前回はアップルはじめ米国企業が「HIA2:本国投資法第2弾」によって海外資産を米国に還流する「レパトリエーション」が為替市場にもたらす影響について考察しましたが、今回は、例年のサイクルとして、企業や機関投資家らの決算に絡むレパトリエーションが為替市場にどのような影響を及ぼす可能性があるのか、アノマリーをご紹介しましょう。

アノマリーとは、「現代ポートフォリオ理論の枠組みでは説明することができないが、経験的に観測できるマーケットの規則性」のこと。マーケットには月別の騰落率などの統計がありますが、年間の値動きの癖を知っておくことも大切です。

レパトリエーションとは、海外で稼いだ利益を本国に還流させることを言います。外国で稼いでいる企業が多い国はこの影響が大きくなります。米国は世界展開の多国籍企業が多いので、米国企業によるレパトリエーションは、為替市場に及ぼす影響力も大きくなりますね。

一般的な米国企業の本決算は12月。本決算に絡んでは、利益を決算に計上するための利益確定による決済と本国送金(ドルに換える=ドル買い需要)が出やすいとされています。
日本経済新聞の記事によると、ドルの総合的な実力を示す日経通貨インデックスが2016年までの過去10年間で11月末から12月末にかけてドル高となったのは7回。特に直近4年間はいずれもドル高の年となりました。2016年はトランプ大統領誕生で金利が跳ね上がった影響もあり、必ずしも年末のドル需要が背景ということではありませんが、アノマリーとしては確度の高い材料です。(昨年2017年は欧州の出口が意識されたユーロ高によりアノマリー通りの展開ではありませんでした。)

1月は特にレパトリエーションが意識される月ではありませんが、1月は「1月効果」というアノマリーが意識されます。1月の相場の値動きがその年1年間の方向性を占うというもので、1月にドル/円相場が上昇すれば、年間通じてドル高。1月に下落すればドル/円相場は下落するということになります。現状では、ドル/円相場は下落基調にあり、2018年の1月効果アノマリーからはドル/円相場は年間通じて円高基調となると予想することができます。

そして、2月。アノマリー的には円高になりやすい月とされています。実際1995年~2017年のドル/円相場で、ドル高となったのが9回、円高となったのが14回。圧倒的に円高となった年が多かったことが確認できますが、この背景にあるとされているのが、米国債の償還・利払いです。

米財務省が1月17日に発表した11月の日本の米国債保有残高は1兆800億ドル。本邦財務省発表の日本の12月末の外貨準備高は1兆2,642億8,300万ドルですので、日本は外貨準備のほとんどを米国債で運用していることが確認できます。日本の外貨準備だけでなく、日本の機関投資家なども多くの米国債を保有していますから、歴史的に米国債の利回りが低水準にあるとはいえ、利息額は巨額であることには違いありません。

債券の満期日には債券保有者に額面金額を払い戻さなければなりません。これを償還と呼びます。もちろん、利息がつきます。つまり、米国は償還日には利息を付けて償還金額を払う義務があるということ。米国債は2月、5月、8月、11月と四半期ごとに償還期限が集中しますが、特に2月と8月に大量に償還期限が来るのです。償還分のドルが円に換えられることで円高圧力が強まる、とされているのですが、昨今は米国債が償還されてもそれが再投資されるケースが多く、実際には為替市場で円転による円買いはあまり多くないとの指摘もあります。昨今、米国債よりも安全で比較的高い利回りが確保できる投資先は少ないことから(日本国債も欧州債も利回りは米国債よりも低いですね)機関投資家らの運用難が指摘されていますが、結局一番安全で運用利回りも確保できるのは米国債であるということですね。

では、現実には再投資がほとんどとみられ、円転による円買いの需給要因は発生しないと思われるのに、過去の統計では2月に円高進行するケースが多いのは何故でしょう。

おそらく、米国債の利払いを「材料」として、投機家らがドル売り=円買いの仕掛け的なトレードを行うためだと推測されます。現実には、米国債の償還、利払いが相場に与える影響は大きくないとしても、過去のアノマリーからこの時期には円高となりやすいという統計があるため、この材料に乗ってトレードする投資家が多いことが円高につながっていると考えられます。今年も必ずそうなる、というものではありませんが、2月冬季オリンピック開催中に市場を取り巻く材料に乏しくなれば、このような経験則、アノマリーに沿った値動きが出やすくなるということを覚えておきましょう。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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