セメントやペンキで安易な補修がされる場所も

万里の長城は、中国を代表する歴史的建造物で、ユネスコの世界文化遺産に指定されています。建設は紀元前、秦の始皇帝の時代に始まりましたが、現存する長城、特に写真で良く目にする、山岳地帯の稜線に築かれたものは、多くが明代(1368年から1644年)のものです。

北京から車、路線バスや列車を使って1時間程度で到着することができ、故宮や頤和園(いわえん)と並ぶ、最も人気の高い観光スポットのひとつになっています。

万里の長城は、長く総延長が6,300キロ程度と言われてきましたが、近年、紀元前の時代のものの跡などが続々と発見され、現在では8,800キロを超えるとされています。

北京の近郊を初め、観光地として整備され、ロープウェイなどで簡単に訪問できるところがある一方で、風雪にさらされ劣化したり、維持補修が追い付かず、荒れ放題となり立ち入りが禁止されていたりするところがあります。また、近隣の住民が建材等に用いるために、長城を破壊しレンガを持ち去ってしまった場所もあるなど、保存状態はまちまちです。

現存していると認められるものの総延長は、全体の6%強の573キロのみとなっており、その9割強の526キロが、最も後期の明の時代に建設されたものです。

中国政府も、文化財としての重要性は認めているものの、あまりの規模の大きさに、対応が後手に回っているのが現状です。

時には、セメントやペンキで安易な補修がされ、建設当時の状態からかけ離れてしまっているとして非難される事例も報じられます。

急斜面はラバが頼り、関係者の使命感によって進む補修事業

北京市の中心部から北東に70キロほどはなれた密雲区でも、今年の初めから、地元の住民による修復作業が行われています。

建設当時(明代)の状態に近づけるため、当時の製法で作られたレンガを積む、地道な作業が行われています。現場は急峻な山岳地帯のため、レンガの運搬には家畜のラバが頼りです。山道を1時間かけて登り、ようやく修復作業の現場に到着する難事業であり、急斜面ではラバが登ることができず、人力に頼ることもあるそうです。

中国政府は、2006年に万里の長城の保全に関する規則を定め、施行したのですが、多くの労働力と多額の費用が必要なため、事業はなかなか進んでいません。作業員は朝の5時半から日没まで従事しているとのことで、採用、増員もままならないそうです。現状は関係者の使命感に多くを頼っています。

北京市は、市内の長城の修復保全に、過去10年間に3.74億元(約60億円)を投じましたが、まだまだ足りず、事業は今後長きに渡る見通しです。

観光化されている地域では、入場料収入が充当できますので、整備が図られているのですが、今後はこれを他の地域にも、より幅広く活用すること等が求められそうです。

私も、長城には何度か足を運びました。落書きだらけで興ざめな部分もあるのですが、高いところから俯瞰した景色はやはり素晴らしいものです。

一度は訪れる価値があると思います。政府、観光関係者、地域住民等が協力し、長く保全がされ、これからも多くの人が鑑賞できるよう、願うものです。