デジタル技術の進歩が米国株の騰勢を後押しした
「平成」が間も無く終わりを迎える。失われた約30年だった「平成」は、日本経済と日本の株式市場にとっては低迷と苦難の時代だった。一方、米国ではGAFAやFANGと言われるようにインターネット技術を活用したグローバルプラットフォーマーが登場し世界を席巻、米国株は史上最高値を更新し、米国経済の強さが一段と加速した30年であった。
この米国株の騰勢を後押ししたのがデジタル技術の進歩であることは、誰も疑いの余地がない事実であろう。米国でヤフーやグーグルがサービスを開始したのは20年程前(1990年代後半)、またマイクロソフトウィンドウズの初期バージョンが発売されたのは約30年前(1985年)で、その売上が飛躍的に伸び始めたのは1990年代半ばからだった。
以下は、平成元年(1898年)と平成30年(2018年)世界時価総額ランキングである。驚くことに平成元年(1898年)には、上位50社のうち日本企業が30社以上ランクインしていた。
しかし、それから30年が経過し、日本企業はトヨタ自動車1社が入っているのみで、上位のほとんどを米国企業が占めている。しかもそれらの企業は30年前とはほぼ顔ぶれが異なり、トップ5はGAFAやFANGを含むハイテク銘柄で占められている。
●世界時価総額ランキング上位10社
デジタル技術の進化及び、この30年の間に生まれた新たなサービスによって、私たちの生活スタイルは大きく変化してきた。インターネットの通信速度は高まり、スマホが普及したことで、単なる通話手段としての電話ではなく、本格的なPCをいつでもどこでも携帯し使用できるようになった。
国連の専門機関である国際電気通信連合(ITU)の報告書によると、2018年末時点の世界のインターネット人口は約39億人と総人口の51.2%に達し、史上初めて半数を超えた。また、世界の総人口の96%は現在、携帯電話のサービス圏内で生活しており、90%が第3世代(3G)以上の通信網でネットにアクセスできる環境にあるという。
SNSを始め、これまでになかったサービスが次々と生まれ、今やインターネットのない世界を想像することはできないほど生活に深く浸透している。例えば、スマホを持っていれば、電車やバスにも乗ることができるし、買い物もできる。
音楽や動画を視聴することも可能で、ニュースや本を読むこと、またメールやSMSで連絡を取ることもできる。外出する際にスマホを忘れてしまうとどうも一日落ち着かない気分にならないだろうか?
アマゾンを始めとしたeコマースの台頭により、ネット上で買い物をするのが当たり前となった。本はアマゾンで購入するため、街角から本屋が姿を消した。音楽は好きな曲を1曲ずつダウンロードし、映画やドラマもストリーミングで好きなときに好きなだけ観ることができるサブスクリプションサービスが常識となった。CDショップやレンタルビデオ店の閉店も相次いでいる。
株式投資についても今やネットでの投資がほぼ主流になっている。インターネット専業のマネックス証券も20周年を迎えた。まさに時代とともに歩んできた企業の1つと言えるであろう。
5Gが自動運転やIoT、AR、AIを大きく進歩させる
これからますますデジタル技術は進化し、私たちの社会や生活を大きく変えていくことになる。本格的なデジタル社会の到来を支える重要な社会インフラとなるのが、次世代の通信規格5Gである。先日、5Gに対応した携帯通信向けサービスの「世界初の商用化」をめぐり、米国のベライゾン・コミュニケーションズ(ティッカー:VZ)と韓国の通信大手KTがそれぞれ名乗りをあげるというニュースがあった。
5Gは米国株式市場においてこの10年で最も破壊的なイベントとの指摘もあるように、すでに関連する銘柄の中には大きく上昇しているものもある。
総務省の「平成30年版通信情報白書」によると、「移動通信のシステムは、音声主体のアナログ通信である1Gから始まり、パケット通信に対応した2G、世界共通の方式となった3Gを経て」、現在では4Gまでが実用化されているという。
さらに「これに続く次世代のネットワークとして注目されているのが5G、即ち第5世代移動通信システムである」として「グローバルの携帯電話事業者による業界団体GSMAによれば、2020年以降世界の5G回線数は、約5年で11億回線、世界人口に対するカバー率は約3割に達する」と予測している。
●5G回線数の予測
その特徴は、1.超高速 2.超低遅延 3.多数同時接続の3つだという。5G通信は、いまの4Gに比べ通信速度が100倍から1000倍になると言われている。
