2019年は大型のユニコーン企業が数多く上場する

先週金曜日、米配車大手サービスの「リフト」(ティッカー:LYFT)がナスダックに上場した。公開価格が当初の仮条件から引き上げられるなど、IPO(新規公開株式)に対する需要は旺盛。初値は公開価格(72ドル)を約21%上回る87.24ドル、終値は78.29ドルだった。

その数日前(21日)には、ジーンズブランド「リーバイス」を展開する「リーバイ・ストラウス」(ティッカー:LEVI)がNYSEに上場。時価総額は終値ベースで86億4000万ドル(約9,500億円)となった。34年ぶりの上場を記念して、上場当日には証券取引所のトレーダーも普段は禁止されているジーンズの着用が特別に許可されたと言う。

写真はLevi Strauss & Co.オフィシャルtwitterより

今年はピンタレスト(画像共有サービス)、ズーム(Web会議システム)、ウーバー(配車サービス)、 スラック(ビジネスチャットアプリ)、エアービーアンドビー(宿泊施設・民宿を貸し出す人向けのウェブサイト)、ウィワーク(コワーキングスペース)など、日本でもサービス展開する企業の上場が控えている。大型のユニコーン企業が数多く上場することもあり、今年は一段とIPO市場への注目度が高まっている。

2018年は米国企業以外によるIPOが全体の1/4を占めた

簡単に昨年2018年のIPO市場を振り返ってみよう。プライス・ウォーターハウス・クーパーズのレポートによると、2018年には214社が上場。上場数が200社を超えるのは2008年以降で3度目(2013 年と2014年以来)である。

【図表1】年間の米国IPO数とバリューの推移(2012~2018年)
出所:プライス・ウォーターハウス・クーパーズHP

特筆すべきは米国企業以外によるIPOが全体の1/4を占めたことであろう。しかも、米中貿易戦争をめぐる緊張が続いている最中にも関わらず、その半数以上が中国企業であった。セクター別では医薬品、ライフサイエンスが67社と全体の3割を超えた一方、テクノロジーやメディア、テレコム関連は49社が上場した。

10億ドルを超えるメガIPOは2017年に3社だったのに対し、2018年にはテンセント・ミュージック(ティッカー:TME)など、メガIPOが9社あったことも活況を支えた1つの理由である。

【図表2】2018年の平均取引サイズは2億5400万ドルを超え、2014年以来の高水準に
出所:プライス・ウォーターハウス・クーパーズHP

音楽配信サービスのスポティファイ(ティッカー:SPOT)は、新株を発行せずに既存の株式だけを上場させ、幹事となる金融機関を介さない直接上場(ダイレクトリスティング)と呼ばれる異例の手法で上場したことも話題となった。一方、株価は去年4月に上場して以降、200ドル近くまで上昇するところもあったが、足元では高値から3割ほど低下している。

また、去年9月に上場したニオ(ティッカー:NIO)は、高性能な電気自動車の設計・開発・販売を手がける中国企業で、中国版テスラと言われている。その話題性から上場時には時価総額が100億ドル(約1兆1000億円)を超えたが、その後低迷が続いており、直近の時価総額は上場時の半分程度となっている。

一方で、セカンダリーのパフォーマンスが好調な企業も見受けられる。電子署名ソフトウェアを手がけるドキュサイン(ティッカー:DOCU)は上場時から3割上昇、クラウド・セキュリティのジースケーラー(ティッカー:ZS)は公開価格の4倍を超えて推移している。

知名度や話題性から一時的な盛り上がりを見せた企業が、市場からの厳しい洗礼を受けているのに対し、上場時にそれほど話題にはならなかったものの、業績や業容のしっかりした企業は高いパフォーマンスを上げており、セカンダリーにおける強弱が明らかになっている。

今のユニコーンのバリュエーションには将来価値が組み込まれている

では、今年はどんな1年になるだろうか。金融情報データを提供するPitchBookの記事 ”The hunt for public unicorns 公開するユニコーンの獲得” と ”The unicorns are coming (to Wall Street) ユニコーンがウォール・ストリートにやってくる“ から読み解いていこう。

