8月24日、注目されたジャクソンホールシンポジウムでのパウエルFRB議長の講演を受けて、米10年債利回りは低下、2年債利回りが上昇しました。長期金利と短期金利の利回り格差が一層縮小してしまったのです。
短期債の利回りが長期債の利回りを上回れば、逆イールドとなります。逆イールドとなると半年から1年後、リセッション(景気後退=国内総生産が2四半期連続でマイナス成長となること)に陥るとされています。
WSJ(ウォールストリートジャーナル紙)は、米国債のイールドカーブが逆イールド化した例は1960年以来で9回あり、そのうちの7回でその後リセッションに陥っていると報じています。 直近ではリーマンショックの前にこの現象が起こりました。
将来のインフレリスクの負担を前提に、長期債にはリスクプレミアムが乗せられるため利回りが高くなります。短期であればインフレリスクは大きくありませんので、利回りは低めになりますね。つまり、通常は短期金利よりも長期金利の方が高くなるものです。
これが逆転すると何故リセッションリスクが高まるのでしょうか。
金融機関は、短期で資金を調達し長期で資金を貸出しています。つまり安い金利で資金を借りてきて、高い金利で貸し出すことで利ザヤを稼いでいるのですが、金利差が縮小すれば利ザヤが減少し、逆イールドとなれば利ザヤはなくなるだけでなく、マイナスとなってしまいます。
この状態は長く続けられませんので長期の資金貸出が抑制されてしまい、景気の悪化につながってしまうのです。逆イールドとなったからと言って必ずリセッションに陥るわけではありません。しかし、過去9回中7回が当てはまっていることから、FRB内には利上げに慎重な意見も出てきており、セントルイス地区連銀のジェームズ・ブラード総裁は強く追加利上げを反対しています。
また、トランプ大統領も8月20日、パウエルFRB議長が利上げを継続する方針であることについて「気に入らない」と述べており、ジャクソンホールシンポジウムでの講演に注目が集まっていました。しかし、パウエルFRB議長は当面は「段階的な利上げが適切だ」と、トランプ大統領からの圧力に屈しない姿勢を示したものの、「物価上昇率は2%を超えて過熱するリスクはみえない」と発言しました。
当面の段階的利上げが適切のコメントを受け、政策金利上昇の影響を敏感に反映する短期債利回りが上昇した一方で、将来のインフレを織り込む形で上昇する長期債の利回りが急低下。長期債利回りの低下は株式市場に好感され、S&P500、NASDAQ総合指数といった米国株インデックスは最高値を更新しています。これをゴルディロックスの再来として、リスクテイク相場が再開するとみる向きも増えた印象です。
長期債利回りの低下は、日米金利差という切り口から見ればドル/円相場の下落要因ですが、堅調な米国株市場を受けて日本株市場のセンチメントも改善しており、リスクテイクムードとなればドル/円相場の急落は考えにくいところです。
ただし、長期金利は上値が抑制されてしまった印象が強く、ドル独歩高だったこれまでのトレンドに変化が出てくるかもしれません。トルコリラ下落のショックでトルコ向け債権のエクスポージャーが大きいとして売られた欧州の通貨ユーロは、ネットショート(投機筋の売り買いのポジションを相殺した時に売りが大きくなること)に陥ったことから、足下では、ユーロの買戻しが旺盛となってユーロ高ドル安が進んでいます。
また、米国債の先物市場では過去最大規模のショートポジションが積み上がっており、投機家らは金利先高観を強めていたことがうかがえますが、想定より金利が上がらないとなれば、このポジションも巻き返される可能性があります。
米国債ショートの買戻しが起これば、米長期金利は低下してしまいます。これも将来のドル安要因につながる一因となります。ドル/円相場は膠着も、対ユーロでは流れが変わってくるかもしれません。