世界第一位と第二位の経済大国である米中の間では、商用や観光での人々の往来が活発化し、近年、航空会社は新路線の開設や増便を進めてきました。
米国の大手デルタ航空は、吸収合併したノースウエスト航空の時代から成田空港を拠点とし、アジア各都市から成田に乗客を集め、米国の各地に送客するスケジュールを組んでいたのですが、4年ほど前から成田‐北京線を含むアジア路線を縮小し、代わりに中国や韓国から米国に直行する路線を拡充しています。
以前、同社の北京便を何度か利用した時には、成田発の便が集中する夕方にはチェックインカウンターや手荷物検査場が大変な混雑だったのですが、最近では閑古鳥が鳴いており、成田空港の地盤沈下を象徴する光景になっています。

北京から米国への直行便は、需要が多く、なかなか航空券の予約が出来ないそうで、デルタ航空の撤退後も、北京から成田行きの便に乗ると、降機後入国審査場ではなく、乗継カウンターに向かう乗客が数多く見られます。
ところが、足元の米中貿易摩擦の激化により需要が縮小し、また燃料価格の高騰で採算性が急激に悪化しているとのことで、米国の航空会社の中に、路線の休止の動きが出ています。

利用客数で米国第1位のアメリカン航空は、5月に北京-シカゴ線を休止したのに続き、10月から上海-シカゴ線を休止すると発表しました。
同社は、ロサンゼルス及びダラスの二都市から中国への便は運航を継続し、また状況が改善すれば、北京-シカゴ線の再開を申請するとしています。
また、ハワイアン航空も、10月初めの国慶節連休明け後に、唯一の中国路線である北京‐ホノルル線を休止すると発表しました。

航空業界のアナリストは、7月の航空燃料の価格が、一年前に比べ40%上昇したとし、特に長距離線の採算性を悪化させていると指摘しています。
米国の関税引上げに対する報復措置として、中国が航空燃料に課す関税を引き上げると発表しており、これも追い打ちになりかねません。
また、往来が活発化していると言っても、実態は双方向ではなく、圧倒的に中国から米国への出国超です。日本人が日系航空会社を好むのと同様に、中国人客は中国の航空会社を選好しますので、米国の航空会社は価格で対抗せざるを得ず、さらに厳しい状況に追い込まれる構図になっています。
中国人の間では、米国は観光旅行の行先として高い人気があり、潜在需要は旺盛なはずなのですが、貿易摩擦の激化、長期化で反米感情が高まると、観光客も減少しかねません。両国政府は互いに譲れない状況となっており、米国の航空会社への逆風はしばらく止まないものと思われます。

日中間の往来については、米中間のような逆風には陥っておらず、引続き好調に見えますが、「中国側の圧倒的な出国超」である点は同じで、何かきっかけがあれば状況一変というリスクはあります。
驚いたことに、来年4月、お花見シーズンの東京行きの予約がどんどん入っており、数年前とは様変わりとなっているのですが、中国人旅行客の需要が縮小すれば、航空会社のみならず、ホテルや商業施設、観光施設なども大きな影響を受けますので、各企業には、万一の事態への備えも求められるところです。
米中貿易摩擦に日本が巻き込まれることにならないかなど、いろいろ心配は尽きません。

両国の制裁合戦で、今後世界経済にも様々な影響が生じると懸念されていますが、既に目に見える形で、それも米国企業への影響が生じているという話題でした。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト