マスオさんやタラちゃんが波平さんの介護に大きく貢献したら?
「寄与分」というキーワード、お聞きになられたことありますでしょうか。このたびの相続法改正の目玉の1つに関わるテーマが「特別寄与料の請求」です。
寄与分というのは、被相続人の財産の増加または維持への貢献のことです。
これまでは、
・長男が亡くなった父の家業である農業を無報酬に近い形で手伝っていた
・長女が亡くなった母の介護に専念していた
・次男が亡くなった父の不動産賃貸管理を支援していた
などの場合に、相続人による被相続人の財産形成の貢献を加味して遺産を分割すること(つまりその相続人が本来の相続分より多めに相続すること)が認められてきました。
ただし、あくまでここで加味するのは相続人による寄与分であり、従来は相続人でない者が主張すること(相続の際に財産的に報われること)はできませんでした。
なんだか堅苦しいですね。テレビアニメ「サザエさん」にでてくる磯野家の例で説明します。
波平さんに相続が起きてしまったと考えてみてください(波平さん、ごめんなさい!)。波平さんの相続人である配偶者のフネさんや子であるサザエさん、カツオ、ワカメが波平さんの介護に大きく貢献した場合、その貢献度合いを遺産分割の際に考慮しましょうというのが寄与分の仕組みです。
これに対して子の配偶者であるマスオさんや孫のタラちゃん(!)が波平さんの介護にどれだけ大きく貢献しても、マスオさんやタラちゃんは波平さんの相続人ではないため、これまでの相続では財産的に報われることはありませんでした。
義父を介護した長男の妻も財産的に報われる
経験上、相続人以外の親族の方が被相続人のいわゆるお世話をされていたというケースは意外とよくあります。たとえば次のようなケースです。
【ケース1】
高齢になったAさんは長男夫婦と同居していました。長男は会社員として日常は外で仕事をしており、Aさんの介護には長男の配偶者である妻のBさんが大きく関与していました。
【ケース2】
配偶者や子どもいない都内在住のCさん。相続人となる弟は近県に住んでいます。ただし、ことあるごとにCさんから連絡がくるのは弟にではなく、弟の奥様のDさんにでした。女同士、気が合ったとのこと、連絡があるたびに弟の奥様であるDさんが都内のCさんの自宅にお世話に行っていたそうです。
このたびの相続法の改正で、前述のBさんやDさんといった本来の相続人でない方の貢献が「特別の寄与」として考慮され財産的に報われることとなりました。
では具体的にどのように変わったのかといいますと、
【1】「被相続人の親族」が
【2】「被相続人に無償で療養看護等」をした場合には
相続人に対して「特別の寄与料」を請求できることになり、特別寄与者は相続人と協議して「特別の寄与料」を決めることとなります。
なお、協議が整わない場合には裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができるようになりました。
この改正によって従来、被相続人のお世話をしても報われなかった親族に対して、金銭的に報われる道が開かれました。ただし、この「特別の寄与料」を請求することができるのは、相続があった日から最長でも1年間です。期限が経過するまでに請求しないといけない点に注意が必要です。
特別寄与料は「遺贈」相続税が2割増しで課される
税務上の取り扱いについても触れておきたいと思います。
前述した特別寄与者が受け取る特別の寄与料は、相続税法上は、被相続人から遺贈により取得したものとみなされ相続税の対象となります。これに合わせる形で、特別寄与料を支払う相続人は、相続財産から支払った特別寄与料を差し引いた金額を相続したものとして相続税を計算することになります。
また、相続税法では、元来、相続人の配偶者などが遺贈により財産を取得した場合には、相続税を2割増しにする仕組みになっているのですが、この規定はこの特別寄与料にもあてはまります。ですので「長男の妻」や「弟の妻」の受け取る特別寄与料についても相続税が2割増しで課されることになります。
4回にわたって相続法の改正について解説してきました。
>>(1)預貯金払戻編
>>(2)自筆遺言の方式緩和編
>>(3)法務局による遺言保管制度編
>>(4)特別寄与料
これ以外にも配偶者居住権の創設や遺留分制度の改正など従来の制度と大きく異動しているポイントがあります。日頃はあまり目を向けることのない相続(争族???)について、この機会に一度考えてみるのもよいかもしれません。