マネクリにてご執筆いただいておりましたオフィス・リベルタス 創業者 取締役、大江 英樹 氏が2024年1月1日にご逝去されました。心より哀悼の意を表し、ご冥福をお祈り申し上げます。

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シニアは株式投資をやるべきかやらざるべきか?

定年後に時間に余裕ができるようになったし、退職金のようなまとまったお金も入ってきたので株式投資をやってみようというシニアは一定割合いると思われる。逆にシニアだから、リスクを伴う株式投資はやるべきではない、という意見も一方にはある。

これについてはどちらが絶対正しいとか間違っているということはない。結論から言えば、筆者はどちらでもかまわないと考えている。こう言ってしまうとやや乱暴に聞こえるかもしれないので、もう少し丁寧に説明する。

筆者自身は、67歳だが株式投資はおこなっているし、株式投資自体は非常に興味深いものである。ただし、これはあくまでも筆者個人の考えである。言うまでもなく、投資はリスクを伴うものであり、そのリスクを自己責任において負えないのであれば、投資はすべきではない。したがって投資すべきであるとか、すべきではないということは、人によるので一概には言えないのだ。

シニア層の株式投資、メリットは2つの「維持」

とは言え、筆者は本来、投資は年齢に関係なくやった方が良いと考える。そこで、シニアが株式投資をおこなうことについての効用を考えてみたい。筆者はリタイアしたシニア層が株式投資を行なうメリットは2つの「維持」にあると考えている。

まず1つ目は「経済に対する関心の維持」である。現役時代は仕事をやっている関係で、職業は何であれ、否応なしに経済に関する話題に関心を持たざるを得ない。ところが退職し、完全に仕事から引退してしまうと、世の中の経済に関する出来事については、自分で意識して情報を得ることをしない限りは疎遠になってしまう傾向がある。

しかしながら、ありあまる資産を持ち、趣味人として花鳥風月を愛でて暮らすような生活でもしない限り、経済との縁を断ち切ることは難しい。金額の多寡を問わず、自らの意思で株式投資を行なうことはそうした経済に対する関心が喚起されるだけでなく、変化に対して柔軟な思考を持つことにもつながる。

ひと昔前なら「株はボケ防止でやっているんですよ」と自嘲気味に言う人もいたが、まさに株式投資によって脳の活性化が図られるというのは自らの経験に照らしてみてもそのとおりだろうと思う。

2つ目のメリットは「購買力の維持」だ。シニアにとって何よりも大切なのは「お金」ではなく「購買力」なのである。単にお金を持っているだけでは、物価上昇による価値の低下に対応できない。年金はある程度物価上昇に連動する仕組みになっているが、自分の持っている資産はほうっておくだけではその価値=購買力を十分に維持することは困難だ。

もちろん「個人向け国債 変動10年」のようにある程度、金利・物価上昇リスクに対応できるものはあるだろうが併せて資産の一部に株式長期を保有することでインフレに対する対策の1つとなることも事実である。

「退職金投資デビュー」は絶対にNG

一方、シニアが株式投資をする時にしてはいけないことも2つある。

まず1つ目は生活資金を捻出するために株式で儲けようとすることである。5月にコラム「お金に働かせる前に、自分で働こう!」で書いた老後の生活資金の話が奇しくも今回の「老後2,000万円問題」で話題になってしまったのだが、このコラムで書いたとおり、もし不足が生じるのであれば、それは支出を見直すなり、働くなりしてまかなうべきだ。

そして、不足分を補うために株式投資をしようというのは止めた方がいい。なぜなら投資による結果は不確実なものだからだ。

2つ目は、まとまったお金で一度に投資してしまうことである。俗に言う「退職金投資デビュー」というやつだ。これだけは絶対に止めた方がいい。

それまでに十分な投資経験を積んでいるのならまだしも、全く経験のない人が「楽して儲けよう」とばかりに退職金を投資につぎ込むのは最も危険な行為である。経験がない人が投資をするのであれば、少額で少しずつ始めることだ。

最近は売買単位が小さくて売買できる方法も増えている。少しずつ勉強をしながら、大きく値下がりしてもそれが生活にも精神的にも大きな影響を与えない範囲内で行うべきだろう。

以上、シニアの株式投資について述べてきたが、最初の話に戻れば、株式投資はやったほうが良いとは考えるものの、これはあくまでも自分でリスクを負える覚悟のある人だけがやるべきである。どうしても自分にはそういうリスクは負えないということであれば、無理して株式投資などする必要はない。

「投資で失敗して死んだ人」はいるが、「投資しなくて死んだ人」はいない。株式投資は楽しいものだからこそ、シニアにとっては、楽しいと感じられる人が楽しいと余裕をもってできる金額にとどめておくべきなのだ。