JR九州(9142)に投資するアクティビスト、ファーツリーはJR九州の過去の業績ならびに株価実績に不満があり、特に資産構成を問題視していると前回説明いたしました。今回はファーツリーがその問題意識のもとどのような株主提案を行ったかを見ていきましょう。2020年5月11日にJR九州は「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ」というリリースを出しています。そこでは、ファーツリーの株主提案ならびにJR九州の見解が確認できます。

議題は4件です。定款の一部変更が1件と取締役の専任が3件です。取締役の専任は1件につき1名の名前があげられているので、定款変更と取締役専任と捉えていいでしょう。なお、一部の会社提案の取締役専任議案には反対しています。興味深いのは直接に同社資産に関わる提案が入っていないことです。

多くの株主提案は増配、自社株の取得、資産の売却を求めます。増配、自社株の取得は株主還元です。株主であるアクティビストにとっては直接に益になります。そのため、現金や現金化しやすい資産を売却して得た資金で増配、自社株の取得を求めることはアクティビストの株主提案の定番と言っていいでしょう。会社資産の使途は成長のための投資、株主還元が主です。成長のための投資は会社ごとに専門性が高いことや、効果に時間を要することもあり、株主還元が選択されることが多いように思います。

今回、ファーツリーはそういうある意味では要求しやすい株主還元は求めていないのです。ちなみにファーツリーの株主提案は2年連続ですが、2019年は「自己株式の取得」を提案していました。つまり、ファーツリーは株主還元を含む提案から、株主還元を含まない、JR九州の経営改善に主体をおいた提案に変えてきているということです。

昨今の状況を元にそういう提案としたと考えるのが素直でしょう。新型感染症の影響で多くの会社は売上減少に直面しており、手元資金の調達を急いでいます。資産や金融機関への信用が高いJR九州といえども、人の輸送や小売・サービスなど売上インパクトの大きい事業を抱えており、現金流出は避けたい局面です。そこで自社株の取得を提案するのは憚られたと考えてよさそうです。

一方、これまでご説明しているようにアクティビストの提案は株主還元を名目に会社資産の切り売りを図るようなものから、会社の経営改善をともに進めていこうというエンゲージメント型に変わってきています。ファーツリーの株主提案もそういうものと考えることもできるように思います。

そういう経営改善型のアクティビストが重視するのは、エンゲージメント先に取締役を選任してもらうことです。取締役の一員になることで、会社経営に直接に携われる他、会社経営に関わる重要な情報を得られるからです。今回、ファーツリーが取締役選任を提案している3名はいずれも日本の不動産や金融の専門家です。

彼らがJR九州の不動産資産、不動産事業を改善し、よりよい資産構成・資本政策を実現しうると考えているのでしょう。一方、ファーツリーは長期にJR九州社外取締役を務めている2名の会社側提案の取締役候補について反対提案を行っています。両氏は九州の電力会社、ホテルの社長や会長を歴任しており、九州の地銀や学校法人の取締役や理事も務めています。JR九州では両氏を企業経営の専門家であり、電力会社の会長やホテル社長の経歴などもあることから、「ESG・サステナビリティ」、「不動産・まちづくり」の専門家であるとしています。

ファーツリーは株主提案で取締役3人の選任、会社提案の2名の反対を訴えており、JR九州はファーツリー提案の3名いずれも反対しています。JR九州側の説明では「当社の取締役会及び経営陣は一体となり、現在の厳しい事業環境を乗り越えることに注力しております。そのため、金融機関や地元コミュニティとの関係、地域経済への理解が重要となる一方、新たな投資は大幅に抑制する状況にあります」としています。

ファーツリー提案の3名は新規事業や投資の専門性はあるにしても九州の実情を分かっておらず、既存事業運営の能力がないという見方のようです。どういう経営陣が成果を出せるのかは非常に難しい問題で、上記のような論点で判断することは簡単ではないように思います。

ちなみに2019年の株主総会では会社側提案の取締役は全員可決されました。今回ファーツリーが反対している2名はそれぞれ78.86%、80.00%の賛成で可決されました。一方、2019年ファーツリーが取締役に提案した3名はいずれも否決されており、賛成率は41.69%、40.09%、24.77%でした。賛成率の高い方だと過半数に近い水準となっています。

以下がファーツリーの提案の説明とJR九州の株主提案への意見です。ぜひ、ご覧になり、2020年6月23日に迫った株主総会の結果にご注目ください。JR九州株主の方はぜひご自身の議決権の行使を検討いただければと思います。

ファーツリー:JR九州へのプレゼン資料

JR九州:株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