先週土曜日に、私が担当するマネックス・ユニバーシティ主催のセミナーで、羽生善治棋士と、元棋士で株主優待投資家の桐谷広人さんにお話しいただきました。

私も、幼少時に兄にルールを習って以来、たまにEテレの対戦番組を流し見するなど将棋に親しみを持っています。言うまでもなく羽生氏のファンで、間近でお話を伺えて大・大・大感激でした。

羽生氏によると、一手を決めるプロセスは、まず「直感」で手を絞り、それぞれの場合のシナリオを「読み」、そして「大局観」で最終的に決めるとのことです。若手は読みに走りがちであり、経験とともに大局観が生まれるとの言葉には、さすが歴代最多勝の重みがありました。

ノーベル経済学賞のダニエル・カーネマン教授も、経験によってさまざまな感覚が磨かれると述べています。その域に達するには、例えばチェスの名手で1万時間以上の対局が必要とのこと。また、別の研究でも、情報処理や単純記憶等のピークは20歳前ですが、相手の表情を読む力は48歳、業務で用いる基礎的計算能力は50歳、語彙力は60歳代に最高潮に達するとの結果が示されています。

そういえば、羽生氏は桐谷さんを「コンピュータ桐谷」と呼んでいました。プロ棋士時代の桐谷さんは、読みに読みを重ねる研究派として知られていたとのこと。想像ですが、棋士時代の個別株の分析の後、リーマン・ショック等を経て包括的に株式市場をとらえるようになった結果が、長期保有で優待と配当を重視する今の投資手法なのかもしれません。

羽生氏が帰りがけに色紙に書いて下さった言葉が「玲瓏(れいろう)」。四字熟語の「八面玲瓏」の一部で、周囲を見渡せる、澄み切った心静かな気持ちを表すようです。そうした揺るぎない大局観を持つには、失敗しても折れることなく、何万時間にも亘り対象に集中し立ち向かう情熱が必要なのでしょう。

プロ棋士の世界などはとても遠い存在ですが、それぞれのステージや立場に応じた情熱を持ち続ければ、いつか相応の大局観が持てると信じ、今週も気合いで金融経済市場と向き合いたいと思います。