依存性嗜好品の市場は「値上げしても売上高は減らない」

今回のレポートで取り上げるのは、タバコ産業と合法マリファナ産業である。タバコは合法ドラッグである。そして、昨年10月にはカナダがマリファナの所持・使用を合法化した。

最初に申し上げておくが、タバコ・マリファナ・アルコールなどの依存性嗜好品の産業が良いとか悪いとかいう社会問題的な視点は、一切除外している。たばこやマリファナ産業が、社会の厳しい批判を浴び続けているのは百も承知である。筆者の視点は、これらの産業のキャッシュ・フローと市場規模である。

タバコ産業は衰退業種と言われているが、発展途上国では成長産業だ。先進国でも加熱式タバコ市場は成長している。そして、タバコなどの依存性嗜好品の市場は<値上げしても売上高は減らない>という特徴を持っている。貧富の差の拡大から世界的に消費が伸びないなか、これらの産業は不景気に強い産業なのである。

嗜好品の市場規模を見てみよう。米国のワイン市場は約7兆円、タバコ市場は約9兆円、ビール市場は約13兆円と言われている。

それに対して、非合法の大麻市場は現在約5兆円。各国の合法化が進むことで、2032年にはグローバル規模で大麻は22兆円規模に成長すると予測されている。それが良いとか悪いとかでなく、時代の変化に対応するのが株式投資であろう。

昨年10月、カナダが嗜好品としてのマリファナの所持・使用を合法化した。国家単位で嗜好品としてのマリファナを合法としたのは、南米ウルグアイに続いて2ヶ国目である。

そのカナダの合法化から間もなく半年が経過しようとしている。合法になったとはいえ、大麻入り食品などの解禁は今年10月以降になる。またカナダの首都トロントがあるオンタリオ州でも、小売店がオープンするのは4月以降となるなど、本格的に動き出すのはこれからと言えそうだ。

NY証券取引所とナスダック市場には、いくつかの大麻関連銘柄が上場している。国を挙げての合法化という話題性から、上場している銘柄が一時盛り上がりを見せたが、それらが現在どのように推移し、投資対象としてどう見ればよいのか、関連ビジネスや米国市場の現状と合わせて取り上げたい。

米国各州が大麻解禁を進める背景に2つの事情が

マリファナ市場は「ゴール・ドラッシュ」になぞらえて「グリーン・ラッシュ」と呼ばれ、今後、急速に拡大していくことが期待されている。

2016年、北米における合法マリファナ産業の収益は67億ドルだったが、2021年までに210億ドルに達すると予測されている。大麻市場の調査を行うThe ArcView Groupのレポートによると、その成長スピードは2000年代のブロードバンドインターネット産業と並ぶほどとされている。

米CNBCの記事(“The marijuana industry looks like the fastest-growing job market in the country” Mar 14, 2019)によると、

マリファナ産業は2018年に前年比44%増の64,389の雇用を生み出した。マリファナを合法化する州が増えるにつれ、より多くの雇用創出が期待される。マリファナ産業における給与は米国の賃金の中央値52,863ドルを11%上回る

とのことで、雇用にもプラスの影響があると見込まれている。

米国では、2014年のコロラド州を皮切りにオレゴン州でも娯楽用大麻が合法化され、2018年1月にはカリフォルニア州が合法化に踏み切った。現在では、嗜好用としてはワシントンD.Cも含め10州が合法である。一方、医療用を合法としているのは、首都ワシントンD.Cの他に33州となっている。

●大麻の合法化の現状
ダークグリーン:医療用と嗜好品として合法 ライトグリーン:医療用のみ合法 グレー:マリファナ非合法 
出所:ブルームバーグ


州が大麻解禁を進める背景には、米国が抱える事情が2つあると考えられる。

1つはオピオイド中毒の問題である。オピオイドは麻薬性鎮痛薬で、中毒や過剰摂取による死亡者が急増しており、2017年にはトランプ大統領がオピオイドの乱用や中毒について公衆衛生上の非常事態宣言を出したほど、米国において社会問題となっている。

CDC(米疾病予防管理センター)によると、毎日、約130人がオピオイドの過剰摂取により死亡しており、その死亡率は今や交通事故を上回っているという。また、米経済諮問委員会(CEA)の報告書によると、2015年に鎮痛剤オピオイドの乱用によって生じた経済コストは最大5,040億ドル、同年の国内総生産(GDP)の2.8%に相当すると試算されている。

西海岸ではアマゾンを始めとする大手ハイテク企業の影響で家賃が急速に値上がりし、街にホームレスがあふれている。一部大手企業の好景気を背景に、街には新しい施設やインフラが整備されてはいたが、街角にはホームレスがあふれ、地元の人によると貧困に加えてオピオイド中毒の問題が深刻化しているという。

