ドル/円相場が110円大台をしっかりと回復してきました。105円大台を割り込んだ3月23日を大底に上昇トレンドを形成しています。一方でユーロ/ドル相場、ポンド/ドル相場などの欧州通貨、NZドルや豪ドルなどのオセアニア通貨は対ドルで下落しています。 先週のコラムで新興国通貨の下落が懸念されると書きましたが、今、為替市場で起こっていることは「米ドルの独歩高」です。何故米国の通貨ドルが独り勝ちとなっているのでしょうか。

ドル高の背景は「金利」です。米国の長期金利は3%の大台を幾度となく試す展開となっていましたが、昨晩発表された米国の4月の小売売上高が2カ月連続のプラスとなり、第2四半期の消費も好調である見通しから、米10年債利回りは3.05%まで上昇し、2011年7月以降7年ぶり高水準にまで水準を切り上げる値動きとなりました。この米金利上昇とともに、米ドルが買われています。

しかしながら、米金利は2018年年初に2.4%台からスタートし一貫して上昇基調にあったはずです。ドル/円相場は2018年年初112円台でスタート。米金利が上昇するトレンドにあるにもかかわらず、3月の105円割れ時点となるまで一貫してドル売り円買いのトレンドが続きました。ユーロ/ドル相場も1.200ドル台からスタートし、2月半ばの1.255ドル台までユーロ高ドル安のトレンドを形成しており、為替市場はドル金利に反応薄の展開でした。決して常に金利が為替市場を動かしているワケではないのです。

為替市場の価格変動要因は多岐にわたります。当該国の金利差だけでなく、金融政策や景気動向などのファンダメンタルズが主軸となって動く時期があったり、政治動向や地政学要因などがテーマとなって動く時期があったりと、目まぐるしくテーマが変化します。足下では、日銀がイールド・カーブ・コントロール政策で日本国債の長期金利を0%近傍に据え置く政策を続ける中、米国の長期金利が3%大台へとしっかりと乗せてきたことで日米金利差が主軸のテーマとなってドル高が進行していますが、米金利上昇にもドルが上がらなかった2018年1~3月期の為替市場のテーマは「通商問題」でした。

米国のムニューシン財務長官が「弱いドルは米国にとって良いこと」と発言し、トランプ大統領は大型洗濯機と太陽電池に緊急輸入制限発動。続けざまに鉄鋼やアルミ製品への輸入制限案を発表しました。洗濯機や太陽電池は主に韓国製品を狙い撃ちにしたものでしたが、鉄鋼・アルミは中国、そして日本もその対象から外れないとされました。米国ははっきりと「ドル安」を志向していることを明言し、通商問題に着手する姿勢を明らかにしたのです。こうした米国が打ち出す政策が為替市場の主軸となってしまっていたのです。

2018年は11月に米中間選挙を控えていることから、トランプ大統領は公約実現を粛々と進めています。通商問題もその一つであり、この問題がなくなったわけではありません。ただ、経済制裁を受けているイランや北朝鮮との貿易があったとして、米国企業からの7年間の米国内での販売を禁じると報道された中国のZTE社に対し、米国は「代替策を早急に探る」と制裁の見直しを表明しており、リスクはそれほど大きくないとの安心感が広がったことから、足下では通商問題が為替市場の主軸ではなくなりつつあります。

また、そのほかにも1月9日、日銀が公開市場操作において残存期間10年超25年以下の国債買入を減額したことで、日銀の出口戦略ではないかと金融政策の引き締め転換への警戒が円買いを招いたほか、2月はVIX指数の急騰により株式市場が急落するなどのリスク回避相場となったことなどが一層の円高を演出しましたが、現在はVIX指数も落ち着きを取り戻していますし、日銀の金融政策が市場の話題となることはほとんどありません。

足下では、上昇に勢いがついた米金利が為替市場のテーマとなっていますが、これも今それが熱いというだけのことです。必ずしも金利差だけが為替市場を動かしているワケではありませんので、今後、米金利上昇により株式市場が崩れだせば、リスク回避相場到来で円買いとなる日が来るかもしれません。市場が今、何に注目しているのか、常にアンテナを張り巡らせておきましょう。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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