みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。先週は衝撃的なニュースが株式市場を駆け巡りました。ルノー・日産連合のゴーン会長の逮捕です。

氏への容疑の審議はこれからの捜査や裁判を待つしかありませんが、カリスマ経営者で鳴らした氏が何故、という思いは多くの方が感じたのではないでしょうか。株式市場は米国市場の不調を背景に不安定な展開が続いていますが、こういったニュースがさらに市場を冷やすことに繋がらないか、懸念しています。

IRリリースで株価テコ入れを図る?

さて、今回は「IRリリース」をテーマとして採り上げてみましょう。個人投資家の間では簡単に「IR」と呼ぶケースも多いようですが、IRリリースとは端的には企業から開示された何らかの投資家向け発信のことを指します。

企業からの発信が非常に重要であることに疑問の余地はなく、実際にそのリリースで株価が大きく反応するケースは少なからず発生します。そのため、投資(を想定)している企業に対しては情報開示状況をホームページなどで頻繁にチェックしている投資家も多いのではと想像します。

実際、懇意にしている某企業のIRパーソンに言わせると、株価が低迷してくると「何でもいいからIR(リリース)を出して株価テコ入れを図れ!」という要望が投資家から寄せられることも少なくないそうです。

しかし、株価を引上げるIRリリースをそんなに簡単に、あるいは頻繁に出せるはずがありません。そこで、今回はそういったIRリリースの捉え方について議論をしてみたいと思います。

企業が自由に発信できるIRリリースはPR情報

なお、議論を進めていく前に、IRリリースには大きく2種類あることを確認しておきましょう。

1つは適時開示情報と言われるものです。これは上場会社に開示が義務付けられている「重要な会社情報」がその対象となります。

具体的には、(一定幅以上の)業績見通しの修正や業務提携、M&Aなどが含まれ、まさにその会社の企業価値に直ちに大きな影響を与える(可能性が高い)情報と言えるものです。これらは決定あるいは発生が確定した時点で遅滞ない開示が求められており、株価へのインパクトも大きい情報と位置付けることができるでしょう。

もう1つはPR情報と言われるものです。PR情報と言っても、TDnet(東証の運営する適時開示情報伝達システム)を通じて発信されるものですから、あくまで投資家に向けての企業PRと言えるでしょう。

具体的には、新製品の発売や新店舗の開設、集客状況や注力商品の売上状況、企業ロゴの策定などが挙げられます。これらも企業価値向上への取組報告ではあるのですが、それが(株価を決定づける)全社業績にどのくらいの影響をもたらすのかについてまでは踏み込んでいないという点で前者の適時開示情報とは異なります。

当然、適時開示情報はその要件が決まっている以上、企業が自由に発信できるIRリリースはPR情報となります。先ほどのIRパーソンはこのPR情報の開示が求められていたというわけです。

IRの本義を企業が理解しているか見極める

そして、実はこのIRリリースを詳細に見ていくと、当該企業の企業PRのスタンスが実は透けて見えてくるのです。その企業が投資家に対してどういう事象を訴えたいのか、何を重要視しているかはIRリリースに端的に表れます。

投資に臨む際のチェック項目として、そういった観点からIRリリースを眺め直してみるのも有効なアプローチと言えるのです。実際に企業のHPを見ると、IRリリースの量や内容が各社でかなり異なっていることがわかっていただけるのではないでしょうか。

極端な例を挙げてみましょう。

例えば、中には全くといってよいほどIRリリースがなく、市場に情報発信をしようとする姿勢があるのかと疑われても仕方ない企業が存在します。成長を指向する中でPR点が長期間出てこないというのはにわかに信じ難く、こういったケースでは市場を通じたガバナンスの機能不全リスクを考えておかないといけないでしょう。

一方、むやみやたらにPRを出してくる企業も考えモノです。それは重要でないものまでIRリリースに紛れ込ませている可能性があるためです。株式市場を意識しているという点では確かに評価されるべきなのでしょうが、常識的に考えて、企業が重要視している訴えたい事象がそんなに頻繁に出てくるとは現実的ではありません。

あまりにIRリリースが多いと粗製乱造が疑われ、時にはこじつけや煽りといった株価対策的な意図も含んでいると受け止める必要があるでしょう。

より重要なのは、IRリリース(ここではPR情報)の本義を企業側がしっかり理解しているのか、を見極めることです。

具体的には、そのPR情報が企業価値の向上にどのように貢献するか、にまで言及されているかどうかがポイントとなります。IRリリースの対象が投資家である以上、それは当然のアプローチであり、本質的な開示がなされていると受け止めることができます。

しかしそれが単なるPR広告になっているならば、粗製乱造、あるいはIRの本義を理解していないとの判断も可能でしょう。ここから言えることは、IRのスタンスが株主の属性も決めるということを認識しておくことです。

安易な開示には安易な投資家しか、開示の不足には理解の足りない投資家しか、集まってきません。投資銘柄を選別するうえで、こういった視点があることも、ぜひ、頭の片隅に留めていただければ幸いです。

企業がこのコーディネートに参画してくれば、一気に発展・解消が図られる可能性があります。消費規模を拡大させるきっかけとして、そういった動きが出てくることを、筆者は強く期待しています。