現在のベンチャー企業を取り巻く環境として特筆すべきことは、市場に出てくるユニコーン企業の数が増えていると言うことだけではなく、それらを支援する投資家の数も増えていると言うことである。

例えば、Microsoftが1986年に公開した時、資金を出していた機関投資家は1社だけだったが、今日のユニコーン企業は最低でも50社のVCなど、投資家に支えられている。ウーバーではなんと100もの投資家が名を連ねていると言う。

世界的な金余りを背景に、潤沢な資金がベンチャーキャピタルなどの投資家に集まっており、ベンチャー企業への投資が加速している。結果として非上場にも関わらず、評価額が10億ドルを超えるようなユニコーンと呼ばれる企業が数多く誕生しているのである。

過去においては、ウーバーのような会社は、その評価額が欧州の小国のGDP程度に拡大するずっと以前に公開していたはずであろう。米国でのVC投資数は2009年から2015年の間に倍以上に拡大、取引の価値は272億ドルから830億ドルに増加したと言う。

したがって、今日、ユニコーンへの投資はかつてのようなリターンを生むものにはならなくなっている。すでに現在のユニコーンのバリュエーションには将来価値が組み込まれているのである。

ベンチャー投資の世界では1つの成功が他の失敗の投資を埋め合わせすると言われている。投資家はポートフォリオの中で1社でも成功すればリターンが取れるため、下手な鉄砲とばかりに数多くの投資を行っているのであろう。

ウォーレン・バフェットはIPO銘柄には興味がない

ユニコーン企業の中には戦略として、ウーバーやリフトのように利益よりも市場シェア拡大のためにトップラインの伸びを重視しているところも見受けられる。ちなみに、2018年の売上と純損失から単純計算すると、ウーバーの場合は100ドルの売上に対して約16ドルの損失、リフトは約 42ドルの損失である。

値上げをしない限りは利益が上がらないが、まずは、ライドシェアサービスを拡大することによってタクシーのような競争相手を淘汰し、そこから価格を上げる方向に動くのかもしれない。

ネットフリックス(ティッカー:NFLX)はそれぞれの市場でまずは低い視聴料で顧客を獲得、ある程度のマーケットが取れた時点で視聴料を引き上げる戦略をとっている。

ではどんな企業に投資すれば成功物語となるのか。それはLong Shot的なゴール(達成が難しいと思われるゴール)を持ち、それが達成された場合は社会的な影響力を発揮できるアイデアを持っているCEOがいる会社に投資することであろう。いまや時価総額で世界トップを争うアマゾンが良い例になろう。

アマゾンは単なる本の小売にはとどまらず、多くの産業に変化をもたらしてきた。そしてその革新は今も続いている。

因習を打破するようなトップは変人扱いされ、最初はなかなか一般からの理解を得にくいところがある。ただ、スティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾスのように、今までの常識を打ち破るCEOが何かにとりつかれたかのように取り組むところにこそ何かが起きる。一般の投資家にとって難しいのは、彼らの言うことを正確に理解することができないと言うことだろう。

単なる偶然なのか、それとも次の不況がやってくる前の駆け込みなのか、今年は多くのユニコーンが上場をすることになる。

北米のあるベンチャー・キャピタリストによると、「2019年はIPO企業にとってより重要な年になるであろう。顔ぶれは華々しく、マーケットの受け入れ態勢も万全のように思う。IPOラッシュについて、経済見通しに対する不確実性が高まっているため急いでいると言うのは、ほんの一要素に過ぎない。

2019年の第1四半期のマーケットが強かったこともあり、新たな投資商品に対する市場の意欲は旺盛だ。一部の投資家がウーバーやリフトを含むその他のIPO投資のために、既存銘柄の持ち高を減らしているという話もある」とのことである。

上記コメントは少し浮き足立っているような気もしないではないが、ひょっとすると米国におけるIPO市場の雰囲気を映し出しているのかもしれない。次のアップルやアマゾン、マイクロソフトやアルファベットが誕生する1年となるのだろうか。

