選挙を迎える東南アジア・サブサハラアフリカの国々

2018年に生じたサプライズの1つはマレーシアでの政権交代であろう。5月に行われた総選挙においてマハティール元首相が返り咲いた結果、前政権下における汚職の追及や、決定されたプロジェクトの一部見直しが進められるなど、マレーシアを取り巻く環境に動きが見られた。

サブサハラアフリカでもいくつかのサプライズが見られた。2月には南アフリカで、汚職問題を背景に支持率を落としていたズマ大統領の辞任(14日)、エチオピアでは民族対立などによる国内の混乱を理由にハイレマリアム首相が辞任表明(15日。首相交代は4月2日)など、任期を待たない元首の交替が相次いだ。

加えて、12月30日にはコンゴ民主共和国(DRC)で大統領選挙が行われ、今年1月に発表された選挙結果で野党候補のチセケディ氏の勝利が確定し、22年ぶりに政権交代が行われることになった(※1)。

DRCでのサプライズで始まった2019年だが、今後、東南アジア・サブサハラアフリカのいくつかの国で大きな選挙が予定されており、各国を取り巻く政治情勢の変化から目が離せない状況となっている。

タイ総選挙は予定通りの実施そのものがサプライズか

タイでは3月24日に総選挙が予定されている。2014年5月に発生した軍事クーデターで発足した軍政から、選挙を通じた民政への移管を目指す選挙となっており、現在の政権を支持する親軍政党の「国民国家の力党」、タクシン元首相の支持母体である「タイ貢献党」、アピシット元首相の率いる「民主党」の3党を中心に争われる構図となっている。

タクシン派の影響力拡大を懸念する現政権は、クーデター以降、政治集会や党員募集などの政治活動を禁止し(段階的に解禁)、選挙日程は何度も延期されてきたが、今年1月にようやく確定し、選挙戦が始まる事となった。

タクシン元首相支持派(農村部に多い)と、反タクシン派(都市部に多い)の対立激化が話題となるタイであるが、今回の選挙では双方の争いだけでなく、4年以上続く軍政に対する国民の評価が問われており、選挙を巡って治安が悪化するリスクはゼロではない。また、親軍政党の得票率によっては、「ねじれ議会」になる可能性もあり(※2)、選挙の円滑な実施と選挙後の勢力図ともに、見通しづらい状況となっている。

【図表1】タイ総選挙構図
出所:各種報道資料より丸紅経済研究所作成

インドネシア総選挙では現職ジョコ大統領が有利だが、予断は許さず

インドネシアでは4月17日に大統領選挙・議会選挙が行われる。大統領選挙は現職のジョコ大統領と最大野党党首のプラボウォ候補の争いであり、2014年の選挙と同じ顔ぶれとなった。

ただし、今回は支持率確保のため、副大統領候補にジョコ氏がイスラム界の権威であるマアルフ・アミン氏を、プラボウォ氏が実業家で若年層にも人気の高いサンディアガ・ウノ氏をそれぞれ選び、既存政党の利害関係から逸脱した任命としてサプライズであった。

筆者が昨年11月末に現地を訪れた際は、これまでの良好な景気動向も追い風となり、ジョコ大統領優勢との声が大半であった。プラボウォ氏については資金不足に苦しんでおり、資金源とされるサンディアガ氏は次回の大統領選挙を見据えた出馬である、といった見方も聞かれた。

ジョコ大統領再選がメインシナリオとされるものの、前回は投票直前にプラボウォ氏が支持率で追い上げた過去があり、また、2017年のジャカルタ州知事選挙での与党敗北のケースもあるため、サプライズの可能性は残存している。

大統領選挙に注目が集まる一方、現地では議会選挙も重視されている。政党成立要件が厳格化されたため、議員は大統領選挙よりも自身の政党の存続と議席確保に関心が向いているとの指摘もあり(※3)、各政党の合従連衡含め、選挙をめぐる情勢は流動的となっている。

【図表2】インドネシア総選挙構図
出所:各種報道資料より丸紅経済研究所作成、1月末時点

ナイジェリアで再び政権交代が生じるか。南アでは与党の得票率に留意

サブサハラでは、域内最大の経済大国であるナイジェリアで大統領選挙が2月16日に予定されている。今回の選挙では現職のムハンマド・ブハリ氏と、オバサンジョ元大統領の下で副大統領を務めていた野党PDP(国民民主党)のアティク・アブバカル氏の戦いが中心となっている。

現状、野党候補のアティク氏には汚職の噂などがつきまとい、ブハリ氏が有力との見方が多い。ただしブハリ氏も、高齢で健康に不安を抱えているとされ、経済対策や治安の改善等、期待されていた成果も見られていないとの批判もある。

2015年の大統領選挙では現職が敗れて政権交代が実現した過去もあり、スケジュール通り選挙が実施されるか、僅差の結果となった場合、与野党支持者の対立に伴う混乱が発生しないかという点も含め注目しておく必要がある。

南アでは5月頃に総選挙が予定されている(※4)。現職のラマポーザ大統領は、ビジネス経験があり、親ビジネス的な政策を推進すると見られていた。しかし、就任後は国内経済が低迷する中、国民、及び党内での支持を固めるため、土地収用や鉱山所有権に関する法律改正などを打ち出している。

総選挙での与党アフリカ民族会議(ANC)の勝利は堅いものの、ANCの得票率が伸び悩んだ場合、ラマポーザ氏はよりポピュリスティックな政策を進める必要に迫られ、ビジネスにとって逆風が吹く可能性も否定できない。

現状、両国とも、大きな混乱は生じていないものの、サブサハラの2大大国における政治動向は周辺国の経済動向、原油やプラチナ等の商品市況に影響を及ぼす可能性もあり留意しておきたい。

【図表3】サブサハラアフリカ選挙カレンダー
出所:各種報道資料より丸紅経済研究所作成、1月末時点

 

(※1)DRCでは2001年に大統領に就任したカビラ氏が2016年末の任期を過ぎても大統領職にとどまり続けていたが、昨年12月30日に2年遅れで大統領選挙、議会選挙が実施された。
カビラ氏は後継者に元内務相のシャダリ候補を指名、最大野党党首のチセケディ氏と、その他野党連合統一候補のファユル氏による三つ巴の戦いとなった。野党勢力が強い一部の地域で大統領選挙を中止するなど、公正性に疑義が呈される選挙が進められたが、1月10日にチセケディ氏の勝利が発表され24日に宣誓式が行なわれた。

(※2)タイでは首相の選出は両院合同で行なわれる。そのため、首相を輩出するには軍政の影響力が強い上院(250議席)と今回の総選挙で選出される下院(500議席)の合計で過半数を取る必要があり、選挙結果によっては首相と下院多数党が異なってくる可能性がある。

(※3)政党の数を削減して安定した議会運営を行なうため、政党が議席を確保するための最低得票率が有効投票の3.5%から4%に引き上げられた。

(※4)現状未定であるが、憲法規定に基づき5月7日から90日以内に実施される見込み。なお、大統領は議会から選出される。

 

コラム執筆:常峰 健司/丸紅株式会社 丸紅経済研究所