過剰なリスク回避は「リスクを取らないリスク」に陥る
資産運用で失敗する最も大きな理由は、リスクの取りすぎです。しかし、リスクを恐れるあまり安全運用しすぎると、今度は「リスクを取らないリスク」に陥ってしまいます。
日本の公的年金の積立金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の2020年の第1四半期の運用は、17兆7,072億円の赤字になりました。これは、四半期ベースで過去最悪の損失です。その理由の1つは、GPIFのアセットアロケーションが、日本債券の比率を下げ、株式や外債の比率を高める積極的なポートフォリオにシフトしているためです。
これに対して、とある政治家が「もっとリスクの低い運用方法にすべき」とコメントしている記事を読みました。
確かに、株式や外貨の比率を下げて、低リスクの資産にしていれば、2020年前半のコロナショックで資産を減らさなかったかもしれません。
しかし、リスクを取らないで年金の運用をしていたら、この数年間の株価上昇の恩恵は受けられなかったでしょう。しかも、もし今後円安やインフレになれば、円ベースの元本が減らなくても、実質的な資産価値は下落していきます。
年金運用のポイントは、インフレや円安といった事態に陥っても、実質的な資産価値を守り、長期的に年金支払いに耐えられる資産構築を行うことです。短期的に損失が発生した時だけ、大騒ぎしてリスクに過剰反応するようでは、いつまで経っても、真っ当な資産運用はできないのではないでしょうか。なぜなら、それは「リスクを取らないリスク」に陥っているからです。
自分では気づかない、「リスクの取りすぎ」
さて、では個人の資産運用の場合、「リスク」はどのように考えるのがよいでしょうか。
リスクはとにかく取れば良いというものでもありません。積極的に資産運用している人は、気づかないうちに、逆にリスクの取り過ぎになっている可能性があります。
特に、資産運用の成績が好調になってくると、より大きなリスクを取ろうと考えがちです。
自分が、適正なリスクを取っているかどうかを客観的に判断するためには、簡単なシミュレーションをやってみるのが良いでしょう。
自分の「リスク許容度」を知る
自分はどこまで資産の下落に耐えられるか。「リスク許容度」を知っていれば、自分の資産全体のリスクを、その範囲内に抑えることで、正しい資産運用が続けられます。
例えば、株式を50%組み入れたポートフォリオでは、株価が2割下落すれば、資産はその半分の1割減り、株価が4割下落すれば、資産は同様に2割減少することが想定されます。
リーマンショックのような大きな経済変動期には、世界の株価が平均して5割近く下落したことがあります。今後も同様のことが起こる場合があるかもしれません。その場合、株式50%のポートフォリオでは、25%の資産減少となります。もし、この程度の資産の減少に耐えられるのであれば、株式50%でもリスクの取りすぎとは言えません。
しかし、株価が下落する時は、為替や、金利も同時にマイナス方向に変動する可能性もあります。
もし不安を感じるのであれば、株価、為替、金利の動きについて、いくつかのシナリオで想定してみると良いでしょう。そして、どのぐらいの損失が発生するか、それに耐えられるのかどうかをざっくりと試算してみることです。
マーケットの変動で起こり得る最悪の相場展開を想定し、それが自分の資産全体に与える影響を試算し、許容できるかどうかを考えてみる。それにより、自分にとっての適正なリスクが見えてきます。
資産運用はリターンより先に、リスクから考える
リスクコントロールの基本は、徹底的な分散です。値動きの異なる様々な資産に分散投資することで、資産全体が1つの方向に偏るリスクをある程度コントロールできます。
分散投資により自分にとって適正なリスクを取ることができれば、資産運用を途中でやめることなく長期にわたって続けることができます。その結果、資産を増やせる可能性が高まると考えられます。
資産運用はリターンから考えるのではなく、リスクから考えるということを覚えておいてください。