1.急速に普及する再生可能エネルギーとその課題
近年、再生可能エネルギーの導入が急速に進んでいます。発電量全体に占める割合はまだまだ小さいものの、例えば太陽光発電は昨年までの10年間の年平均成長率が約50%に達するなど、その成長には目を見張るものがあります(表 1)。

 

 

 

多くの長所を有する再生可能エネルギーですが、太陽光発電や風力発電など気象条件により出力が変動する電源は、大量に電力系統へ導入された場合に、電圧上昇、周波数変動、余剰電力の発生といった問題が生じる可能性があることが指摘されています。また、発電に必要なだけの日射量や風量が十分に得られない状況が続いた場合は、結局は火力などのベースロード電源に頼る必要が出てきてしまいます。

2.鍵となるのはエネルギー貯蔵
再生可能エネルギーの課題を解決し、有効に活用するための方法の一つとして、エネルギー貯蔵技術が挙げられます。再生可能エネルギーを何らかの形で一旦貯蔵し、需要に応じてそれを使うことができれば、再生可能エネルギーの活躍の場は更に広がり、化石燃料の消費量を減らすことができます。エネルギー貯蔵技術には、在来型電源である揚水発電の他、以下に示すような蓄電地や圧縮空気エネルギー貯蔵、水素貯蔵などがあります(表 2)。

 

 

 

3.電力系統での利用の本命は・・・?
利用の仕方は種々考えられますが、再生可能エネルギーを貯蔵し、電力系統へ導入して利用することを考えた場合には「高速応答性」はもちろんのこと、「大容量」「充電状態の管理」「安全性」「長寿命」といった点が重要になってきます。これらの観点から近年注目を集めているのが、レドックスフロー電池(RFB)と呼ばれる蓄電池の一種です。従来型の二次電池の多くはエネルギーが電極材料に蓄えられているのに対して、RFBでは電解液に蓄えられるという点で大きく異なる構造を有しています(図表 1)。意外なことにRFBの歴史は古く、リチウムイオン電池同様1970年代に発明がなされました。それ以降今日まで正負極の電解液としていろいろな酸化還元系の組み合わせが検討されてきましたが、バナジウムイオン水溶液系を用いたバナジウムレドックスフロー電池(VRFB)がもっとも実用化に近いところに来ています。
再生可能エネルギーの貯蔵を目的とした二次電池の有望株として、RFB以外にナトリウム硫黄(NAS)電池やリチウムイオン電池(LIB)、そして古くから用いられている鉛電池があります(表 3)。
VRFBは電力の出力をセル部分で、容量はタンク部分でそれぞれ独立に制御でき、電解液の量を増やせば、大容量化が可能です。同一タンクから複数セルに共通の電解液を供給するという構造から、運転状態であっても充電状態を把握することができます。また、原理的に充放電を繰り返しても劣化せず、結果として充放電サイクルによる寿命は極めて長く、電解液も半永久的に使用が可能です。さらに、電解液は不燃性の物質で構成材料も難燃性のため、火災の危険性は極めて低く、発火のリスクを抱えるLIBやNAS電池に比べたときに大きな利点として挙げられるでしょう。エネルギー密度に課題があるものの、大型化によって解決されることから、設置場所次第では大きな問題にならず、エネルギー貯蔵用途として頭一つ抜け出た存在といえそうです (脚注1)。(表 3)。

 

 

 

 

 

 

4.高い価格ボラティリティ:3年弱の間に価格は10倍へ
そんなVRFBですが、バナジウムの調達に課題があります。バナジウムの地殻中の存在度は銅のようなベースメタルと比べても決して小さくはないのですが、濃集率が低いために経済的に回収できるバナジウムは限定的とされています。生産量は中国、南アフリカ、ロシアに偏っており、三カ国で全体の9割以上を占めています(脚注2) 。それゆえ、価格のボラティリティが高く、五酸化バナジウムの価格は、本年9月末には1ポンドあたり23ドルを超え、底値圏にあった2016年初頭のおよそ10倍の水準に達しました(脚注3) 。

5.新技術に期待
但し、上述の通りRFBの構成自体は比較的単純であり、まだまだ改良の余地がありそうです。実際、日本のみならず欧米、中国、南アフリカなどでも研究開発や実証実験が進められています。酸化還元系では、例えば高分子を用いた有機RFB(脚注4)や、酸素および硫黄を用いた硫黄―空気ナトリウムイオンRFB など様々な研究がなされています。特に硫黄―空気ナトリウムイオンRFBはkWhあたりの電解液のコストが1ドル程度と、従来に比べて大幅なコストの低下が実現されています。
これらの技術の発展や採掘の動向次第では、蓄電池やエネルギー貯蔵の世界が大きく変わる可能性がありそうです。

※脚注
1.高速応答性については蓄電池全般において十分な水準に達していると考えられています。
2.USGS, "Critical Mineral Resources of the Unites States - Economic and Environmental Geology and Prospects for future supply", 2017
3.近年の価格上昇の理由としては、バナジウム需要の90%以上を占める鉄鋼・特殊鋼用途での需要の増加に加え、中国の環境規制により一部工場の稼働が止まったことが挙げられます。
4.Li et al., "Air-Breathing Aqueous Sulfur Flow Battery for Ultralow-Cost Long-Duration Electrical Storage" Joule, 1, 306-327, 2017

コラム執筆:近内 健/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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