医療と年金・保険という国の財政における二大分野は一人当たりGDPと明確に比例します。今後中国は圧倒的に遅れている医療改革と国民皆保険が政策の重要な柱であり、中国政府の政策主導で大きな業界再編を伴いながら大きく成長していくことが予想されます。一人当たりGDPが3,000ドルを超えたばかりの中国はおよそ日本の大阪万博の時期にあたり、以後は急速に一人当たりGDPが延びて行くフェーズに入ったところです。韓国や台湾でも一昔前に、この位置からあっという間に1人1万ドル経済へと駆け上がりました。ちなみにGoldman Sachsのレポートによると、中国のGDP成長が堅調に推移し、人民元が年間3%切上げるとの仮定に基づいて、中国の1人あたりのGDPは2010年に4,220米ドル、2020年には、14,000米ドルになると予測しています。

ところで、中国の一人当たり医療支出を見ると、現状ほとんどは都市部の60歳以上の人々の支払額が圧倒的に高くなっています。それに比べて60歳以下の人はほとんど医療支出を行っていません。そして中国の人口構成は中太りの「ちょうちん型」であり、45歳前後が最も多く、上下にあたる老人と若年層が非常に少ない形です。今後は医療支出の大半を占める60歳以上ゾーンへどんどん人口が流れて来るのは時間の問題であり、統計通りなら医療支出総額は加速度的に大きくなります。また都市部より人口の多い地方では、大きく開いた都市部との医療支出格差を縮めるべく一人当たり医療支出が増し、市場規模が大きくなっています。もちろん経済成長に伴い一人あたり所得の上昇という根本要因もあります。これらから中国の医療市場は今後20年間に世界で最も急速拡大することは火を見るより明らかです。

スイスのノバルティス、米ファイザー、英グラクソスミスクライン、スイスのロッシュ、仏サノフィーアベンティスといった、時価総額10兆円に迫る規模の世界ベースで見た巨大製薬メーカーに比べ、中国や香港の製薬会社は比較にならないほど小さいレベルです。売上数百億円規模で中国のトップ30社に軽く入ってしまう現状です。売上げの一部が研究開発費に回ることを考えれば、欧米の製薬会社と比べて中国の製薬会社の研究開発費は非常に少なく、中国の製薬会社はクリエイティブな医薬品を作れるレベルにはありません。製薬会社の新薬と言っても似たり寄ったりで大きな差はないのです。したがって、中国の場合、営業力が優れた製薬会社が、優れた企業といえるでしょう。業界再編について、中国は2004年には製薬会社にGMP取得を義務づけるなど、一定の基準を満たさない製薬会社の淘汰を進めてきました。この過程によってもともと5,000社ほどあった中国の製薬会社は2008年には3,500社まで減少しています。今後、業界全体の質を高めるために(そして医療費を下げるために)さらに再編が進められ3,500社が今後1,000社ぐらいに、さらに絞られていくでしょう。しかし淘汰されていく中では逆に淘汰される企業のシェアを飲み込んで成長していく企業もあるわけで、競争力が高い企業はますますシェアを拡大していくことが予想できます。

実際のところ、目先では製薬業界に注目が集まってきており株価は急騰しています。拙著「大化け中国株」(小学館より出版)の推奨銘柄の中でおすすめ度を唯一最高ランクの5つ星にした山東羅欣(8058)は掲載時の株価は6.4HKDでしたが、5月14日の前場の引け値では+90%の12.16HKDまで上昇しています。ちなみに直近6営業日だけをみても、50%以上株価が上昇しています。そのほか、聯邦制薬(3933)、神威薬業(2877)、東瑞製薬(2348)、利君医薬(2005)などの優良製薬会社もここに来て大きく上昇しています。ここまで株価が上昇してもまだ割安な会社もありますから、株価が少し落ち着いたところで狙ってみても面白いかもしれません。