米国政府、総額320億ドルを米航空会社の関連企業へ支援

4月14日米国の航空会社業界は、米国政府から支援を受け取ることで合意しました。2兆ドルの経済対策の枠組みを活用してのことです。

株式投資の世界において最も大切なことは、投資をする企業が倒産しないことの確認です。
実際、米国では航空業界の規制緩和が起きた1978年以降、航空業界では何度も会社更生法の申請で倒産が繰り返されてきました。直近では2011年11月にアメリカン航空が会社更生法の申請を行い、同社の株式はニューヨーク証券取引所から上場廃止となっています。

米国航空業界は46万人を雇用しているだけでなく、広大な国で人々の移動を可能とする経済の要という国にとって大事な業界の一つです。
4月14日の政府との合意では、250億ドルが航空会社へ、40億ドルが貨物航空、加えて30億ドルが航空会社の関連企業向けとしての枠が設けられました。
米国から日本に乗り入れている私たち日本人に馴染みのある旅客用航空会社としては、アメリカン航空(NASDAQ: AAL)、ユナイテッド航空(NASDAQ:UAL)、デルタ航空(NYSE: DAL)、ハワイアン航空(NASDAQ:HA)などを含む10社が今回政府との合意に達しています。

アメリカン航空は、58億ドル(41億ドルが補助金、17億ドルが融資)の従業員の給与支払いの為の支援を既に受け取ったと発表しました。デルタ航空も54億ドルの支援額を、そのうち16億ドルは期限が10年間の低金利融資の形で受け取ると、社員向けに通知をしています。今回の援助を受け取る条件として、航空会社は今年の9月30日までに従業員の解雇をできないことになっています。

米国政府、資金援助で将来の株価リターンからの恩恵を得るスキームを構築

もう一つの条件として、米国政府は支援先の企業の株式の新株予約券(ワラント)を受け取ることになっています。
デルタ航空は、デルタ航空の株式の1%を5年間の間に24.39ドルで取得する権利を政府に付与するとしています。私はこのスキームがどうなるか非常に興味を持っていました。米国政府は、過去にもこのような形で資金援助する代わりに上場企業の将来の株価のリターンから恩恵を受けるスキームで、「投資」を成功させてきたからです。

2008年金融危機時、米国政府が得たリターンとは

世界金融危機の際には、米国政府は金融機関を救済する代わりに救済先の優先株等を取得し、企業の将来の可能性の恩恵を受けることになりました。私が昔働いていましたシティグループは、2008年の金融危機の際に米政府から450億ドルの救済支援を受けましたが、その際シティグループは優先株とワラントを政府に提供しました。2011年1月、政府はそれらの証券をオークションという形で市場にて売却しました。その際の「投資」により、米国政府=米国民は123億ドルのリターンを得たといいます。

今回、米国政府とデルタ航空との条件での試算結果は?

今回のデルタ航空との条件を見てみましょう。
デルタの発行済み株式数は約6.4億株ですので、その1%は640万株となります。米政府は、その1%分の株式を24.39ドルで買う権利のワラントを取得します。今回の新型コロナウイルスの事件が起きる2月のデルタ航空の株式は60ドル近辺で取引されていました。
仮に、今後5年間の間でデルタの株価が60ドルまで戻っただけで、米政府は2.28億ドルの利益を手にする計算となります。(60ドル-24.39ドル=35.61ドル, 640万株x35.61ドル=227.9万ドル)

厳密に言いますと、ワラント(株式を買う権利)の保有ですので、今の段階では政府は株主ではないのですが、これらの航空会社の株主と、株価が上昇するとその恩恵を受ける米国政府との利害関係が一致するという非常に興味深い関係ができたことになります。

今回政府と合意した航空会社の株価は、米国市場のアフターマーケットで軒並み上昇しています。