そして、通信ネットワークにおけるタイムラグを極めて小さく抑えられることができるため、自動運転やロボットの遠隔制御、さらには遠隔医療の分野などにおいて効果が期待される。また、基地局1台で100個程度の機器やセンサーを同時にネットに接続することができるため、まさにIoTに必須のインフラとなる。
とはいえ、5Gはようやく第一世代である低周波数帯が立ち上がったばかりである。この低周波数帯の普及によって、YouTubeやNetflixと言った動画をこれまで以上にストレスなく視聴できるようになる。一方、第二世代となるのが高周波帯である。前述の特徴を最大限に発揮するのは、この高周波数帯のサービスによるもので、自動運転やIoT、AR、AI等の技術を大きく進歩させると言われている。
分野別に見る5G関連企業
では、その市場規模はどの程度なのか。英国の調査会社IHS Markiのレポート “The 5G economy : How 5G technology will contribute to the global economy(5G経済:5Gテクノロジーはどのように世界経済に貢献するのか)” から一部を引用する。
5G が世界経済にもたらすインパクトは2035年までに12.3兆ドルと推計されている。これは2016年の米国の消費者支出とほぼ同額。2016年の中国、日本、ドイツ、イギリス、フランスの消費者による消費額の合計を上回る。
世界的な5Gバリューチェーンは、3兆5000億ドルの価値を生み出し、2035年には2200万の雇用を支える。この数字は現在の携帯によるバリューチェーン全体の価値より大きい。2016年版フォーチュングローバル1000におけるトップ13社(ウォルマート、ロイヤルダッチシェル、エクソンモービル、フォルクスワーゲン、トヨタ、アップル、サムスン等を含む)の総売上にほぼ等しい。
5Gバリューチェーンには、年平均2000億ドルの投資があり、ネットワークおよびビジネスアプリケーションインフラにおける5Gテクノロジーの基盤を継続的に拡張し強化する。この数字は米国の2014年における交通インフラ投資のほぼ半分。
5Gの開発は世界的な実質GDPの安定的かつ長期的な成長エンジンとなる。2020年から2035年にかけて、世界の実質GDPに対する5Gの割合はインド経済の規模と同等になるだろう。現在のところは、世界第7位の経済規模に匹敵する。
このようにマーケット規模は巨大で、今後の投資額も莫大になることが想定されている。雇用も含めて、長期にわたって世界経済にプラスの影響があるのではとの期待も高まっている。ただし、一言で5Gと言っても、それぞれのレイヤー毎に多数のプレイヤーが関係している。分野別にどんな企業があるのか、一覧にまとめてみた。
●5G関連銘柄一覧表
大きなマーケットであるだけに、これから新たに参入する企業も増えてくるであろう。また、5Gをベースにした新たなサービスも生まれてくる。これまでのネットワークはハードウェアの進歩によって通信速度を高めてきたが、5Gにおいてはネットワークを効率的に使うためのソフトウェア制御が重要なファクターとなる。
欧米や日本を中心とする陣営が中国のファーウェイやZTEの製品を排除しようとしている。中国製のハードウェアを使用することによって、このソフトウェア制御に関わるデータを盗み取られる可能性があることが、中国製品の排除につながっている。
12日の日経新聞は「ファーウェイが次世代通信規格5Gの半導体を外販する意向があることが分かった」と報じた。5G向けスマホの開発で出遅れていると言われているアップル(ティッカー:APPL)について同社幹部が「5G半導体の外部への販売は開かれている。米アップルが使いたいのなら賛同する」と話したと言う。5Gへの投資は始まったばかり。これからまだまだ大きな地殻変動がありそうだ。
石原順の注目銘柄
以下は筆者が選んだ5G関連の王道5銘柄である。
ザイリンクス(ティッカー:XLNX)NASDAQ<スウィングトレード=トレーディングベースで売り買い>
シエナ(ティッカー:CIEN)NYSE <スウィングトレード=トレーディングベースで売り買い>
ベライゾン・コミュニケーションズ(ティッカー:VZ)NYSE <スウィングトレード=トレーディングベースで売り買い>
アップル(ティッカー:AAPL)NASDAQ <スウィングトレード=トレーディングベースで売り買い>
ディズニー(ティッカー:DIS)NYSE<スウィングトレード=トレーディングベースで売り買い>
日々の相場動向については、ブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。