ウォーレン・バフェット氏が2018年1‐3月期にApple株を7,500万株買い増したことが明らかになるとApple株をはじめ先行きの懸念が強まっていたFANG株にも資金が流入し、米国株式市場のセンチメントが明るくなっています。日経平均も、ドル/円相場がドル高円安傾向を強めた新年度入りの4月からしっかりとした足取りで上昇してきました。2月、VIX指数急騰を引き金に日米の株式相場が急落しましたが、足元ではリスクへの警戒が後退してきたようにも見えます。
一方、為替市場では「バーナンキショック再来」を警戒する声が出てきています。
2013年5月22日、当時のFRB議長であるバーナンキ氏が、FRBによる債券の購入ペースを徐々に減速させるテーパリング開始に言及。これに驚いた債券市場では債券が売られ、長期金利が2%台へ急上昇。株式市場も売りにさらされました。翌日5月23日の東京市場では日経平均が1,143円もの下落に見舞われ、為替市場ドル/円相場は103円台から101円台へと円高ドル安が進行しました。その後、量的緩和政策によって世界に投資されていた資金が米国に還流。これをレパトリエーションと呼びますが、下落が大きかった通貨群は、ブラジル、インド、インドネシア、トルコ、南アフリカなど新興国の中でも財政赤字、経常赤字が大きく、GDP比で見る対外債務が大きい国々でした。当時はこれらの国の通貨を総称して「フラジャイル・ファイブ」と呼んでいました。
そして現在、このフラジャイル・ファイブの通貨群がドルに対して下落が顕著となってきているほか、アルゼンチン通貨ペソの下落が止まりません。アルゼンチンはわずか8日間で政策金利を3回も引き上げ、現在の政策金利は40%。通貨防衛の介入も実施していますが、ペソ安に歯止めがかかりません。トルコも4月の利上げを実施しましたが。通貨リラの下落が止まっていません。為替市場全般に、新興国通貨売り、ドル買いが進行しているのです。背景にはいよいよ上昇が本格化してきた米国の長期金利動向があげられますが、利上げや通貨安防衛の介入も効かないという、その下落のスピードが懸念されているのです。
米国の長期金利は4月に3%の大台に到達。足下では2.9%に緩んで揉みあっていますが、原油価格の高騰などから見ても金利上昇圧力が強い状況に、世界のマネーの潮流に大きな変化が現れ始めたということでしょう。日銀がイールドカーブコントロール政策で日本国債の長期金利をゼロ近傍に固定しているため、日米金利差は拡大のトレンドにあります。金利差だけを材料にするならば、ドル/円相場は買い、ということになるのですが、バーナンキショックの再来を警戒する向きがあるように、新興国通貨下落の連鎖が、世界の景気を冷やし、株式市場へと波及するリスクがないわけではありません。株などのリスク資産が売られる「リスクオフ相場」となれば、対外純資産が大きく、ゼロ金利政策下で海外に投資せざるを得なかった日本マネーが日本へ還流する「レパトリエーション」が起きる懸念が出てきます。現在、ドル/円相場が比較的強いのは日米金利差拡大というドル高要因が背景にありますが、ユーロ/円やポンド/円、豪ドル/円、NZドル/円といった「クロス円」通貨が軒並み下落していることが気がかりです。ユーロやポンド、豪ドル、NZドルもまた、米ドルに対して弱いということですね。本当に強い「リスクオン相場」なら、円を売って外貨を買うキャリートレードが活発化するためクロス円通貨は上昇するのですが、現在はそのような状況にはないということです。足下の株価の上昇はバフェット砲に乗せられた印象も。堅調な株価に気が緩むと足元をすくわれそう。今週は、5月9日3時にトランプ大統領がイラン核合意に関して米国の立場を明らかにするなど政治的なイベントにも注意が必要です。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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