中国五大国有銀行は2010年の通期決算を発表しました。5行合計で5383億元の純利益となっています。金額ベースの順位は中国工商銀行(1398)、中国建設銀行(0939)、中国銀行(3988)、中国農業銀行(1288)、交通銀行(3328)で、それぞれの純利益は1651.6億元、1348.4億元、1044.2億元、948.7億元、390.4億元です。ちなみに、純利益ベースで、中国工商銀行は中国石油(0857)を超え、中国で最も利益額の大きい上場企業となっています。同時に、純利益と預金金額のベースで中国工商銀行は世界1位銀行の地位を維持しています。

純利益の成長率を見ると、2010年7月に香港と中国本土A株に上場したばかりの農業銀行は前年比45.6%の成長率で、業界1位になっています。その次は交通銀行29.6%、中国銀行29.2%、工商銀行28.4%、建設銀行26.3%です。業績成長の主要要因は利ざや収益率の拡大です。中国では利上げが続いていますが、貸出金利の上昇の方が、預金金利の上昇よりも速く、銀行にとっては利ざやの拡大になっているのです。

しかも中国経済が非常に強いため、利上げをしても資金需要は縮小せず、貸し出しは拡大しているのです。各銀行のうち、農業銀行の利ざや収益率は最も高い2.57%であり、前年比+0.29ポイント上昇しています。利ざや拡大のほか、各銀行の金融商品仲介手数料も拡大しています。特に、建設銀行と工商銀行の仲介業務収入はそれぞれ前年比37.6%増と32.1%増となり、その売上成長率はそれぞれの業績全体の成長率を上回っています。

EPS(1株当たりの純利益)について、交通銀行は一番高く前年比23.7%増の0.73元です。その次は建設銀行0.56元、工商銀行0.48元、中国銀行0.39元、農業銀行0.33元。2010年、農業銀行のIPOによって調達された資金を除くと、他の4大銀行は増資によって合計約2700億元の資金を調達しました。それによって、銀行の自己資本比率が高められています。例えば、建設銀行の自己資本比率とコア自己資本比率はそれぞれ前年比0.98ポイント増の12.68%と1.09ポイント増の10.4%となっています。

しかし、その一方で、中国政府は金融引き締め策を実施しているので、各銀行は資金面の圧力を緩和するため、配当性向の水準を引き下げています。例えば、中国銀行は2010年の配当性向を2009年の43%から40%にまで引き下げ、今後3年間は35%~45%に設定するとしています。建設銀行の配当性向は2009年の43.9%から2010年は37.8%に。他の銀行の配当性向も国際銀行業の平均水準である50%を下回っています。

なお、2011年4月5日、中国人民銀行(中央銀行)は4月6日より、金融機関の貸出金利と預金金利を引き上げると発表しました。今回の利上げは2010年以降で4回目、2011年では2回目となっています。調整後、1年物人民元建の貸出金利と預金金利がそれぞれ0.25ポイント増の6.06%と3.25%になります。

しかし、2011年1月と2月、中国のCPI(消費者物価指数)はともに前年同期比4.9%上昇しています。預金金利よりもインフレ上昇率の方が上回る、いわゆるマイナス金利の状態が続いているため、今後も利上げは継続するものと見られます。銀行にとって利上げは前述のように、利ざや拡大につながります。そして、金利を上昇しても資金需要が旺盛で貸し出しが減少しなかったために、2010年、大手銀行は業績拡大を達成できたわけです。中国経済には勢いがあるため、当面、この傾向は続くと思います。しかし、不安がないわけでもありません。中東情勢の悪化などで商品価格などが大きく上昇し、金利が更に大きく上昇していくと、今度は景気が減速し、貸し出し額自体が伸びなくなり、悪くすると不良債権拡大にもつながってくる恐れもあります。もちろん、そうなると銀行にとってはマイナスなので、その点の注意は必要です。