そもそも医療費控除の対象とは

医療費控除は治療や診察のための費用が対象ですので、医師や歯科医への支払や薬品代は対象となりますが、ビタミン剤や予防接種などの健康増進や予防目的の費用は対象となりません。もちろん美容整形も対象外です。

健康診断、人間ドックは、健康維持のための費用ですので対象外ですが、診断の結果、重大な疾病が発見されて治療を行った場合は医療費控除の対象になります。

治療目的のはり、きゅう、あんまマッサージ、柔道整復師等の費用は対象となりますが、疲れを癒すためであれば対象となりません。

電車・バスなどの通院費は対象となりますが、マイカー通院は対象とならず、ガソリン代や通行料、病院の駐車料金は対象外です。ただし、緊急時などのタクシー代は対象となりますので、領収書はもらっておきましょう。

このほか、健康保険の対象外のレーシック(視力回復)やインプラント(歯)、不妊治療なども医療費控除の対象となります。

なお、健康保険や民間の保険会社から保険金を受けた場合は、その給付の目的となった医療費から差し引いた金額が対象となります。

支払った医療費が還付されるという誤解

医療費控除の申告をすれば、支払った医療費が還付されるという誤解は結構あるようです。

医療費控除は、支払った所得税が還付されたり、住民税が少なくなったりする制度です。
しくみは以下の通りです。

所得税額は次の算式で求めます。
 (収入金額-必要経費-所得控除)×税率=所得税額

収入から差し引くものが大きければ大きいほど税金が少なくなります。

医療費控除は所得控除のひとつですから、申告すれば税率をかける前の金額が小さくなります。この結果、所得税が小さくなり、支払っていた所得税が還付されるのです。

例えば、一家の医療費が年間合計30万円だったとします。 

医療費控除は、原則として年間10万円を超えた部分に適用されます。医療費控除の対象は、30万円-10万円=20万円となり、税率を乗ずる前の金額が10万円分小さくくなります。

この例の方が所得税率が10%の人であれば、20万円×10%=2万円の還付となり、その申告データが市町村へ連絡され、この場合は住民税の負担も2万円軽減されます。

ですから、もともと支払うべき所得税がない場合や、住宅ローン控除で所得税がすでに全額還付されて、所得税がゼロの場合は、申告しても税金還付は無いということになります。

ただし、所得税はゼロで申告する意味がないという場合でも、住民税の方で減税できるケースがあります。これは、所得税と住民税では各種控除の金額が異なることから起こります。住民税が発生する人は、あきらめずに医療費の集計をしてみましょう。

年間医療費が10万円以下の場合に医療費控除は受けられないという誤解

年間10万円までの医療費は、原則として医療費控除の対象となりません。一人ではなかなか超えられなくても、同居家族や仕送りしている家族の医療費も合算して、超えれば適用を受けられます。

しかし、所得の少ないときにこの10万円超のハードルは高いと言えます。そこで、所得の少ない(200万円以下)ときには、「所得金額の5%」を超えれば適用できる基準が用意されています。

たとえば、夫の給与所得は200万円(給与収入なら約300万円)を超えているとします。この場合、夫の方で医療費控除を受けるなら医療費合計は一家で10万円を超えなければ適用を受けられません。

一方、妻は年間のパート収入が160万円であるとします。妻の給与所得の金額は105万円(=給与収入160万円-給与所得控除額55万円)です。「所得金額の5%」基準によれば、52,500円(=105万円×5%)を超えていれば、医療費控除の適用を受けられ、妻の所得税と住民税の負担を小さくすることができます。

ふるさと納税のワンストップ特例を利用する給与所得者のうっかりミス

給与所得者の方が、5ヶ所以下の自治体にふるさと納税をした場合は、確定申告しなくてもよいというワンストップ特例があります。

この制度はもともと確定申告をしない給与所得者等の制度です。医療費控除を受けるために申告する場合は、たとえ、自治体にワンストップ特例の申請書を提出していても、ふるさと納税分の寄付先と寄付金額を記載して申告しなければ、ふるさと納税の控除を受けられませんので要注意です。

申告期限の3月15日を過ぎてしまったから、もう無理という誤解

医療費控除を受けられるはずなのに、うっかり忘れていたということもあるでしょう。

一般的に言われる確定申告の申告期限(翌年3月15日)というのは、税金を納める義務のある人の期限です。

還付のための申告であれば、翌年1月から5年以内にすればよいこととなっています。ですから、令和元年分(2019年)の医療費控除なら、令和6年(2024年)12月末までに申告すれば、還付を受けられます。逆に令和2年(2020年)12月までは平成27年分(2016年)以後の分を申告できます。

税務署に行って還付申告する場合は、混雑する確定申告時期を避ける方がストレスはたまらなくていいかもしれません。