マリファナには中毒性がないと言われているが、果たしてこの問題を緩和する一筋の光明となるのだろうか。

もう1つの米国が抱える事情は、各州が税収を増やしたいという思惑を持っていることであろう。では実際に合法化した州において税収は増えたのか。朝日新聞GLOBE+ 2018年12月21日「大麻解禁から5年、コロラドに生まれた新たなビジネス」から以下、抜粋する。

コロラド州の統計によると、2017年の州内の大麻の販売業者は1,000近く。14年に年間7億ドル(約791億円)ほどだった大麻の売り上げは、17年までに15億ドル(約1695億円)を超えている。今年はさらにそれを上回る勢いで、デンバーでも街中を歩けばそこかしこで大麻の販売店が目につく。(中略)

2016年、コロラドには約650万人の旅行者が訪れて大麻を使った。州が依頼した調査によると、州内の大麻消費の約9%は、こうした旅行者によるものと推計されている。全米に先駆けて合法化されたことで、大麻目当てにコロラドにくる人もいるという。(中略)

州がコンサルティング会社に依頼した調査によると、14年時点では、合法事業者経由での販売は大麻需要全体の約65%だった。それが17年にはほぼ100%になったという。大麻の販売には、15%の売り上げ税などがかかる。州の税収やライセンス料収入は、14年の7千万ドル(約79億円)足らずから、17年には2億5千万ドル(約283億円)近くに伸びた。税収は道路や学校建設などに活用されている。

一方、去年から合法化に踏み切ったカリフォルニアではどうなっているのか。

Los Angeles Timesの記事「大麻の合法化から一年、カリフォルニアでは想像したような盛り上がりとなっていない、それはなぜなのか?」(”One year of legal pot sales and California doesn’t have the bustling industry it expected. Here’s why” DEC 27, 2018)では以下のように指摘されている。

2018年における州全体のマリファナによる税収は4億7200万ドル、予想の半分程度しかなかった。多くの人がマリファナを楽しんでいるのは事実だが、売り手は厳しい状況に置かれている。

その理由について、例えば、ロサンゼルスは都市としてマリファナショップの営業を認めているものの、ビバリーヒルズ等、ローカルエリアのルールではその存在は違法になってしまうとのこと。州が認めたからといって、どこでもビジネスができるわけではない。

また、高い税金も予想を裏切ることになった要素のひとつ。というのも、カリフォルニアとロサンゼルスへの税金があり、さらに地域にもお金を納めなければいけない。解禁してから数年後には6,000店ほどにまでマリファナショップが増えるだろうとしていた州の予測も、今のところは547店止まりである。

カリフォルニア州では売上税に加えて娯楽用大麻には15%の税金が課されている。そのため末端価格が高くなり、ブラックマーケットを利用する人も多いそうだ。

大麻常習者の5人に1人が「公的に認められた店舗以外から大麻を購入している」と言う調査もあるとか。合法化されたとしてもすぐに税収で潤うのか、社会的な問題が解消に向かうのかと言うとそう簡単ではなさそうだ。

投資家の資金が集まり始めたマリファナマーケットはまだ黎明期

しかし、合法化により新たな動きも期待される。スタートアップやテクノロジーがマリファナ産業と結びつき、マリファナマーケットがよりオープンになり、モノの良し悪しも可視化されるようになってきた。

「多少高くても良いマリファナを吸いたい」と言う人も増えていると言う。高品質のマリファナを多品種扱うアプリや、マリファナ業界の仕事を探すことができるアプリ等、テクノロジーによって市場の透明性と盛り上がりが期待できる可能性もありそうだ。

米飲料大手のコカコーラが「健康機能飲料の原料として非精神活性成分カンナビジオールの拡大」に目をつけていると言う話もあるように、世界的に合法化が進めば、大手タバコや飲料メーカーがこの産業をコントロールするとも言われている。

ティルレイの大株主は、ペイパルの創業者でシリコンバレーでも影響力をもつピーター・ティールらが設立した投資グループ「プライベティア・ホールディングス(PRIVATEER Holdings)」である。

プライベティアのホームページによると、この投資グループは、ティルレイだけでなく、マリファナに関する情報が集まる情報ポータル「リーフライ(Leafly)」やマリファナ製造と販売の「マーリー・ナチュラル(Marley Natural)」、そしてシアトルを中心に大麻を含んだチョコレートや焼菓子等の食品を展開する「グッドシップ(Goodship)」等にも投資を行なっている。

マリファナマーケットは、シリコンバレーのIT企業で大成功したエンジェルも次に注目し投資を行なっている業界なのである。

また、カリスマ主婦として一世を風靡したマーサ・スチュワート氏は、キャノピー・グロースにアドバイザリーとして参加すると発表した。この株式ブローカーとしての経歴も持つ元カリスマ主婦が、キャノピー・グロースの新たな製品ラインナップの開発をサポートすると言う。

