2月はアノマリー的には円高になりやすい月と 1月30日のコラムで取り上げましたが、実際にドル/円相場は109円台でスタートし、2月16日には105.50円台まで円高進行となりました。生命保険会社などの本邦機関投資家の外債投資において、特に2月と8月に償還期限がくる米国債の償還・利払いの影響が意識されることが背景とされていますが、現実には償還分は再投資されることが多く、換金され日本へ戻ってくるマネーはそれほど大きくないとみられ、実際の需給からはこれが円高圧力ではなくなってきていると指摘される中、投機筋がこれを材料に円買いを仕掛けることが2月の円高の要因、というのがこのところのマーケットの認識でしたが、今年はどのような状況だったのでしょうか。
財務省の対外及び対内証券売買契約等から、日本勢(本邦機関投資家)の外債投資の動向を確認することができます。これを見ると日本勢は1月最終週から2月17日までの3週間に渡り外国中長期債を累計2兆3,850億円も売り越していることが確認できます。売り越しというのは、外債を買った金額総計と処分(売却)した金額の総計を相殺した時に処分された金額の方が大きかった、という状態です。そして、この2兆円を超える外債の処分によってドル資産が円に換えられているとするならば、足下の円高は日本勢の外債処分によるものだったという可能性が否定できません。
円高になってきていますので、外債買いには好機のはずですが、なぜ日本勢の外債売り越しとなっているのでしょう。
外債を処分しているところばかりではありません。先週は明治安田生命が、1月後半からオープン外債での投資を開始したことがニュースになりました。
明治安田:オープン外債開始、円高進行で年度初-「我慢よかった」
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-02-21/P4G0Y96KLVRH01
(ブルームバーグのウェブサイトに移動します)
オープン外債とは、為替ヘッジを付けない形での外債投資です。米国債を買う際に資金をドルにする必要がありますが、その時点からドル安が大きく進んでしまうと為替変動分の損失が出てしまうため、同時に為替市場ではドル売り円買いのポジションを作り、外債投資の為替リスクをなくしてしまうことを「為替ヘッジ付き」外債投資といいます。オープン外債とは、この為替ヘッジを行わないで外債を購入することを指します。ゼロ近傍に固定されてしまった日本国債では運用利回りが期待できないため、日本勢の2017年度下半期の運用計画では、オープン外債を含めた積極的外債投資に踏み切るというところが増えていました。
足下の円高局面で、計画通りに外債投資をスタートしているところがある一方で、これまで保有していた外債を処分しているところがあり、その金額が購入額を大きく上回っているというのが現状で、オープン外債投資によるドル/円上昇の効果が限定的であるだけでなく円高の要因とさえなってしまっているのですが、、、。
これは2月のアノマリーというよりも、3月期末が意識され始めていると考えられます。日本勢は2016年、トランプ大統領が誕生する前にドル/円相場が100~103円台水準で、米長期金利が1.7~1.9%台で推移していたころに、ヘッジ付きの外債投資を行っていました。その後、トランプ大統領が誕生し米長期金利は急騰。金利が急騰するということは債券価格が急落しているということですので、このころの米国債投資は債券価格下落で大きな損失が出ていると想定されています。また、円高リスクに備えて100~103円台で為替ヘッジしていた(つまり円買いをしていた)分は、その後118円台までドル/円が上昇する過程では大きな損失となっていたと考えられるのです。
為替ヘッジ分については、このところ円高進行で幾分損失は縮小していると思われますが、現在の米長期金利は2.9%台ですので、その当時の債券投資分は損失が膨らんでいく一方です。足下で外債売り越しが膨らんでいるのは、このころの外債投資の損失を処分しているのではないかと思います。
日本企業の多くは、3月が決算月。期末、決算月が近づいてきていることでポジションの整理が行われている可能性が高く、この流れは金利上昇が続けばまだ終わらないかもしれません。このところ、米国の金利が上昇し、日米金利差が拡大してもドル/円相場が上がらないのはなぜか、盛んに議論されていますが、その裏には、金利上昇で損失が膨らむ日本勢の外債投資の処分が行われていることが影響しているのでしょう。こうした損切が一巡しないことには、金利上昇はむしろドル/円下落を招くリスクです。今後も長期金利動向には注意が必要です。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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