日経平均は、年初から23,000円を突破するなど、2018年も好調な滑り出しを見せています。日本経済に対して強気派であるウィズダムツリー・ジャパン株式会社最高経営責任者(CEO)のイェスパー・コール氏とマネックス証券代表取締役会長松本大による「2018年、世界経済はどうなるか」と題した対談を2回に渡ってお届けいたします。
(収録日:2017年12月19日)
日経平均4万円!?超強気派に松本大が訊く (後編)

米国は4%成長へ

松本:2018年の世界経済は、どうでしょうか。

イェスパー氏:私はとても強気ですね。2017年も上方修正が多い環境だったのですが、2018年は、特に米国経済は4%の成長を見込んでいます。

松本:減税の影響とかが大きいのでしょうか。

イェスパー氏:米国の減税、これは法人税減税ということだけではなくて、例えば減価償却の対策などが行われることにより、米国内の企業による本格的な成長投資、海外から直接投資が始まると思っています。

松本:レパトリ減税もありますね。

イェスパー氏:はい。米国は2018年に4%成長の可能性は高いと思います。

資金はヨーロッパからアジアへシフト

松本:ヨーロッパはどうでしょうか。

イェスパー氏:ヨーロッパは逆に少し弱気です。なぜかというと、安定政権を作ってないからです。フランスのマクロン大統領は思ったよりいい方向性に向かっているのですが、ご存じのとおりドイツの政権は少し弱くなってしまっています。フォルクスワーゲンとかシーメンスなどのドイツの大企業と話すと、成長投資をどこにするかという話に なった時、ヨーロッパにというのはあまり聞かないです。みんな米国やアジアに向かって投資をしたいと思っています。来年のテーマとして、米国の4%成長を予想しますが、逆にヨーロッパについては弱気に見ています。

松本:アジア、日本はどうでしょうか。

イェスパー氏:これは面白くて、投資戦略について、来年のひとつのテーマはヨーロッパから日本への資金シフトなのです。ヨーロッパの循環的な景気回復は、ほぼほぼ終わったのですが、構造問題が非常に重たいのです。たとえば、ヨーロッパの銀行システムは資本金、自己資本不足という問題が、残念ながらまだ残っているのです。不良債権の問題はまだまだヨーロッパでは解決してないところがあり、だからこそ来年はヨーロッパから日本へグローバル投資家による資金シフトが起こるのではないかと思っています。

日本経済は、強気相場へ

松本:日本経済はどうでしょうか。

イェスパー氏:これは面白くて、日本経済については、私はとても強気です。特に日本の中小企業の余裕が少し戻ってきました。2018年の日本経済は2.5~3%成長する可能性もかなり出てくると思います。

松本:日本の消費も良くなってくるのでしょうか。

イェスパー氏:消費は二極化しています。高齢化社会のため、年齢が上の世代は、あまり余裕がなくて消費への自信がないです。逆に強いところは若い世代です。20~30代は雇用回復を実感するようになってきています。ボーナスが増えるとか、どういう仕事があるか、非正社員、アルバイトではなくて、正社員として働く道がみえてきて、若い世代の購買力と自信が戻ってくることで、消費が青信号になるのではないかと思っています。

松本:若者の購買意欲が戻ってきているというサインが出ているのでしょうか。

イェスパー氏:出ていますね。若い世代の本格的な購買力の先行指数は住宅です。住宅ローンはご存じのとおり、ほぼほぼ回復の入り口です。住宅ローンの伸びが2017年でだいたい3.5%増ですが、16年は2%しかなかった。若い世代の仕事の安心、年収の安定、そして借り入れ能力が上がってきたことで住宅、マンションを購入するなど、この先行指数の動きをみると、消費が根本的に回復してきているのではないかと思います。

松本:来年の経済を考えると再来年の春に平成が終わりますよね。二百何十年ぶりとなる天皇の生前退位が経済に何か影響がありそうでしょうか。

イェスパー氏:生前退位についてはプラスの影響があると思います。もう一つ考えないといけないことは、オリンピックのことです。日本は文化としてはオリンピックの前には(建物や街など)全部綺麗にします。また、建物や街のことだけではなくて、特に地方もなんですね。いま、30年ぶりに地方経済はちょっとずつ動き始めています。もちろんインバウンドの観光客が要因のひとつなのですが、もう一つが日本古来の自信、これが戻ってきており、輸出関連銘柄が多い名古屋地域だけではなくて地域経済の本格的な回復が起こっています。例えば広島。最近、行ったことがありますか。

松本:広島に最後に行ったのは1年前くらいですかね。

イェスパー氏:行くべきですよ。雰囲気が完璧に変わりました。申し訳ないですが3~4年前の広島は寂しかったです。その当時、週末はどう過ごしていますか、と若い方に聞くと、みんな福岡までショッピングに行くと言っていました。今はそうではなくて、広島では本格的な回復があって、ハーバーフロント(臨海地域)の再開発も結構面白いですよ。日本経済については色々な悩みがあると思います。ただ、外国人から見て今の日本の経済は世界の舞台の中ではベストなのです。昔のように企業部門や家計部門のバランスシートの債務が多くて、借金が多くて、動けないという時代はもう終わったのです。

松本:日本は企業も個人もバランスシートは綺麗ですよね。問題はバブルがはじけたあとにバランスシートを直すことを30年間やってきたので、直す癖がついてしまったんですよね。それが問題。