ウォーレン・バフェットはIPO銘柄には興味がないとCNBCのインタビューで答えているが、IPO銘柄はとかくお祭り騒ぎになりやすい。話題性や知名度だけに踊らされないような投資をしたい。

石原順の注目銘柄

以下は昨年(2018年)に公開されたIPO銘柄だ。新規公開銘柄は上場時に期待値が最大になりやすい。公開時が天井という銘柄も多く、投資には注意を要する。

ドキュサイン(ティッカーシンボル​:DOCU)NASDAQ<スウィングトレード=トレーディングベースで売り買い>

主にクラウドベースで、電子署名のソフトウェアや関連サービスを提供、契約書などをデジタルで準備し、電子署名により契約書の締結を行う。顧客は大企業、中小企業、個人事業主、専門家、個人など幅広い。

【図表3】ドキュサイン(日足) 順張りのレンジブレイクトレードモデル 
トレーリングストップライン①=蛍光緑・トレーリングストップライン②=紫・売買シグナル 買い=緑の↑(矢印)・売り=赤の↓(矢印)
出所:筆者作成

ジースケーラー(ティッカーシンボル:ZS)NASDAQ<スウィングトレード=トレーディングベースで売り買い>

ユーザーのモバイル・デバイスからアプリケーションやサービスにアクセスする際のクラウド・セキュリティを提供。SaaSベースのセキュリティー・プラットフォームを開発。航空・輸送、小売、金融サービス、ヘルスケア、メディア、電気通信などの幅広い業界にサービスを提供。

【図表4】ジースケーラー(日足) 順張りのレンジブレイクトレードモデル 
トレーリングストップライン①=蛍光緑・トレーリングストップライン②=紫・売買シグナル 買い=緑の↑(矢印)・売り=赤の↓(矢印)
出所:筆者作成

エラスティック(ティッカーシンボル:ESTC)NYSE<スウィングトレード=トレーディングベースで売り買い>

データ検索、分析および視覚化を実行するオープンソースソフトウェアを提供。主にElastic Stackを中心に、Beats(ログ収集)、Elasticsearch(検索・分析エンジン)、Kibana(データの可視化)、Logstash(ログ解析)などのツールを提供する。

【図表5】エラスティック(日足) 順張りのレンジブレイクトレードモデル 
トレーリングストップライン①=蛍光緑・トレーリングストップライン②=紫・売買シグナル 買い=緑の↑(矢印)・売り=赤の↓(矢印)
出所:筆者作成

スマートシート(ティッカーシンボル:SMAR)NYSE<スウィングトレード=トレーディングベースで売り買い>

米国のITサービス企業、クラウドベースで組織内の業務遂行のためのプラットフォームを提供し、作業の計画・実行・管理・自動化・報告のプロセスの効率化を図る。各種デバイスからアクセスし、ワークフローの整理・共有を可能にする。

【図表6】スマートシート(日足) 順張りのレンジブレイクトレードモデル
トレーリングストップライン①=蛍光緑・トレーリングストップライン②=紫・売買シグナル 買い=緑の↑(矢印)・売り=赤の↓(矢印)
出所:筆者作成

セリディアンHCMホールディング(ティッカーシンボル:CDAY)NYSE<スウィングトレード=トレーディングベースで売り買い>

※2019/4/2時点でマネックス証券での取扱いはありません。近日中に取扱いができるよう検討中です。

IT・ソフトウェア持株会社。子会社を通じて、人的資本管理ソフトウェアの開発・作成を手がける。製品「Dayforce」は人事、給与計算、給付、労働力管理、人材管理などを取り扱う。

【図表7】セリディアンHCMホールディング(日足) 順張りのレンジブレイクトレードモデル
トレーリングストップライン①=蛍光緑・トレーリングストップライン②=紫・売買シグナル 買い=緑の↑(矢印)・売り=赤の↓(矢印)
出所:筆者作成

日々の相場動向については、ブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。