有事、あるいはリスク回避相場に買われるとされるスイスフランが強含んでいます。EUとのブレグジット合意が難航する英国ポンドに対しては4月から、欧州通貨ユーロに対しても5月からスイスフラン高がトレンドとなっています。しかし、8月中旬からは足下で独歩高となっている米ドルに対してもスイスフラン高が進行しており、8月最終週は、米ドルの上昇を上回る最強通貨に躍り出ています。

ジャクソンホールシンポジウムでパウエルFRB議長が「物価上昇率は2%を超えて過熱するリスクはみえない」と発言してから、米長期金利は上値が抑制されてしまった印象ですが、 前回8月29日のコラムで指摘した「米国債の先物市場の過去最大規模の売り越しポジション」に変化が現れました。

最新の米10年国債先物市場のヘッジファンドら投機筋のポジションは、過去最大にまで膨れ上がっていた70万枚の売り越しが、わずか1週間で17万枚も減少し53万枚程度となっています。金利は想定していたようには上がらないとみて、買い戻しに動いたことがうかがえる事象です。

債券の買い戻しですから、債券価格は上昇しますが、利回りには下押し圧力となりますので、この流れが継続していくようなら米国金利上昇はしばらく期待できないということになります。

米国金利上昇が抑制的となるなら、これまで独り勝ちだった米ドル高に修正が入る可能性に対処しなくてはならない、という警戒が出てきたことが、スイスフラン高につながっているのかもしれません。

ブレグジット合意で不安定なポンドや、トルコ向け債権のエクスポージャーが大きい欧州も、トルコリラ下落の底が見えない中では積極的に買いたくない、と考える投資家らによるスイスフラン買いでしょうか。リスク警戒が高まると日本円も買われるのが教科書的値動きですが、日銀が日本国債の長期金利をゼロ近傍に固定する緩和政策を継続している中において、積極的に円も買いにくいのが実情です。

また、市場の一部には「現代版プラザ合意」の噂が広がっています。米中貿易戦争では落としどころが見えない中、中国は人民元安を誘導しているように見え、トランプ大統領は中国とEUは為替操作していると繰り返し不快感を表しています。

中国国営の新華社通信は1985年の「プラザ合意」で米国側の要求を受け入れた日本が経済的苦境に陥ったことを忘れるべきではないとする記事を配信しており、プラザ合意で苦しんだ日本に学べ、と警鐘を鳴らしています。

こうした背景から、中国が人民元の切り上げに応じるのではないかとの観測が散見されるようになってきているのです。8月末、トランプ大統領は、政権が各国の為替操作の有無をどう決定するか検討していると述べており、にわかに10月の為替報告書にも注目が高まってきました。

米国はこれまでも中国が為替を操作していると繰り返し主張してきましたが、公式には認定していません。トランプ大統領は「われわれはその方式を極めて精力的に検討している」と述べており、これまでとは違う方式での認定の可能性もあることを匂わせています。

中国が人民元安を放置するようなら、為替報告書公表時期にはその可能性の高まりに警戒が強まることが想定されます。

中間選挙を控え、トランプ政権はこれまでの成果を強調してPRするだけでなく、懸念事項があれば是正に動く可能性は否定できず、足下で大きく上昇し始めたスイスフランはこうした懸念によるヘッジなのではないかと考えています。