新興国市場が下落圧力から反発した第2四半期
新興国通貨のこのところの動きを振り返ると、4月は新興国市場からの資金の流出が懸念され通貨は下落圧力にさらされたが、5月半ばから6月末にかけては、反発に転じた。
米国経済指標で、消費の低下を示唆するものや製造業景況感の一段の低下を受けて、米FRBが予防的な利下げをすると市場が織り込んだこと、そして米ドル金利が低下したことが、反発の主な要因となった。
少なくとも、昨年のように、米ドル金利の先高観から、新興国市場からの資金流出圧力が強まった局面からは、随分と状況は改善してきていることも確かである。
主要国の中央銀行が、金融政策を緩和する方向で検討するようになってきたことも、新興国の金利引き下げ余地を作り出し、金融緩和で経済成長を下支えすることを可能とするだろう。
昨年8月の新興国通貨急落時に目立って下げていた、トルコリラやブラジルレアル、ロシアルーブルなどが6月は揃って反発しており、今後、新興国通貨の先行きについて、上昇トレンドを見込む楽観的な見方も出始めている。しかし、新興国といっても国によっては、まだ不安定な要素を抱えているところもあり、楽観するのは時期尚早と言えるのではないだろうか。
南アフリカランドへの期待が冷え込むリスク要因
足元で、リスクとして認識されている通貨のひとつは、南アフリカ(以下、南ア)ランドだろう。
南アは、経済改革策や国営電力会社エスコムの立て直しなどに取り組んできたが、まだ道半ばで成果に繋がっていない。失業率は27%とリーマンショック後で最悪の水準であり、今年第1四半期のGDP成長率も-3.2%と10年ぶりに大幅な成長鈍化に苦しんでいる。
最大の貿易相手である中国の景気停滞も不安視され、その影響を受けるのではないかとの懸念も増大している。また、南アの与党アフリカ民族会議(ANC)が推進する、南ア準備銀行(中央銀行)の完全国有化の動きが、独立性を損なうものと勘繰られてもいる。
また、格付け会社によるソブリン格付けの見直しの動きも気がかりである。ムーディーズは今年11月に格付け見直しを予定しているそうだが、その時に、南アの格付けをジャンク級に下げるのではないかとの懸念も市場の不安を高めている。
ちなみに、2015年に、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)社がブラジルのソブリン格付けをBB格(投資適格債ではないという扱いを受ける)に引き下げた際には、ブラジルレアルの対米ドル相場は約30%も急落した。
フィッチが2017年にトルコをBB格に格下げした際には、トルコ・リラは約25%下落した。投資適格債でなくなるというリスクは、機関投資家に南ア国債や南アランドへの投資を手控えさせる。そのため、南アランドの反転上昇を予想していた市場も、第1四半期の成長率下振れをきっかけに期待が冷え込んでいる。
アジアの新興国通貨は相対的に安定度が高い
先週末には、トルコでも動きがあった。トルコのエルドアン大統領が、トルコ中央銀行のチェティンカヤ総裁を更迭したのである。
昨年8月以来、通貨リラを防衛するため中銀は、政策金利を24%に据え置いていたが、エルドアン大統領はこの金融政策にたびたび不満を表明していた。景気下支えのために利下げを求めてきたエルドアン大統領とチェティンカヤ総裁には確執が伝えられていたが、関係修復はできなかった模様だ。
市場では、トルコ中銀が次回7月25日の政策会合で金融緩和を開始する可能性が高まったと見ている。トルコ中銀は7月6日に声明を発表し、独立性を維持する方針を表明したが、大統領による中銀総裁の更迭、しかも公然と金融政策に疑義を唱え、任期途中で首をすげ替える手法には、中銀の独立性や権限に関する懸念を強めることになるだろう。
米ドル金利の低下により、売り圧力は和らぐかに見えた新興国通貨だが、一部の国々にはまだ安定感が乏しく、本格的な上昇には時間がかかるだろう。
ただ、従前から指摘している通り、アジアの新興国通貨は、成長率の高さや、経常利益改善を背景に、売り圧力への耐性を増しており、新興国通貨の中では相対的に安定度が高いとみている。