イェスパー氏:そうなんです。私から見ると日本経済の団塊の世代は購買力があるけど、なかなか出てこない。逆に若い世代は、好循環、楽しく儲かる、楽しく消費、そういう好循環に、いよいよ入ったんじゃないですか。

イベントが好循環に作用。日本株は世界の中でも割安

松本:天皇が変わること、その1年後にオリンピックがあること、日本人的にはかなり良いイベントだと思います。昭和天皇崩御時は自粛したんですね。クリスマスツリーも電飾がなかったり。ただ今回は元気でいらっしゃるので、大騒ぎだと思うんですよ。連休とか結婚式とか。日本中が10連休中、すごい数の結婚式が行われると思われます。地方を巻き込むこともとても重要なテーマで、天皇の交代の際は地方も巻き込んでお祭りみたいになり、その後のオリンピックのために町を綺麗にしようとなり、これから先1年おきに良いペースメーカーがあるのでかなり経済は良くなっていくと思うんですよね。

イェスパー氏:これはすごく大事なことだと思います。これにプラスしてお金の世界について考えると、バリュエーションのことがあります。今の日本の市場を分析すると、PERは15倍とか16倍で、PBRもほぼほぼ1に近いわけですが、特に世界の舞台と比べると、これは非常に安いわけなんです。

松本:グローバルインベスターから見るとそんな気がしますよね。

イェスパー氏:世界の美人コンテストという点で見ると、日本は箱入り娘です。

松本:世界的に見ても安いですし、上向きのイベントがあるのでセンチメントが、ようやく、30年間のバランスシートが直ったのに積極性がないという、そういうセンチメントが変わっていく可能性があると思います。

イェスパー氏:1988年とか1989年のバブルのピークのところでは、アロガント(傲慢さ)な日本というのがあったんですね。間違いなく鼻が高くて、なんでも勝つよと思っていたわけです。でも今は全く逆なんですよ。世界の舞台では日本が一番地味で一番熱心。これが日本人なんですよ。日本人は信頼できるという点で、市場に対しても青信号なんですね。

松本:そうすると日本株も強気でしょうか。経済もいいし、センチメントも変わってくるし。バリュエーションも安いから、日本株は青信号!青信号!青信号!ということですね。

イェスパー氏:青信号のことについては、冷静に数字的な分析をしましょう。株式投資はいわば収益のことなんですが、日本の上場企業の収益のパワーは世界一です。 数字で申し上げると、5~6年前は、日本のGDPが2.5%伸びないと増益にならなかった。それが、ここ数年で積極的にコストカットやリストラをやったことにより損益分岐点は随分低下しました。5~6年前まで2.5%成長じゃないと増益にならなかったのが今現在ではそれが0.5%なのです。GDP成長率が0.5%を超えると増益になります。2018年にむけて、コンセンサス、つまりほとんどのアナリストはだいたい10%くらい日本企業が増益するとみているのですが、わたしは30%増益すると思っています。

松本:バブル期に比べて日本の上場企業の利益って3倍くらいでしょうか。

イェスパー氏:そうです。バブルのピークで、TOPIXのEPS(一株あたり利益)はちょうど42円だったんですけれど、今現在は110円です。私の予測ではTOPIXのEPSはオリンピックのある2020年までは200円に行くと思います。だから日経平均はオリンピックまでに4万円と予測しています。

松本:すると2018年は3万円、2019年には4万円。EPSから計算すると、3倍の利益あるのに、バブル時と時価総額は同じくらいですよね。

イェスパー氏:そうです。バブルの時にはPERはとても高いジャパンプレミアムがあったんです。なぜかというとアジアに投資する際、流動性があり、選べる市場は日本しかなかったからです。これは、今は違います。このジャパンプレミアムを復活させ、今の15、16倍のPERを30倍に戻すことを言っているのではないのです。キーポイントとしては、日本の上場企業はマラソンみたいに20年間かけてリストラやっていたのです。その効果が出ているのは今現在なんです。なぜ私が日本に強気であるかというと日本上場企業の収益のパワーが強くなっているからです。これが1番大切なことです。

日経平均4万円!?超強気派に松本大が訊く (後編)

 

イェスパー・コール 氏:ウィズダムツリー・ジャパン株式会社 最高経営責任者(CEO)

2015年7月1日、ウィズダムツリー・ジャパンの最高経営責任者(CEO)就任。
これまで20年にわたり、米大手投資銀行のJ.P.モルガンやメリルリンチなどにおいてチーフストラジスト、調査部長を歴任し、常に日本におけるトップクラスのストラテジスト、エコノミストとして認識されてきた。日本政府の各種諮問委員会のメンバーを務めた実績を持ち、経済同友会の数少ない外国人メンバーである。また、日本語による著書には、「日本経済これから黄金期へ」、「平成デフレの終焉」がある。1986年来日当初は、国会議員の補佐を務める。
ジョンズ・ホプキンス大学の高等国際問題研究大学院にて国際経済学修士を取得。東京大学・京都大学での研究員の経験を持つ。

松本 大(まつもと おおき):マネックス証券 代表取締役会長

1963年埼玉県生まれ。1987年東京大学法学部卒業後、ソロモン・ブラザーズを経て、ゴールドマン・サックスに勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資でマネックス証券株式会社を設立。2004年にはマネックスグループ株式会社を設立し、以来CEOを務める。マネックスグループは、個人向けを中心とするオンライン証券子会社であるマネックス証券(日本)、TradeStation証券(米国)・マネックスBOOM証券(香港)などを有するグローバルなオンライン金融グループである。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカード社外取締役を務める。