中国におりますと、大気汚染や食品の安全など、日本では気にならない健康への問題に悩まされることになります。
幸い、大気汚染は近年かなり軽減され、特に秋は一年で最も空気が澄み、陽気も快適ですので、清々しい時期となります。
一方、食品の安全については相変わらずで、偽装(偽物)のニュースは後を絶たず、また例えば野菜類の残留農薬や土壌、水の汚染など多くの問題が山積したままです。
中華料理は総じてしっかり加熱する調理法が採られており、また香辛料等も多用しますので、食中毒の恐れは少ないのですが、食物から農薬や重金属などを摂取し、体内に蓄積しているのではないかなど、不安は尽きません。
心配しだすと中国で生活できなくなりますので、割り切るしかないのが現状です。

中国で法学及び法曹養成のトップに君臨する中国政法大学が、一般市民や政府機関職員、法曹関係者を対象に、今年の1月から3月にかけ、生活上の心配ごとや政府に対する要望等に関する調査を行ったところ、一般市民の間では、食品の安全と医療サービスに対する不満が最も大きいという結果になりました。
調査は全国100都市の77,000名に対するアンケートにより行われ、回答者の半数が一般市民、残りが行政機関の専門家や法曹という大規模なものになりました。

北京市に住む女性は、3歳の息子が眼科を受診するために、病院に3回通わなければならなかったと不満を述べています。
医師の診察を延々と待った挙句に、「受診の前に検査が必要」と言われたそうで、「どうして病院に着いた時点で案内してくれないのか」と怒っています。至極もっともな話です。
以前の日本がそうであったように、多くの患者が大病院での診察を望み、殺到することも問題なのですが、病院側も、役所の窓口などと同様、まだまだ「サービス」という姿勢には乏しいのが現状です。
商店やレストラン、ホテルなどで徐々に改善が見られていることに比べ、遅れは顕著と言わざるを得ません。

また、上海市の男性は、食品の安全が非常に気がかりとしています。
食品に関する問題がニュースで報じられるたびに、自分が口にするものがどの程度安全なのか否か、心配にさせられるとして、政府に原材料に関する情報を適切に開示するよう求めています。
また、食品検査や、事業者に対する監督等についても、結果を適時的確に公表して欲しいと述べています。

今回、調査を行った担当者は、政府が市民の要求を正しく理解し、適切に対応することが求められるとし、それにより政府に対する信頼が高まり、市民に順法精神が浸透することにもつながるとしています。
確かに、政府の側にもさまざま問題がありますが、市民にも、「金儲けのためには手段を選ばず」という姿勢が見られ、また衛生に対する意識にもばらつきがあるのが現状です。
不正行為の摘発や市民に対する教育啓蒙など、まず政府が主導し、市民の意識を高めていくことが求められます。
また、政府機関や医療機関にサービスの意識を浸透させることはさらに困難と思われますが、こちらも政府が市民のニーズを汲み取り、施策に反映させることが期待されます。

民間部門ではいろいろ改善が見られるのですが、こと公的機関ではまだまだ前時代的なところがあります。
「まだら模様の中国」を実感させられた話題でした。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト