ドル/円相場の下落圧力が止みません。米国長期金利上昇でもドル/円がこれに相関せずに下落してしまう背景に、本邦機関投資家の米国債処分があるようだ、と先週のコラムに書きましたが、最新の「対外及び対内証券売買契約等の状況」(財務省)を確認すると、2月18日から24日までの週、本邦機関投資家の海外の中長期債券投資動向は2,000億円あまりの買い越しとなりました。その前の週まで3週連続で合計2兆3,500億円近くも売り越していましたが、ようやくその流れが止まったのでしょうか。3月年度末決算に向けてのポジション整理の動きだったと思われますので、3月中はまだ気が抜けません。

もし、本邦勢の外国債券処分による円高が止んだとしても、今度は投機筋が積み上げたドルロング(ドルの買い越し)の解消の波が押し寄せてくるかもしれません。2月27日現在の最新のIMM通貨先物ポジションの投機筋のドルの買い越しポジションは9万6,651枚も残っています。

昨年9月以降のドル/円相場上昇時には14万枚近くにまでドル買い越しが膨らみましたので、それから見ればかなりポジションの偏りは解消されてきていますが、それでもまだ10万枚近く残っています。為替市場における先物ポジションは決して大きくはありませんが、売り買いどちらかに10万枚近いポジションの偏りが生じている場合、将来的にこれが解消される過程で相場が逆方向に大きく動くリスクが存在していると考えることもできます。いずれかのタイミングでは先物のポジションは決済を迫られるのです。問題は、それがどのタイミングなのかがわからないことですが、どうやら現在、投機筋がそのドルロングを解消する流れが生まれているようです。

2016年夏場、ドル/円相場が100円近くをうろうろする円高圧力が大きかった時期は、ドルショートが6万枚を超えていました。今とは真逆ですね。ドル/円相場がさらに下がるとみて、投機筋は円買いを膨らませていたのですが、その思惑は見事に外れてしまいます。トランプ大統領誕生後のラリーで、一気にドル/円相場は17円もの上昇となり、ドルショートは買い戻しを余儀なくされました。投機筋は一転、新規でのドル買いを積み上げる猛烈なポジション反転のトレンドが形成されました。およそ12週間にも渡ってポジション解消、途転ロングのトレンドが続いたのです。

この時と比較しても、現在の投機筋のポジションはまだまだ高水準のドル買い越しが残されたまま整理がされていません。こうした環境の中、米国トランプ政権は通商政策問題に本格着手。脆弱な金融市場のセンチメントを悪化させています。1月に米国のムニューシン財務長官は、「明らかにドル安はわれわれにとって良いことだ。貿易や各種機会に関わるからだ」とドル安を歓迎する姿勢を示しています。後に火消しに回るのですが、市場はこれを米国の本音だと受け止めています。先週はトランプ政権が米国への鉄鋼輸入の制限の実施を表明しました。

そして、日本です。先週2日、黒田日銀総裁が「(物価目標は)2019年度ごろ2%程度に達するとみている」という発言が前提ではあるものの「当然のことながら出口というものをそのころ検討し、議論しているということは間違いない」と語ったことが円高を招きました。これまで出口論について語るのは時期尚早であるとしてきた黒田日銀総裁のスタンスの変化に、為替市場は敏感に反応しました。日米双方からドル売り円買い材料がそろってしまった現状においては105円割れの円高ドル安の可能性は高まっているとみています。今週は、豪州、カナダ、欧州、日本の金融政策会合が予定されており、週末は雇用統計。ドル/円の反発局面もあるかと思いますが、上値は限定的となるのではないでしょうか。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

TwitterAccount

@hirokoFR