モデルで推測される最適なロックダウンの程度と期間は

このコーナーでは通常、新興国に関わるテーマについてお届けしています。

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためのロックダウンや外出自粛が各国で進む中、新興国もその経済的影響を受け、IMFが支援ファシリティを各種設けているのは読者の方でご存知の方も多いかと思います。

新興国の現状については、健康・安全の観点からは4月19日現在は当初思われたより新型コロナウイルスの影響が大きくなっていません。医療水準の低さから第2の震源地になるリスクなどが危惧されたアフリカでも、実際には亡くなった方の数が0人を含む1桁のみの国ばかりです。

一方でアフリカ諸国を含む新興国各国でも、欧米並みのロックダウンや日本のような外出自粛(部分的なロックダウンといわれます)がとられている国がほとんどで、その経済的影響が心配されます。

先行する国々での働き方は

日本、欧米、新興国と世界中で新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための処置による経済的ダメージが心配される中、そうしたマクロ経済的な影響や、自分自身の在宅勤務が今後どれくらい続くのか気になる方も多いのではないでしょうか。

新型コロナウイルスに関しては、1番最初に感染が拡大した中国や韓国のほか、オーストラリア、ニュージーランド、ギリシャ、タイなどの国ではすでに新規感染者がこの4月のうちに順調に減少しており、それらの国における人々の働き方が、日本が今の感染拡大の波をうまく乗り越えられた時の私たちの働き方の参考になりそうです。

モデルで推計される最適なロックダウンの程度と期間は

日本のメディアではまだ有名な専門家がロックダウンの期間について推測している記事が報道されている程度ですが、実際には猛烈なスピードで、人々の健康・安全の確保と経済的なダメージのバランスをみた最適なロックダウンの程度と期間を推定するモデルの構築が世界で進んでいます。

4月17日にCEPR(イギリスに拠点を置く経済政策研究センター)が運営する政策ポータルサイト「VoxEU」に掲載された論文では、米国での最適なロックダウンの程度と期間についての推計がなされています。本論文では、簡易的に6月からロックダウンの程度の低減がはじまり、夏から秋ごろにかけてほぼロックダウンを終えられる可能性もあるという推計を(再度簡易的に)行っています。

【図表】各主体にとって望ましい米国のロックダウンの程度と期間
出所:Andrew Glover, Jonathan Heathcote, Dirk Krueger, José-Víctor Ríos-Rull, Health versus wealth: On the distributional effects of controlling a pandemic

このモデルでは国民を、① 新型コロナウイルスに感染した場合の死亡率が高い65歳以上世代(図中”Old”)、② 65歳未満の世代のうち、奢侈財の生産など必ずしも日常生活に不可欠ではない業種(=”奢侈財等セクター”)に勤務する人(同”Luxury”)、③ 日常生活に欠かせない財やサービスの生産・提供等に従事する人(同”Basic”)の3種類に分類し、各主体にとって健康・安全の確保と経済的なダメージの両方を考慮した場合の最適なロックダウンの程度と期間を推計し、各主体の人口の比率も加味して国として最適なロックダウンの程度と期間を推計しています(同”Utilitarian”)。

おそらく、あと少しで在宅勤務の期間がより明らかに

ただし、当然推計に使う各種パラメータは米国の状況を加味したものとなっており、日本の場合は3つの主体の人口比率も当然米国とは異なります。また、BCG接種のオフ・ターゲット効果(当初意図したものの範囲外の効果)によるものではないかといわれていますが、日本の場合は新型コロナウイルスの死亡率が米国よりも低くなっているなどの違いがあります。そのため、日本に当てはめるのであれば、国による違いを現時点のモデルで推計できるのかの検証も必要です。

この検証で想定している米国のロックダウンの程度は実際と比べかなり小規模なもので、より大規模な感染を許容している(つまり実際の社会はモデルよりも新型コロナウイルスによる死者の増加を許容せず、実際のロックダウンの解除はモデルが想定する今秋よりもだいぶ後になるかもしれない)など、モデル自体の向上もまだまだ現在進行形で図られている最中です。

こうしたモデルが実際に各国の政策担当者に用いられるのはもう少し先かもしれませんが、現在のスピード感であれば、その「もう少し先」は数週間後からせいぜい数か月先後ではないかと思われます。

私たちにとっても「日本の緊急事態宣言や外出自粛の程度・期間がどれくらいのものになるのか」、そしてさらに重要なこととして、「会社や自分自身がどのように行動するのが結果的に社会にとって最適なのか」をより明確に知れるときが、あと少しでやってきそうです。