ちなみに、新債券王ジェフリー・ガンドラックは、ヤフー・ファイナンスの「ビットコインの熱狂以外にもマリファナという熱狂がある。それについてはどう思うか?」という質問に答えて、

「確かに若い従業員の中にはCannabisの将来性を信じているものがいる。Cannabisは確かに“マニア”となっているかもしれないが、自分はやらない。確かに儲けの対象になるかもしれない。

最近、高校生の喫煙が毎年増えている。昨年だけで38%増えた。Vaping(電子タバコ)が原因だ。Vapingはタバコよりも悪い。今は高校生の50%が喫煙をしている。これは電子タバコのせいで電子タバコはふつうの喫煙よりも悪い。彼らは次にマリファナを吸うということにつながるのではないか?自分は感心しない」

と答えている。

このように著名人も注目をしており、資金も集まっているようであるが、まだ歩き出したばかりの黎明期のマーケットである。

今後、製品に瑕疵があった場合や健康被害があった場合、訴訟に発展する「偶発リスク」を伴うことが考えられる。また、認可市場であるため、政策の変更等により影響を受ける「政治的なリスク」も否定できない。今後の展開には引き続き注目をしたいが、じっくりと投資ができる企業がどこなのか、それを見分けるにはまだ時間がかかりそうだ。


石原順の注目銘柄

アフリア(ティッカーシンボル:APHA )NYSE <中・長期投資 小額を分散して押し目買い>

カナダ国内や海外で医療用大麻の製造と販売、大麻、医療用マリファナの合成化合物、マリファナオイルを手がけている。患者や医療関係者に販売、またオンラインでも展開している。

【図表1】アフリア(日足)順張りのレンジブレイクトレードモデル 
トレーリングストップライン①=蛍光緑・トレーリングストップライン②=紫・売買シグナル 買い=緑の↑(矢印)・売り=赤の↓(矢印)
出所:筆者作成

キャノピー・グロース(ティッカーシンボル:CGC)NYSE <中・長期投資 小額を分散して押し目買い>

2018年5月にNYSEに最初に上場したカナダのマリファナユニコーン企業。乾燥、油、およびソフトジェルの大麻製品をオンラインで販売する医療用大麻の製造販売会社、チリの大麻販売大手「スペクトラム・カンナビス・チリ」を買収、ラテンアメリカへの進出基盤にする狙いがあるとみられる。

【図表2】キャノピー・グロース(日足)順張りのレンジブレイクトレードモデル 
トレーリングストップライン①=蛍光緑・トレーリングストップライン②=紫・売買シグナル 買い=緑の↑(矢印)・売り=赤の↓(矢印)
出所:筆者作成

クロノス・グループ(ティッカーシンボル:CRON)NASDAQ<中・長期投資 小額を分散して押し目買い>

カナダ、トロントに本社。医療用大麻の栽培や販売を行う大麻生産会社への投資を行う投資会社。

【図表3】クロノス・グループ(日足)の順張りのレンジブレイクトレードモデル 
トレーリングストップライン①=蛍光緑・トレーリングストップライン②=紫・売買シグナル 買い=緑の↑(矢印)・売り=赤の↓(矢印)
出所:筆者作成

ティルレイ(ティッカーシンボル:TLRY )NASDAQ<中・長期投資 小額を分散して押し目買い>

マリファナ企業として初めてナスダックに上場。マリファナを使った医薬品を開発。カナダ保健省からいち早く医療用大麻の製造許可を獲得した。

【図表4】ティルレイ(日足)順張りのレンジブレイクトレードモデル 
トレーリングストップライン①=蛍光緑・トレーリングストップライン②=紫・売買シグナル 買い=緑の↑(矢印)・売り=赤の↓(矢印)
出所:筆者作成

ETFMG Alternative Harvest ETF(ティッカーシンボル:MJ)NYSE <中・長期投資 小額を分散して押し目買い>

個々の大麻銘柄ではなく、大麻市場全体に投資するETF。米国のETFMG社が発行する、通称「MJ」という大麻ETF。
※マネックス証券では、ETFMG Alternative Harvest ETFの取扱いはございませんので、ご注意ください。

【図表5】ETFMG Alternative Harvest ETF(日足)の順張りのレンジブレイクトレードモデル 
トレーリングストップライン①=蛍光緑・トレーリングストップライン②=紫・売買シグナル 買い=緑の↑(矢印)・売り=赤の↓(矢印)
出所:筆者作成

フィリップモリス(ティッカーシンボル:PM)NYSE:<中・長期投資 分散して押し目買い>

アメリカ合衆国ニューヨーク州に本社を置く、世界最大のタバコメーカー。

【図表6】フィリップモリス(日足)の順張りのレンジブレイクトレードモデル 
トレーリングストップライン①=蛍光緑・トレーリングストップライン②=紫・売買シグナル 買い=緑の↑(矢印)・売り=赤の↓(矢印)
出所:筆者作成


日々の相場動向については、ブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。