70年弱で5倍以上になった北京の人口増にピリオドが

経済発展に伴い人口の増加が続き、現在2,000万人を越える北京市では、住宅価格の高騰、大気汚染や深刻な交通渋滞など、大都市ならではの問題が頻発し、市政府は対策に頭を悩ませています。

市政府下の研究機関が発表した人口動態データによると、オリンピックが開催された2008年の人口は1,771万人でしたが、2016年には2,173万人となり、8年間で22%増加しました。その多くが社会増(他地域からの人口流入)です。

ところが、昨年2017年は2,171万人となり、前年から2.2万人減少しました。

その理由としては、大気汚染対策の一環で、重厚長大産業などの労働集約型の工場が市外に移転したことにより、多くの労働者が市を離れたことが指摘されています。

1949年の中華人民共和国建国時には420万人でしたので、70年弱の間に5倍以上に膨らんだのですが、どうやら人口増にピリオドが打たれたようです。

人口増には歯止めがかかりましたが、こちらも大都市に共通する問題である高齢化の進行は止まっていません。

2010年には、65歳以上の高齢者人口は171万人で、全人口に占める割合は8.7%でしたが、2017年には238万人、10.5%へとそれぞれ増加、上昇しています。少子化の進行と、寿命が延びていることの2つが背景にあります。

北京市の出生率(総人口に占める年間の新生児数の割合)は、1991年に1%を切り、その後も一貫して下がり続けています。

単純計算で、また社会増を考慮しない想定ですと、市民の平均寿命が100歳まで延びても、人口を維持できないということになります。

人口構成の歪みが中国社会の不安定化要因となる可能性

一方で、死亡率(総人口に占める年間に亡くなる人の数の割合)は、過去20年間、0.5%程度で安定的に推移しており、結果、年々高齢化が進行することとなっています。

死亡率の低下には、市民の高学歴化も寄与していると指摘されています。北京市民の学歴は、特に2010年以降高まっており、現在全人口の40%程度が、大学卒業以上の学歴を有しています。

学歴の向上が、健康への意識の高まりや生活の改善につながっています。

研究機関の教授は、高学歴の女性が出産を遅らせる傾向があると述べ、学歴の向上が少子化にもつながっていると指摘しています。

加えて、妊娠した女性に対する職場環境の改善や、休暇制度の充実、さらには妊婦に対する種々のサービスの質の向上を求めています。

中国の法制度は、例えば妊娠、出産、育児休暇中に、国の社会保障制度である「生育基金」からの給付金が支給され、実質的に有給となっている等、日本よりも充実している面もあるのですが、「マタハラ」等の問題は日本と同様に存在するようで、女性の妊娠出産をためらわせる環境要因が様々あります。

政府による政策対応や予算措置では対応できない、人々の意識、心理に係る問題も多々ありますので、状況の改善は容易でないように思われますが、社会の持続可能性という観点からも、対策が求められるところです。

中国に共通の問題ですが、一人っ子政策という他国にない特殊な要因があるため、高齢化が極めて速いペースで進行しています。

北京で生活しておりますと、様々な点で、「中国が昔の日本を追いかけている」ことを実感するのですが、こと少子高齢化に関しては、遠からず日本を追い抜くことが予想されています。

年金制度など、社会保障制度が未整備で、「老親の面倒は子がみるもの」との考えも強く、若年、中年層にかかるプレッシャーは強いものがあります。

人口構成の歪みは、貧富の差の問題とともに、将来中国社会の不安定化要因となる可能性も考えられ、政府には広く国民を巻き込んでの対策を打ち出すことが期待されます。

中国あるいは北京市の動向から、将来日本にも参考となる点が出てくるのではないかと思います。

 

本コラムの年内の配信は今回が最後となります。
平成最後のお正月が、皆様にとり穏やかで良いものとなりますことをお祈り申し上げます。
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