで戻ってきています。これに対して、オフィスビル特化型は3割程度下落した水準、商業施設特化型は1割程度下落した水準で、回復が遅れていることがわかります。商業施設特化型がオフィスビル特化型より下落率が低いのは意外です。

また、最近オフィス指数が再び下落基調になっているのも気になります。オフィスの空室率の上昇のデータによって、投資家がオフィス需要に対して悲観的な見方を強めたことが要因なのかもしれません。

コロナショックによる不動産への悪影響を指摘する人は多いですが、全体を雑駁に語るのではなく、このように個別の動きを丁寧に見ることで、そこに投資のチャンスが見えてきます。

そして不動産の種類別のREITの動きが、今後の実物不動産の動向を探る情報の1つとして活用できることを覚えておきましょう。