新型コロナウイルスの感染が世界規模に拡大してから4ヶ月ほどが経ち、新型コロナウイルスと向き合う「ウィズコロナ」の日々になりました。

世界中で新型コロナウイルスの影響を受けずに生活をしている人がほとんどいないという状況で、大多数の国の経済にもその影響が及んでいます。

本コラムでご紹介をしている新興国も同様に経済のダメージを受けていますが、その程度はどれくらいになるのでしょうか。

新興国の経済危機というと、1980年代のラテンアメリカの債務危機や1997年のアジア通貨危機などを想起する方も少なくないかもしれません。しかし、今回のコラムではアフリカのケニアとナイジェリアという国を例に、新型コロナウイルスが新興国のマクロ経済に与える影響の予測(現時点)をご紹介します。

経済が好調だった新興国、大勢は変わらない見込み

ケニア経済はコロナショックが起きるまでのここ数年間、債務の対GDP比が若干、上昇傾向にあったことを除くと、とても力強い経済成長が一般に評価されてきました。

しかしコロナショックによってサービス業および農作物の輸出が打撃を受け、2020年の実質GDP成長率は0.8%程度にまで急低下することが見込まれています。

また、2,000億円超(GDPの2.1%程度)の対外調達ギャップが生じてしまい、うち800億円程度についてIMFの緊急ファシリティによる資金供給を2020年5月に申請して承認されています。

しかしIMFは、現在の状況をきっかけとした構造改革、財政再建施策がうたれることによって、コロナショックの収束後に民間および公共投資が再び活発になり、2021年以降の経済成長率は2019年までの水準を若干上回る勢いになるのではないかと見込んでいます。

【図表1】ケニアの実質GDP成長率の実績および予測値
出所:ケニアの当局およびIMFの資料に基づいてクラウドクレジット作成

もちろん、IMFはケニアの債務の積み上がりに関わる指標は今後数年間にわたって若干高いものになってしまい、また民間企業、政府機関、金融機関のバランスシートが棄損することを2020年および2021年の経済成長に下方圧力を加えるリスクとしてあげています。

それでもケニアの経済が幅広いセクターによって成り立っていることがコロナショックのようなものへの耐性としてあらわれ、前述の構造改革等によって力強い経済成長が復活するだろう、というのが現時点での見通しとなっています。

2020年マイナス成長に直面する新興国も

一方、同じアフリカの国でも、ナイジェリアの場合は若干状況が異なっています。

ナイジェリアは、その制度の非効率さや汚職のひどさから投資活動が活発でなく、2019年はコロナショック前にもかかわらず、実質GDP成長率が人口増加率を下回っていました。

また、幅広いセクターによって成り立っているケニア経済と比較して、ナイジェリア経済は石油産業に依存しています。そのためコロナショックによる世界的な原油価格下落の影響をまともに受け、2020年の実質GDP成長率はマイナス3.4%まで落ち込んでしまう見込みです。大手格付け会社のうちS&PとFitchは2020年に入ってから、ナイジェリアの信用格付を引き下げました。

【図表2】ナイジェリアの実質GDP成長率の実績および予測値
出所:ナイジェリアの当局およびIMFの資料に基づいてクラウドクレジット作成

外部調達ギャップは1.5兆円程度(GDPの3.2%程度)となり、ちょうどその半分程度は各種開発金融機関からの調達でまかない、残りはすでに減少している準備金の取り崩しや為替レートの下落でまかなわれることが想定され、ケニアと比べると若干厳しめの見通しです。

もっともナイジェリアはもともと政府債務の対GDP比率がそれほど高くなかったこともあり、IMFはストレステストも実施した上で「ナイジェリアが債務危機のような状況にまで陥ってしまう可能性は現時点では低い」と見込んでいます。

また、用途ごとにいくつかに分かれていた為替レートのうち高いものがコロナショックによって下落しました。ですので、この機会に他の為替レートと統一してしまうなど、非効率な制度を効率化できるチャンスでもあると言われています。