今回は企業型確定拠出年金(以下「企業型DC」という)に加入していた方が転職した場合の手続きについてお話していきます。企業型DCの加入者は約750万人、サラリーマンの5人にひとりが企業型DCの加入者です。

確定拠出年金は老後資金として60歳以降に受け取る制度なので、これまで積み上げてきた資産は少なくとも60歳まで持ち運ぶ必要があります。転職先に企業型DCがない場合は、自分でiDeCoの口座を作って、これまで積み上げてきた年金資産を持ち運ぶことになります。

企業型DC→iDeCoの移換手続きは6ヶ月以内に、自動移換のデメリット

この手続きで一番大切なことは、転職を決めたら一刻も早く持ち運びの準備を始めて前勤務先の企業型DCにある資産を移す手続きを転職後6ヶ月以内に完了させる、ということです。

なぜ、6ヶ月以内かというと、前勤務先の企業型DCにそのままおいておける待機期間は6ヶ月と決まっているからです。その期間を超えてしまうと、元の勤務先DCにあった年金資産はすべて売却され国民年金基金連合会で現金として仮預かりする状態になってしまいます。これを「自動移換」といいます。

「自動移換」の3つのデメリット

自動移換時・移換後継続的に手数料が差し引かれる

自動移換になる際に手数料として4,348円、その後も4ヶ月目からは毎月52円が手数料として差し引かれます。自動移換に放置しておく期間が長くなれば長くなるほど年金資産は目減りしていきます。このような形で年金資産がゼロになってしまった方はすでに30万人以上に上ります。自分が将来受け取れたはずの資産なのにもったいないことです。

受給するにはiDeCoへの移換が必要

60歳を超えて残高があったとしても「自動移換」にある限りは仮の状態ですので老齢給付金として受け取ることはできません。受け取るためには正規の取り扱いであるiDeCo等に移した上で受け取ることになります。ここでも手数料が1,100円かかります。

自動移換は加入期間の対象外に

3つ目は、「自動移換」に年金資産がある間は、加入者等の期間にはカウントされません。それによって受け取り開始に必要な加入者等期間の条件を満たすことができなくて、60歳になっても受け取れない可能性があります。

このように「自動移換」になってしまうと費用・手続き・受け取り、いずれもデメリットが発生します。そうならないように必ず6ヶ月以内に持ち運びの手続きを完了していただきたいのです。そしてそのためには、受け入れ先となるiDeCoの口座開設を急いでいただく必要があります。

iDeCoの金融機関の選び方

iDeCoの口座はご存じの通り、ひとり1つの金融機関としか契約できませんし、金融機関によって商品・手数料・サービスが異なりますから金融機関選びは重要です。そうはいっても転職で忙しいときに各社のホームページをみて検討するのは大変だと思いますので、ぜひ「iDeCoナビ」をご活用ください。「iDeCoナビ」は私が理事を務めておりますNPO法人確定拠出年金教育協会が金融機関選びをお手伝いするために運営している情報サイトです。

毎月10万人から、多い時には20万人以上の方が「金融機関比較」のコーナーを中心にご利用いただいています。ユーザー登録の必要もありません。お気軽にご利用いただき、自分に合いそうな数社を絞り込み、その金融機関から資料を取り寄せ、最終確認をしたうえで契約先を決定してください。

契約先を決めると、ようやく前職の企業型DCにある資産を持ち運ぶ手続きに入ることができます。口座開設書類と一緒に金融機関から届いている「資産移換依頼書」「資産配分指定書(移換用)」、こちらの2点を一緒に提出すれば手続きは完了です。

この書類の指示を受けて、前職の企業型DCの口座で保有していた商品がすべて売却され、現金になって新しく開設したiDeCoの口座に移り、「資産配分指定書(移換用)」の指示通りに商品の購入を行います。

金融機関によっては「資産配分指定書(移換用)」がなく、移換金についてはあらかじめ決められている商品をいったん購入して、その後ご自身で運用商品を変更してもらうという取り扱いのところもあります。その場合は、移換が完了したという通知がお手元に届いた後に、ご自身で運用商品の変更をスマートフォンなどから行ってください。

この移換金、40代、50代での転職の場合、相当大きいものになる可能性があります。それまで毎月の積立では分散投資していた方の中にも、大きな額で投資信託を一気に購入することに抵抗を感じる方もいるでしょう。

その場合は、まずは預金に預け入れて、何回かにわけて想定していた投資信託商品を購入し、自分のリスク許容度に合った配分にもっていくという方法もあります。無理する必要はありません。マーケットによっては一気に買うほうが結果として利益が出て良いこともあると思いますが、それは後になってみないとわかりません。

ただでさえ転職時はストレスが多いですから、運用になれない方は預金をうまく活用して心理的な負担を減らすことを優先してはいかがでしょうか。

iDeCoの2大メリット 掛金は全額所得控除・運用収益は非課税に

掛金は全額所得控除

新たな掛金をiDeCoで積み立てし、老後のための資産をこれからも育てていただきたいと思います。iDeCoに積み立てをする掛金はご自身の未来の老後資金として積み上がるだけでなく、積み立てている間の所得税・住民税を軽くする税制優遇制度が適用されます。

企業型DC加入者の方はそれまで掛金を会社が負担してくれていたので、このメリットをご存じでない方が少なくありませんが、iDeCoに拠出する掛金は全額所得控除されるという大きなメリットがあります。

例えば、月1万円だとしても年間12万円、その全額が課税所得から差し引かれることになります。個人年金保険のような控除額の上限といったものはありません。課税所得が12万円下がるということは、所得税率が10%の人の場合、住民税とあわせて1年間で2万4000円税負担が軽くなります。

積み立てしている間ずっとこのメリットを享受できますから、もし、ここから20年間積み立てができるとすれば、48万円も税の負担軽減ができます。もちろんこの間、年金資産は積立額だけで240万円増えますし、運用状況次第ですが年金資産が期待以上に増える可能性もあります。

運用収益は非課税に

iDeCoの運用収益は非課税です。税制メリットのある老後資産形成手段としてiDeCoは最強です。せっかくですからそのメリットを掛金の積み立てを行って享受してください。

iDeCoの注意点

ただし、掛金の全額所得控除という税メリットに注目しすぎて、家計として積み立て可能な額をすべてiDeCoの掛け金にないでください。なぜなら、iDeCoは老後資産形成制度なので積み立てた資産は60歳まで下ろせないからです。老後で使用する予定のないお金を掛金にあててください。

積立額変更は、年1回、1,000円単位でできます。まずは、5,000円という最低金額でもよいのでiDeCoに加入する時に積立をスタートして、余裕があれば増額し、老後資産をしっかり育てていってください。

企業型DC→企業型DCの場合

企業型DCがある会社に転職した場合、転職先の企業型DCに加入し、転職先で開設してくれる企業型DCの口座にこれまで積み上げてきた年金資産を移換することになります。前回の「転職する時、iDeCo(イデコ)の手続きはどうなる?【個人型から企業型DCへ】」と同じ手続きで対応できます。

本記事は公開日の2020年5月3日時点の情報となります。