「60歳を過ぎたら書くのが筋だ」
北海道富良野市を舞台にする人気ドラマで、俳優(?)のガッツ石松さんが田中邦衛さんに遺言についてこう説きます。
相続の世界に身をおく私としては、ドラマ放映から20年近く経って改めて、ガッツさんはいいこと言っていたのだな、と思います。遺言は残された相続人にとってスムーズに相続手続を進める重要な手段だからです。
というわけで、今回と次回は遺言に関する相続法の改正について解説します。60歳を過ぎた方も、はたまた、過ぎてない方もぜひご参考にしてみてください。
相続トラブルが起こりやすい3ケース
相続人の間で、誰がどの遺産を相続するかという話し合いのことを遺産分割協議といいますが、この話し合いの際に、この遺産は俺がもらう、だとか、お前の方がもらう遺産が多いのはおかしいじゃないか、といったいわゆる典型的な“争族問題”が顕在化することがあります。
・相続人同士の関係が不仲である
・相続人のうちに音信不通になっている者がいる
・遺言者に子どもがおらず相続人となる者が配偶者と兄弟姉妹である
といった場合には、遺言で財産の宛先をつけておくことで、遺産分割協議を回避することが可能となるため、遺言がいわゆる争族問題を解決する非常に有効な手段として用いられています。
扱いが難しく争いの元になりやすかった自筆証書遺言
そんな遺言制度ですが、どんな種類のものがあって、どのように作るのかご存じでしょうか?一般的に遺言制度は、自身で全文を自書する自筆証書遺言と公証人が作成する公正証書遺言が用いられています。
従来、自筆証書遺言は読んで字のごとく全文、日付、氏名を自筆し、相続があった場合には改ざんを防ぐ趣旨から裁判所での検認手続が必要でした。便箋とペンと印鑑があればいつでもどこでも作成可能なことから手軽に作成することができます。
その一方、全文の自書が求められており、加除修正についても厳格な様式が求められています。また、作成した後はご自身で保管することが必要です。そのためせっかく作成した遺言を紛失したり、相続が起きた後見つけてもらえなかったりといった恐れがありました。
加えて、自筆証書遺言はその作成時の経緯、状況が不明瞭であることも多く、遺言の内容に納得のいかない相続人が、この遺言は誰かに脅されて作らされたものだ、とか、遺言者は遺言作成時には認知症であって自分の意思を表現できなかったはずだからその遺言はそもそも無効である、といった争いになることも少なくありませんでした。
もう一方の公正証書遺言ですが、公証人が遺言者からの聞き取りにもとづき文案を作成し、遺言者はこれに署名捺印するだけで作成することができます。
作成手数料がかかるものの、公正証書遺言は公証役場にて保管されることになるので紛失する恐れがありません。また、公証人と証人2名立会いのもとで作成されることから、相続が起きた後、無効といわれる恐れがかなり僅少となります。また改ざんの恐れがないことから検認手続の必要もありません。
パソコン等で作成可能になった目録
今回の相続法の改正では前述の自筆証書遺言の制度について大きく改正がなされ、従前不便であった部分がかなり解消されました。
従来は全文を自書することが求められていた自筆証書遺言ですが、財産の全部又は一部の目録を添付する場合に、その目録は自書する必要がないこととされました。
これにより、図表1の目録はパソコン等で作成されたものや、不動産登記簿謄本のコピー、通帳のコピー等に自署押印するだけでよいこととなります。
しかし、図表2の遺言書本文は、従前どおり自書する必要があります。
この改正により、目録部分につき自書する必要がなくなったので、ご高齢の方が自筆証書遺言を作成しようとするときの事務的な負担は大きく軽減されることになったと思われます。