米国との軋轢が強まった昨年夏、トルコリラ急落

3月25日、トランプ米大統領は、ネタニヤフ・イスラエル首相の訪米のタイミングに合わせて、ゴラン高原についてイスラエルの主権を認めることを表明し、宣言書に署名した。

ゴラン高原は長くシリア領だったが、第3次中東戦争中の1967年にイスラエルが占領し、1981年に併合していた。トランプ政権としては、イスラエルの総選挙を来月に控えて、苦戦が伝えられるネタニヤフ首相を援護する意図があると伝えられている。

しかし、国際社会の反応は、特にイスラエル周辺のアラブ諸国などが猛反発した。3月27日、国連安全保障理事会も、シリアの要請に基づき緊急会合が開催され、この問題を話し合った。各国からは、米国の決定に非難が集まり、米国の孤立が鮮明になった。

アラブ連盟は3月31日、首脳会議を開催して、トランプ米大統領の決定を批判し、国連安全保障理事会に決議案を提出し、国際司法裁判所の法的な意見を求める方針を示した。

この問題は、単に、イスラエルやシリア、アラブの問題にとどまらない。イランやトルコ、そしてロシアが何らかの形で関与してくると、こじれてしまう。

事実、ロシア、イランの外交筋は、ゴラン高原はシリアに帰属するもので、これを変更することは国連の決定に違反すると声明を発表している。トルコのエルドアン大統領も、トランプ大統領の決定で中東地域が新たな危機の瀬戸際まで追い込まれていると述べて、米国を非難した。

ゴラン高原問題は、間接的にトルコリラに影響を与えている。トルコを巡っては、米国との政治的な軋轢が強まった昨年夏にトルコリラの価格が急落した危機が記憶に新しい。

トルコがソ連製ミサイルの購入を決定したことに続き、今回のゴラン高原問題で、トランプ米大統領に対し、エルドアン・トルコ大統領が猛反発し対決姿勢を露わにしていることは、米国とトルコの政治的な緊張が高まるとの懸念を増幅させる材料となっている。

トルコの外貨準備高が急減、大手米銀がリラ売り推奨

タイミングの悪いことに、3月前半にはトルコの外貨準備高が急減し、個人投資家の外貨預金が急増していたことは、市場を不安定にしていた。

トルコ中央銀行の発表によれば、3月15日までの1週間で外貨準備高は約30億ドル減少して737億8000万ドルになった。そして、トルコ国内の個人投資家の外貨預金は、同週に16億4000万ドルも急増して、過去最高の1,057億ドルに達していたのである。

さらに、3月22日には、大手米銀が調査レポートで、対ドルでのリラ売りを推奨したことがきっかけで外国人からのトルコリラ売りが顕在化し、トルコリラは、1リラ=0.17米ドル台まで下落していた。また、2年物トルコ国債の利回りも20%を上回ってきたほか、国債保証コスト(CDS)も5年ゾーンで450Bps(ベーシスポイント)と昨年8月以来の水準に急上昇した。

翌日23日には、トルコの銀行調整監視機構(BDDK)が、上記の当該レポートが市場を操作する意図で書かれており、投資家を誤った方向に導くもので、リラの過度な変動を招いたとこの大手米銀を非難した。これとは別に、BDDKは複数の銀行が不当な手法により顧客に為替取引を実行させたとして、銀行の調査を始めたと発表した。

エルドアン大統領も3月24日、投機に荷担した銀行は処罰する方針を発表して、締め付けに出た。しかし、こうしたトルコ政府の動きは、市場からすればまるで「魔女狩り」のような行動に見える。こうした政治介入や警告は、かえってトルコへの不信感を増幅させてしまうことになる。

トルコ統一地方選で与党支持に陰り、政権の足元を揺るがす懸念

BDDKは、昨年夏のリラ急落後、外国勢によるリラの一斉売りを抑制するため、国内銀行が外銀に貸し付ける額を株主資本の25%までに制限した。これにより、トルコリラの流動性は枯渇し、リラの売却・空売りは事実上不可能になっている。そのため、リラは先週末には、一旦値を戻し1リラ=0.18米ドル台を回復した。

しかし、市場でのリラの流動性不足は、かえってリラを保有することへの懸念を強めるばかりで、リラ離れによる売り圧力は本質的に解決しないだろう。

加えて、トルコで3月31日に投票が行われた統一地方選が、エルドアン政権の足元を揺るがすのではないかとの懸念も出てきている。暫定集計ベースだが、エルドアン大統領率いる与党は、「イスタンブールでは接戦の末、勝利したものの、首都アンカラと周辺地域の選挙区では野党が勝利し、地中海沿岸の主要都市も野党が制した」との報道があった。

トルコ経済は、短期的で整合的でないエルドアン政権の政策と政治的な不安定要因から、投資家の信認を回復していない。新興国の中でも、潜在力が高く評価され、独自の実用主義を掲げて発展し、経済の優等生と目されたトルコだが、当面、経済・金融面では厳しい状況が続き、トルコリラも不安定な動きになるだろう。要注意である。