雇用統計のプレビューレポートで、「再び、景気減速に対する懸念が市場の重石として浮上しているタイミングだけに、今回はNFP(非農業部門の雇用者数)の下振れをいつもよりも慎重に警戒したい」と述べた途端に、NFPは急減した。悪い予感は的中したが、その後のマーケットの反応は予想外だった。

ダウ平均は22ドル安の2万5450ドルと2月14日以来ほぼ3週ぶりの安値で終えたが、朝方は一時220ドル安まで売られた場面があったことを考えると上出来である。ダウ平均は下げ渋り、午後からはほぼ一本調子に戻り、この日の高値圏で終えた。さすが米国市場だと思わせる展開だった。世界景気減速懸念とメディアが騒ぎ立てるなか、NFPの急減に見舞われても、その下げをチャンスと捉えた押し目買いが入って下げを埋めて終える。こうした成熟したマーケットの振る舞いを見せられると、一方的に売り崩される日本株に比べて、投資家の層の厚みが違うことを歴然と思い知らされる。

2月の雇用統計ではNFPが前月比2万人増と前月の31万強から急減し、18万人増を見込んでいた市場のコンセンサスも大きく下回った。ハリケーンに襲われた2017年9月以来の小さい伸びだった。悪天候の影響もあったのだろうが、僕は政府機関閉鎖の影響で統計に歪みが出ているのだろうと思う。

だから米国株の投資家は、ぶれやすいNFPを無視して、前月から失業率が0.2%低下したことと、前年同月比3.4%増と約10年ぶりの高い伸びとなった平均時給を重視したのであろう。2月の雇用統計は労働市場の堅調さが継続していることが伺える内容だった。米国株はそれを評価しての下げ渋りであった。景気減速懸念などというメディアの偏重報道など、どこ吹く風である。

米国株が朝方の下げを埋めて小幅安で終えたことは、週明けの東京市場にポジティブに働くだろう。

今週の注目点は14-15日の日銀金融政策決定会合だ。金融政策は現状維持の一方、輸出や生産など個別の景気認識を引き下げる方向で検討していると報じられている。米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを停止したのに続き、欧州中央銀行(ECB)も年内の政策金利引き上げを断念した直後の決定会合だけに、日銀の手詰まり感がクローズアップされて円高に動くことがリスクだ。あるいはマーケットが円高に動いて、日銀に催促するか。米国株急落がFRBに、ユーロ安がECBに、催促したのと同じように。黒田総裁の会見が見物だが、残念ながら市場がクローズした後である。

海外の注目材料は米国では11日に発表される1月の小売売上高。予想に反し、9年ぶりの悪化となった12月統計の反動が出るか注目したい。しかし、1月分にも政府機関閉鎖の影響がまだ残ることが考えられる。

中国では14日に鉱工業生産や小売売上などが発表される。春節時の中国の統計は歪むので額面通りに受け止めないことが肝要だが、日本株市場はニュースのヘッドラインだけで売り仕掛けてくる確信犯的投機筋(含むアルゴ)にまんまと売り崩される脆弱なマーケットだけに要注意である。

ただし、米中通商協議が米中首脳会談という最終章へと向かっており、ニュースフローとしてはポジティブなものが出やすいことにも留意したい。ここまで下げているだけに、アップサイド・サプライズのほうが大きく相場を動かすだろう。

予想レンジは2万1000円~2万1700円とする。